裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

土曜日

題名のないと学会

 と学会新刊、いまだ正式タイトル決まらず。夢うつつの中で、黛敏郎の名前をど忘れして、うんうん唸っていたところでヒネリ出したシャレ(なのか)。ノド元まで出てきて、そこで何かつっかえたような感じになって思い出せない。そのつっかえを取ろうとして、“あ、思い出した!”とつぶやいてみる。思い出した気になってみたのである。そしたらなんと、スラッとマユズミトシロウ、と出てきた。脳の中で記憶をせき止めていた妖精が“なんだ、思い出しちまったか”と騙されて向こうへ行ってし まったような感じ。不思議なものである。

 それもあって、朝4時に目が覚めて、パソコンの前に坐って日記つけなどする。6時半にまた布団に入り、7時30分、起床。朝食が五郎金時、デコポン半分。ノドがいがらっぽい。K子はごほごほとうっとうしげに咳をしている。夫婦で風邪ひいた。仲のいいことである。メガネのツルがゆるんだので精密ネジで締める。考えてみればこの精密ネジ6本セットは私が学生時代に、パチンコの景品でとったものであった。 ずいぶん古い。それにしても、変なものが景品にあったものである。

 午前中からずっと原稿、岡田斗司夫さんの食玩同人誌原稿。今年は岡田さんはコミケ二日目の参加らしい。様子がわからんので部数はかなり絞るとのこと。1時半までかかって原稿用紙11枚。昼食はパックのご飯を温め、ミソタマゴを作ってぶっかけ飯。講談社から新刊『近くへいきたい』の著者分が届く。これまでウェブ現代の連載 をまとめたものの中では、図版の処理が最もいい出来。

 本家立川流同人誌、残るは快楽亭のテープ起こしのみとなるが、これが最初から最後まで手違いだらけのものとなる。あるのがビデオなので、仕事場にビデオデッキを(DVD再生機しかなかったので)持ち込んで、ポータブルテレビにつないで見たのだが、全然映らない。このポータブル、まだ結婚したての頃に新橋の量販店で発作的に買ったもので、それから何度かの引っ越しの際に、リモコンをなくしてしまい、本体のスイッチでON/OFFやチャンネル選定などしていた。ところがつなげてみて初めてわかったのだが、テレビ/ビデオの切り替えは、リモコンにしかそのスイッチ がないのであった。

 仕方ないので、上の居間のデッキで再生して、モバイルでテープ起こしし、それをメインパソコンに転送して……と思ったのだが、私はK子とモバイルのエアエッジを共有していて、今、それはK子が仕事場に持っていってしまっている。地団駄を踏むとはこのことである。そこで次に思いついたのが、どうせ20分ほどの高座なんだから、それをビデオからテープに録音し、それで改めてテープ起こししようという方法だったのだが、さて、録音のセットをして、ビデオを再生してみたら、なんとこれが快楽亭のものではなかった。いや、快楽亭も出ているのだが、基本は梅田佳声先生の紙芝居を記録したテープで、快楽亭のものは手違いというかこちらのカン違いで、今 手元にはないのであった。青くなる。

 進退窮まった窮余の一策で、ずっと以前に、HAMACONで快楽亭が演じた『怪獣忠臣蔵』のテープがあったので、それを元にテープを起こし、原稿にすることにする。古いものでも取っておくものだ。なにしろハマコンと言えば92年、まだ快楽亭が立川平成の名前だった頃の記録である。聞き取りにくい部分は同じ年にKKベスト セラーズから出た『禁断のブラックギャグ』の中の原稿で補う。

 3時、仕事をいったん中断して時間割へ。光文社『FLASH』インタビュー。インタビュアーは山本寅次郎氏。六、七年ぶりだと思うが、変わらない。インタビュー内容もいかにもこの人らしい、“お尻の魅力的な女優について”。何人かの文化人に依頼したが断られたそうで、尻の話などをすると自分の立場に傷がつく、と思っているらしい。私はそういうのは一向に平気。平気ではあるが、やはり他の客もいる前で 寅次郎さんにウレシソウに
「ア、アレ、なんでしょ、いまでもカラサワさん、アナルが好きナンでしょ?」
 とか言われると少し引く。十数年前、AVビデオのレビューなどという仕事も有り難がってとっていた(こういうのはいい体験だったと今でも思っている)頃に、寅次郎さんと、
「もうオマ×コは古い! 21世紀のセックスはアナルですよ!」
 などと酒を飲みながら拳をふりあげて論じていた当時の話をまだ覚えているな。
「ア、アレですよ、今の風俗は、ア、アナル全盛で、それがみんな可愛い子ばっかりなんで、ドイツとかフランスとかから、日本娘のアナルに、あこがれて団体でやってくるンですよ。カラサワさんの予言が当たりましたよ」
 とか言う。ちょっと嬉しい気がしないでも……まあ、ないか。

 まあ、あの当時より少しは意識も進んでいることとて、も少し論理的に(そうでもないか)、最近の女性の尻と昔の尻との変化変遷と、その文化的意味、みたいなことを話す。こういうB級カルスタみたいなヨタ(知的漫談)はやはり私の本領部分で、語っていて楽しい。触角中心に評価されてきた尻が最近は視覚重視になってきたこと など。

 1時間ほど話して帰宅。マッサージに行こうと予約していたのだが原稿が遅れているので、明日に振り替え。がりがりとやって、ナンとか『怪獣忠臣蔵』発端の巻、7時半には仕上げて編集の談之助さんとデザインの安達Oさんにメール。出来は芳しくないものであるが、そこはそれ、急場でがすから、と自分に言い訳。フウッ、と全身の力が抜ける。

 新聞に、歌手のバーブ佐竹と英俳優デビッド・ヘミングス死去の報。バーブ佐竹は子供の頃、オトナの歌謡曲の世界の代表、みたいなイメージで見ていた人だった。代表作『女心の唄』の“どうせ私をだますならだまし続けてほしかった”の歌詞は寺山修司が絶賛していたのではなかったっけ。一方のデビッド・ヘミングスはこの7月に『リーグ・オブ・レジェンド』で若い頃とはまるでイメージが変わってしまった姿を見て、愕然としたばかり。『遙かなる戦場』『バーバレラ』『ジャガーノート』『パワープレイ』と、私好みの映画にたくさん登場していた俳優で、若い頃の感じは同じ英国俳優のアンソニー・ホプキンズに似ており(年齢は確かホプキンズの方が4つほど上)、目の表情が実によく、ホプキンズよりこっちの方が大物になるだろうとばかり思っていた(世間の評価もヘミングスの方が高かった筈)。『遙かなる戦場』に主演したとき(1968)には、その美青年ぶりを新聞でこう絶賛されたという。
「ロシアの革命党員やカリフォルニアの金鉱夫の色あせた写真を思わす、やや、やせこけた顔だち、バラのつぽみのよのような唇、そしてバイキング風の口ひげ」
 ……思えば美貌なんてはかないものだ。若き日と晩年の比較はこのサイトで。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/entertainment/film/3290919.stm

 8時半、『船山』で。ガイジンのカップルが来ていた。外人を連れてくる和食の店としてはこの店は格好だと思うが、外人同士で来るというのは驚いた。K子が誘ったI矢くんも来て、いろいろ楽しく雑談。今日はコースはパスして、お造りいろいろ、石鯛の蒸しもの(自家製ポン酢の甘味が実にいい)、水ダコの石焼き、烏賊と胡桃の天ぷらでご飯。やっと同人誌終わったという開放感と、風邪気味なのでノドが乾くこともあり、酒を冷やでクイクイやっていたらやたら回り、話しながら最後の方ではつい、ガクッと意識を失うように眠り込んでしまった。珍しい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa