11日
木曜日
ノーブラでぇ、ノーブラだぁ
デズモンドはモリーの胸に悩殺。朝、7時45分起床。暗くて寒くて湿っぽくて風邪ぎみ。もっとも、すでに風邪は末期の様子。朝食、ソバ粉の薄焼き、ふじリンゴ。新聞、たまっている雑誌類など食べながら読む。週刊ポストの『日本の新聞を読む』覧に東大総合文化研究所の松原隆一郎氏が、イラク自衛隊派遣問題で、新聞の論調が朝日と読売でそれぞれ反対と賛成にはっきり別れ、オピニオン紙化しているのは問題である、と書いている。もっと双方の意見をまんべんなく採り入れろ、というのであるが、はっきり言えば、日本の新聞が海外のものに比べ煮え切らない印象を与えるのは、“報道の公平”にこだわりすぎて、結局、記事を読み終わったあとも、いったい何を言わんとしているのか、さっぱりわからん、という部分が大きい原因だろう。アメリカなどでは、テレビ局まで選挙のときは共和党支持、民主党支持に別れて、はっきりと一方の政党寄りの報道をし(もちろん、何故に一方を推すのかということはきちんと説明する)、視聴者はその主張の如何をチャンネルを選ぶ選択肢にしている。日本のマスコミはここをきちんと表明しないから、結局個性がなく、何を見ても同じ印象の金太郎アメになってしまうのだ。二大政党論をふりかざした前回の選挙が盛り上がらなかったのも、結局、自民と民主の間の政治に対する理念に、ほとんど違いが見いだせなかったためではないか。松原氏のように、不偏にこだわることをインテリの条件のように思っている限り、社会をインテリが動かすことは出来ない。小林よしのり氏の暴論(まあ、どう贔屓目に見ても暴論)が、あれだけ世間を揺るがしているのは、一にかかって、彼の言っていることが己の立場をストレートに示していてわか りやすい、という部分にその理由があるのである。
同じポスト誌に、『私の裸で稼いだ60億円!』という小林ひとみ引退の記事がある。以前の引退は昭和最後の年で、阿佐ヶ谷の書店で引退記念写真集を立ち読みした記憶がある。実業家との結婚で、ビデオレーベルを夫婦で立ち上げたりしていたが、バブルの崩壊で破産し、ストリップとAVで復帰。何か『大地』みたいな話である。とにかく、何度も言うが初めて彼女のAVを見たときの驚愕というのは当時の悶々学生であったわれわれの世代にとっては、今では想像もつかないくらい凄いものがあって、まさに掃き溜めのツル、ドブの中の錦鯉かとも思われた。“小林ひとみは本番をやっていないそうだ”“いや、そんなことはない、あの官能の表情は演技ではない”などと、あっちこっちで真剣になって論議していたのだから純心なものであった。まあ、すぐ裏ビデオを手に入れて“なるほど、疑似なのだな”と確認したけれど。どこだかのAV紹介サイトで、彼女のことを“AV界のビートルズ”と称していたが、まさにその表現がピッタリ。と、いうことで今朝の日記のシャレはビートルズである。
朝、K子にミリオンの書き下ろし用原作を渡す。戦後すぐ発行の実録犯罪本で、前からこれを使おうと思っていたが、あった筈の書棚に見つからなかった。昨日、壁紙張り替えで書庫に移していた本(主に少年探偵もの小説類)を階段部分にもどして積み上げたのだが、そのとき、そこに紛れ込んでいたのを発見したのであった。
お歳暮類、いろいろ届く。ありがたいことです。金沢のS井さんからは恒例の8番ラーメン。年末進行はこれでしのぐつもり。さっそく塩ラーメンを作って昼飯に。植木不等式氏の日記で、こないだ中野で話した『ブレードランナー』の“四つくれ”、“二つで充分ですよ”のことが書いてあった。これは、私も偶然、このあいだオタクテレビの収録で山本よしふみさんにいただいた同人誌『スピナー読本』(1999)で読んでやっと真相がわかったのであるが、これは完成版で切られていて、ワークプリント(完成後、封切り決定前に一般客を読んで見せる試験上映会用のフィルム。ここでの意見如何で映画のラストがガラリと変わってしまうことは『危険な情事』などで有名。ブレランもこのときの観客の“わかりにくすぎ”の声で急遽、ナレーションとハッピーエンドが付け加えられた)にのみ、映像が残っていたのである。
それによれば、デッカードが頼んだものは、丼ごはんの上にレタスと錦糸卵が敷かれ、そしてその上にでかいエビ(有頭ではないが殻つき)が生で(写真は白黒なのでわからないが、見た人の解説で“ドス黒い”と言っているので、生と思われる)乗っかっているという、いささかゾッとしない食い物である。デッカードが親父と四つだ二つだと言い争っているのは、このエビの数だったんですね。てっきり私は四つというのはウドンの玉の数だと思っていたが、なるほど、そう言われて見れば、デッカードはそのやりとりが終わったあとに“ウドンもくれ”と言っている。西欧人にとっては汁麺は実だくさんのスープである、という話も合わせて思い出したことであった。
本日3時から打ち合わせの予定だったが、向こうの都合でキャンセルになったために、午後5時まで、と学会本用の原稿。なんとか13枚、アゲ。MLにアップする。すぐ次の二本目にかかるが、書き出しにあぐねて、不捗。今日の官能倶楽部の忘年会で睦月さんに渡すつもりのテープをダビング。仕事机横のデッキでダビングするとつい、聞き入ってしまうので、居間のやつでやる。講談社Web現代Yくんから電話、そこからの通しで『FRIDAY』編集部から、インタビュー依頼の電話。来週の日取りを打ち合わせ。今年の十大ニュースなどについてのコメント依頼。今年は何本、 この類の仕事をやるか。
6時半、家を出て新宿『鳥源』。挨拶してきてくれるお父さんに、お掃除のおばさんからお歳暮に貰った千葉の落花生を差し上げる。メンバーは睦月さん、私ら夫妻、開田夫妻、安達Oさん、談之助夫妻、ひえだオンまゆらさん。みなさんに長野のリンゴをおすそわけ、それから『近くへ行きたい』も献呈。森羅万象あらゆる話題を俎上にあげつつ、鶏と酒。寒雀も頼んで、頭から齧る。日本酒をひえださん、睦月さんと酌み交わすが、うまくてガブガブ。鍋で水炊きをした後はパセオでカラオケ。あやさん、ひえださんの美声を聞く。ひえださんが最後に歌った山崎ハコの『呪い』(コーンコーンコーンコーン釘をさす、藁の人形、血を流す……)が耳につく。山崎ハコ、森田童子、中島みゆきが、私の世代の根暗女性歌手三人衆。あ、浅川マキも入るか。最近の連中が“中島みゆきの曲にはげまされている”というのが、どうも何か騙されているような気がしてならない。12時半帰宅。