裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

水曜日

タイムマシンに箱買い

『タイムスリップグリコ』、とうとう箱買いしちゃったよ〜。朝、7時30分起床。朝食、タリアテーレのトマトソース。メールチェックなどしながらCD『コロちゃんのチャンバラ大行進 スーパー時代劇レアリティーズ』聞く。こないだの平成オタク談義でネタにした舟木一夫の『快傑!!児雷也』(渡辺宙明・作曲)が入っている。 これがCDで聞けるとは、いい時代になったもんだと感嘆。

 と学会の原稿二本目にかかる。今回は二冊刊行ということで私の担当がコラム含めて二十本もあり、それのまだ二本目なのだから前途茫洋。しかも、今書こうとしている本が内容的には雑多なネタの寄せ集め的なものなので、どこからどう取り上げるべきか、非常に悩み、書き出しあぐねていた。何とか私事を頭にもってきて、読者への アイキャッチにすべく形をつける。

 昼は8番ラーメン。毎年夏コミ前と冬コミ前は金沢のS井さんからのこの到来もので生き延びるのであるが、今年は半分を独身東京生活を開始したナンビョースズキくんにK子があげてしまったので、これが最後のひと玉である。キャベツと小タマネギ をスープで茹でて、野菜ラーメンにする。

 講談社『FRIDAY』から最終ゲラチェック。ちくま書房から『お早う! 中年探偵団』への新刊プレゼントのことについて。某映画製作会社から電話。松尾スズキ監督の映画で、マニアックな漫画喫茶のような場面があるのだが、そこのシーン撮影用に私の所蔵している漫画本を貸し出してくれないかという話。青林工藝舎からの紹介だとのこと。映画への協力はやがてお互いさまなので、OKの返事。ただし、冊数はもっと欲しいというので、知人の漫画本大量所有者にメールでお願いする。

 2時半、家を出て京橋片倉キャロン地下映画美学校試写室。原田智生監督『牙吉』試写。20分前に着いたのだが、すでに満員の盛況。なんとか席を見つけて坐る。肩をポンと叩かれたのでよく見たら林家しん平さん。他に見渡すと、氷川竜介さんご夫妻の姿あり、金子吉延さんの顔あり、ショッカー大野氏もいた。いやに顔見知り度の 高い試写である。

 映画は一口に言うと『ミディアン』の時代劇版。いかにも特殊造形家の原口さんの好みそうな話である。主演の原田龍二の存在感、役者としての、というより肉体的な存在感が凄い。他にも潮健児と成田三樹夫を足して二で割ったような顔の山口幸晴、くの一もののビデオで顔を覚えた東田達夫、笑い顔の口元だけで絶対役には不自由しないであろう本山力、ゲスト出演の劇団新感線逆木圭一郎、なんと六八年の『妖怪百物語』で白粉婆をを演じ、今回も同じ役で登場する山村嵯都子と、主に京都撮影所の個性的な顔の役者が多数登場して画面を“映画”ぽくしている。CGを用いず、昔ながらの着ぐるみ、吊り、そして火薬の爆発と、あくまでもアナログな撮影にこだわっているのも、かつての日本映画の質感を再現させたいという監督のこだわりだろう。そう言えば、京都で撮影した時代劇と言えばここ、という流橋のススキ河原は、この作品での撮影を最後に護岸工事で埋め立てられてしまったとか。いったい、国は何を “護”ろうというのだろうか?

 なをき夫婦が賭場の客に扮して近藤ゆたかさんなどと一緒に特出。好きだね、こういうのが、と苦笑。終わって出て、監督に挨拶。役者の顔がいい、というと
「中でもいい顔の人がちょっとだけ……」
 と笑う。確かに田舎の百姓の次男坊かなにかでバクチでふんだくられているばかりのダメ男、のような顔になっていた。脇にいたしん平さんが
「ラストのあそこね、あそこで妖怪たちがもう少し……」
 とか言い出すので、
「それはカネのある映画への文句! こういうギリチョンの予算の作品に言ってはいけません!」
 と叱る。監督は苦笑していた。いや、じっさい、この映画を見て、じれったく思った映画マニアの大金持ちが、原口監督に10億くらいポケットマネーでプレゼントしないものか。一個人としては、脚本、カット割り、演出、それから女優陣の滑舌等々に不満は噴出なのだが、それは映画好きなるが故の、“ここをこうすりゃもっといいのに!”というじれったさに因するものがほとんど。とりあえずそれは監督の日本映画への入れ込みに免じて、今は口にしないでおきます、とにかくヒット祈願! とだ け言っておく。

 しん平さんの企画映画のデザインをちょこっとだけ見せてもらう。雨宮さんリキが入っている。思わず褒めると、しん平さんの顔がグニャ、とほころぶ。娘の写真を持ち歩いている親父の顔だな、これは。それにしても、原口さんもしん平さんも、映画制作という病は重病。かつての杉本五郎氏の、“コレクターは病人、コレクション対象物はお薬。金がいくらかかっても、それで生活が破綻しても、病気ならお薬をのまなければ仕方がない”という言葉が頭に浮かぶ。映画にもこれはそっくり当てはまる 名言であるな。

 明治屋に寄って、明日の朝食の素材など買って、地下鉄で帰宅。満席の中でゆれているうちに、原稿の書き進めに関する打開案を考えつく。メール数件。ロフトプラスワン斎藤さんからは、笹さん、川上史津子さんとの短歌ライブの件で。明年2月15日(日)に日取り決定。『念力家族VS.えろきゅん 新世紀トンデモ短歌会』というタイトル。内容もまだ決めていないので、とりあえず
「念力の少女の詠める五七五七七聞けば胸もえろきゅん」
 と短歌もどきを詠んでおく。こういうのはすぐ出るな、私も。あと白夜書房の『賞とるマガジン』なるところから、このサイトを雑誌で紹介したいというお願いメールあり。

 原稿、打開案に従って書き進め、なんとか規定枚数までいい具合でまとまる。8時半、家を出てNHK西門前『船山』。京はクリスマスディナー。いつものリョウくんと違う若い子がコートをとってくれるので、新しい店員かと思ったら、リョウくんが休みをとっているので、ピンチヒッターのアルバイトに来ている、船山さんの次男坊(高校一年)だとのこと。さすが船山さんの子供だけあって、高校一年とは思えないくらい背が高い。背が高い上に、いまどきの男の子らしく小顔なので、何か菜箸を立てたみたいだ。趣味は天体観測、というからまた正統派な純粋高校生男子。

 クリスマスディナーと言っても和食屋さんなので、クリスマスらしいのは先付の、雪だるま(サトイモ餡で作ったもの。ゴマの目鼻に小梅の帽子)と、飾りのヒイラギくらい。あとはいつもの地魚のお造り(オニカサゴ、カンヌキサヨリ、ヤガラ、シメサバ、黒ムツ、ホウボウ、石鯛それぞれ一切れづつ)、焼きタラバガニとメヒカリ、合鴨のしゃぶしゃぶ、烏賊と胡桃の掻き揚げ(+カマンベールしそ揚げ)、鮭はらすご飯。デザートはイチゴのワインゼリーと葛切り。隣の席のお客さんが初めての人らしく、全ての料理に、男性の方は“凄い”“おいしい”、女性の方は“きゃあ”“うわあ”と叫んでいた。こっちはそういうのを見ながら、ベテランらしく悠々と、などと思っていたが、鮭はらすご飯には思わず“きゃあ”と叫びたくなった。

 次男坊のハヤトくんをK子がさんざんオモチャにして、10時半帰宅。と学会本用原稿、すでに完成しているのだが、注の部分がまだなので、アップは明日になるか。阿部能丸くんからはお芝居(志らくのとこの)の案内。次の舞台では高橋克実と“離風霊船”以来ひさびさに一緒になるとか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa