裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

金曜日

戦場のナルシスト

 ああ、敵に向かって銃をぶっ放しているボクはなんて美しいんだろう。朝、7時半起床。K子に朝飯用のパンを買い忘れたので、パスタ(ホウレンソウと卵の二色タリアテーレ)を茹でる。私は五郎島金時だが、パスタも少しお相伴。果物はリンゴ。年 賀状区分け昨日に引き続き。

 日記は後回しにして、原稿書き始める。昨日半分書いた原稿は、書いていくうちに蛇足なつけたしとなることがわかり、ばっさりカット。ここ、非常にノッて書いた部分で、テンポよしギャグよしと自讃していたところだったが、全体の構成には替え難し。ある程度の長さの文章なら、本筋からの逸脱もご愛敬なのだが、12〜3枚程度のものでは、そんなことをやっていてはアッという間に紙幅が足りなくなる。結局、12時までかかって13枚書き上げ、アップ。これでまだ5本目(担当書籍数は19本!)というのが情けない。もっとも、書評するはずが書棚で行方不明になり、どうしようかと焦っていた本は無事古書店への問い合わせで見つかり、至急送ってもらえ ることになって、一安心。

 原稿書いているとき、グーグルで某単語を検索しているうち、エデション・シナップスなる出版社から出ている『反フェミニズム:ヴィクトリア朝時代小説選集』というのがあることを知った。19世紀に大きく広がった女権拡大運動に対し、フェミニスト運動家たちをつよく批判、攻撃した英国保守派の主張やその社会への影響を彼らが書いた小説でたどる叢書だそうである。非常に面白そうである。他にここの出版目録を見ると、『パブリックスクール・ライフ〜19世紀英国学園小説復刻集』だの、『子供のための科学読本〜19世紀英国文献集成』だの、『ヴィクトリア朝産業デザイン・技術教育百科』だのといった、ゾクゾクするようなタイトルのものが並んでいる。値段はどれも10万円から13万円代と高いが、資料として揃えておいてソンはなかろう、と思い、注文メールを出そうとして気がついた。……これらはみんな、原書の復刻であり、邦訳ではない! うーむ。19世紀の英文を原著で読み通す自信はちょっとない。しかし、『パブリックスクール・ライフ』などは、以前『JUNE』で連載を持っていた頃、ここらの作品をにちと触れたこともあって、無茶苦茶に気になる。しばらくの間、モニターの前で“買うたやめた”音頭を踊ってしまった。結局はも少し考えようとなったが、いつか買ってしまうことは確かだろう。買って一年かけて訳して同人誌を出そうか、とも思う(そしたらその同人誌買う、という人が20人集まったら即、買います)興味のある向きは下サイトの、英国・アイルランド研究 のコーナーのラインナップを参照のこと。
http://www.aplink.co.jp/synapse/

 それから引き続き、アスペクト『社会派くんがゆく!』対談のチェック。本来はここの単行本用コラムも年内に書き上げる予定だったのだが、今のスケジュール進行具合ではちょっと無理なり。その旨、編集のK氏にメール。対談チェック自体は楽しい作業。京都の小学校マーズ・アタック事件から“真の自虐史観のススメ”まで、さま ざま。更新は来年の三が日明けくらいらしい。

 昼飯はレトルトのご飯を温め、QPハニー氏からいただいた烏骨鶏の卵の残りを使い、ミソタマゴを作って。小さいので二個でご飯一杯にかける分くらいしか作れないのだが、ネギとニラをうんとぶち込んだにも関わらず、卵の味がミソや香味野菜に負 けていない。さすが烏骨鶏と感服。

 食べ終わって、東武ホテルに向かう。映画『恋の門』制作会社シネバザールの人、映画美術関係の会社京映アーツの人。撮影用の本の貸し出しである。こないだ、ここを青林工藝舎からの紹介と書いたが、漫画家の河合克夫さんからの紹介であった。自宅へ案内し、第三書庫の本を見せ、貸し出す。運搬用の大きなカゴをいくつも運びこみ、棚にシールを貼って確認しながら(元の並べ方の写真も撮影しながら)詰め込んでいく。手際になかなか感心。本当はもっとわかりやすい手塚治虫とかの初版本が欲しいらしいのだが、“個人コレクターでそういうもの貸してくれる人はほとんどいないと思いますが”と言っておく。ウチのいま、ここの仕事場にあるマンガ本はせいぜいが書棚五本ぶんくらいだが、やはり持ってきたカゴには入りきらず、少し残して、あとは正月明けにでも、と言って帰っていった。これが新手の本ドロボウの手口だっ たら面白いな、などとふと(疑ったわけではないが)思ったり。

 仕事続き。上海中国伝統音楽オーケストラ演奏による楽曲、呉小平作曲『便秘』を聞く。凄いタイトルだが、これは中国の“現代心身疾病保険音楽”シリーズのうちの一曲で、これを聞くことで精神の失調が快復し、腸機能が改善されて、便が通ずるようになるというもの。セクション1が“氣滞(伝導阻滞)便秘適用”、セクション2が氣虚(推動無力)便秘適用”なのだそうだが、どう違うのかよくわからん。音楽自体は胡弓の音色の軽やかな、いい感じのものである。有効率はなんと86パーセント に達し、注意事項には
「本樂曲不宜用於大量脱水(如大汗、腹瀉)、高熱等原因導致的便秘」
 などと恐ろしいことが書かれているが、別に聞いてる最中あわててトイレにかけこむこともなし。

 仕事自体は筆が進まず、便秘状態。8時、家を出て、東北沢『和の○寅』。講談社Web現代の『近くへ行きたい』打ち上げ兼、忘年会。われわれ夫婦に担当Yくん、単行本担当N野くん、レイアウトN山さん、前担当のIくん。Iくんは奥さんがいま出産予定日三日過ぎ状態で、携帯で陣痛の知らせがあったら帰らねばならん、というような状態。Yくんに次の連載の企画案を手渡す。Iくん読んで“芸風変わりましたね! こりゃ「役に立つ」情報じゃないですか”と言うので、イヤそれを役に立たなくさせちゃうのが芸なンですと答えておく。他に、Yくんの犬の話、ベギラマの結婚相手の話、アバレンジャーの話、さらに河合克夫氏の話など。幸い、食事中にIくんがパパとなることはなし。女の子であることは、すでにスキャンなどでわかっているという。名前を考えねばならん、というので、Yくん、
「そりゃ当然、芽知恵(Iくんは現在メチエ選書部門)でしょう」
 と。他に、勤め先にコビを売るなら佐和子だろうとか、華倫変の生まれ変わりかもしれないから華倫はどうか、とか(こりゃちと怖いな)。

 今日の料理はまずいつもの先付、刺身盛り合わせ(ウニと鯛が結構)、ウナギとゴボウの柳川風鍋、マグロのカマ焼き、卵焼き。カマ焼きの風味抜群。それと名物のイクラ焼きに、昆布茶漬け。酒は能登の伝兵衛をガブガブという感じで。うまいが、ここは酒をおいしくするために料理が塩気多めの傾向がある。薄味過激派のK子には、も少し塩を控えてもらった方がいいか。白菜、カブ、セロリの揉みサラダ(プチトマトつき)が出たが、このプチトマトが甘くて千両。この店のお母さんが今度、自分のコーナーをサイトに持って、戦前の小料理屋の話など(お父さんの晩酌にいつもつきあっていたとやら)をエッセイ風に書くという。これは戦前ばなし大好きな私にとりうれしいものになりそうである。9時半、お開き。メール等チェックして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa