裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

日曜日

俺たちにアヌスはない

 人工肛門装着者たちの会。朝、7時20分起床。朝食、五郎島金時。メールチェックいろいろ。一月の『爆笑問題のススメ』収録時間の件、昨日の文芸春秋巻頭随筆の件の問い合わせの答えなど、やはりどこも年末は日曜日も何もなしか。逆にいうと、私は今年は日曜日でも年末はなし。これまでは最終週までになんとか仕事は切り上げて、新年を迎える大掃除やなんかをやっていたのだが、今年は原稿がみな年越しで続き。一年のくぎりをとてもつけられない。部屋は乱雑のまま、ゴミも何も出さずに新年を迎える。と学会原稿、社会派くん本、トリビアレディースコミック、GONの原 稿など、すべてが終わってからが私の新年。

 と学会原稿、6本目を書き上げて12時までにメール。し終えてから、いろいろと雑用すませ、身支度して、いざ、という感じで、新宿に向かう。伊勢丹古書市にひさしぶりに行って、資料購入。K子から、資料費を貰って、領収書のことなどを言い含められている。女房、いや、会社の経理部長公認での古書買いであって、豈武者震い せざるを得んや。

 暮れの新宿は日曜ということもあり、人出凄まじ。エレベーターで本館6階催事場へ向かう。書棚の前へと足をすすめ、さて、と鼻息荒く棚をながめる。しかし、すぐにその場の雰囲気になじんでしまい、のんきに本を手にとったりなんだりしている自分を発見。いやいや、今日は趣味の本買いではないのだ、資料を資料を、と、性関係文献やなんかを、ざっ、ざっと言う感じで買い物カゴの中へ入れていく。紙オモチャなどを並べているケースもあり、それもまとめてカゴの中へ。一旦、壁際の台の上で値段を計算、頭の中でカチャカチャ計算し、そのカゴをレジに預けて、再び突進、あののもののと買い込む。9日のロフトの素材になるようないいものを、かなり安く手に入れられて、御機嫌。しかし、十年前とかなり自分の古書に対する嗜好が変わった なあ、と実感。 レジで計算してもらっていたら(細かいものが多かったので時間がかかる)、隣で やはり計算してもらっていたおじさんが、私の顔を見て、
「あ、カラサワシュンイチさんですね? ガロの頃から読んでますよ」
 と声をかけてきた。それはそれは、御愛読どうも、と頭を下げると
「最近は“へぇ”でだいぶ稼いでいるんじゃないの?」
 と言ってくる。やがて自分が買った映画のスチールを見せてくる。少し困ったな、と思うのは、こういう人に限ってウスウスの自分の趣味を自慢したがるものであるからだが、見たら『女番長・玉突き遊び』だったので、ホウ、と思う。こういうものの コレクターなら話がやや、あるかも知れない。
「この女優、星まり子って言って主題歌も歌ってるんですヨ」
「あ、『泣くなオッパイちゃん』ですね」
「お、さすが、知ってますね」
 などと、一般人の寄り付けないような話しばし。私の精算を待っていて、名刺を渡してくれた。古書コレクターの名刺で、映画関係、マンガなどではちょっと知られて いる、との自己紹介であった。

 伊勢丹を出て、紀伊国屋方面に向かい、地下のうどん屋でぶっかけを啜り込んで、お昼にする。それから、DVDコーナーに向かい、これも来年の河出書房の本の資料になるものを、ザバという感じで買う。……もっとも、さすがDVDは欲しいものをドカ買いすると、あっという間に経費オーバーしてしまうけれど。両手に重い紙袋を下げて(伊勢丹のはほとんど配送してもらうことにしたが、やはり持てるだけは自分で手に持って家に帰りたい。これは狩猟本能みたいなものである)、ヨイコラショと 言う感じで帰宅する。

 メールまたいくつも。金沢のメトロン星人ことS井さん、以前お仕事したマイクロフィッシュ、その他非常にバラエティに富んだ方々から。『パブリックスクールライフ』同人誌、出せば買いますという人が二人もいた。あと十八人。“どうすれば本がたくさん読めますか”という質問もあったが、その人は一年に五十冊も読むという。私は仕事で読む本は別として、好きだというだけで読む本は、年に三十冊にも満たないのではないか。逆にその人にどうやったらたくさん本が読めるか、聞きたいくらい である。

 札幌に送る荷物をクロネコヤマトが取りにくる。腰に、集荷データを本社に送るための送信機をつけているが、作業中に、その送信機が“イライノ、デンワガ、ハイリマシタ。ホンシャニ、テンソウシマス”などとしゃべるのに仰天した。それも昨日の芝居で柳家一琴さんが演じていたロボットみたいな機械しゃべりである。ああ、21世紀なんだなあ、と感動。しかしながら、その連絡を受けた集荷員が、荷物を“よいしょっ”と台車に乗っけて運んでいくのはずっと昔から変わらない。9時、タクシーで下北沢、『虎の子』。今年のここでの飲みおさめ。それにしても、野菜の会だ何の会だと、口実をつけちゃあよく集まって飲み食いした一年であったことよ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa