裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

土曜日

ダンテだろう〜

 ゼメキスに比べて評価の低いのなんでだろう〜。朝、寝床の中でこないだの林月光『仮面劇場』続き。老人がよく出てくるのだが、それが若い美青年の姿を白髪頭にして、わざとらしい口髭など生やさせただけの絵。少女マンガの老人である。それがマンガ絵でなく、リアルなタッチの絵で描かれるそのキッチュさ。文章は投稿の手紙を元にしているというが、実際のところは月光(豪人)先生のオリジナルだろう。その ストーリーのぶっ飛び具合もスゴイ。

 7時15分起床。朝食、そば粉薄焼き。長野の末廣庵から買ってきたそば粉もそろそろおしまい。後は東京で買ったそば粉で作らねばならないが、今のような味を保てるかどうか。食後、メールチェック等いくつか。母から電話、今日は日木流奈くんの『奇跡の詩人』は本当に彼が書いたものと思うかどうか、という問い合わせ。あと、 なをきの手術のことなどを少し。

 やたらに腹が空く。今日は土曜なのでいつも神保町の古書展にいくんだから、神田に再オープンしたというトツゲキラーメンにでも行ってみるか、と思ったが、ネットで調べると土日は休みとのこと。それで、まず青山に出て、志味津でカツカレーを食べる。体重のことを考えてこのところ遠ざけていたカツカレーだったが、ひさびさに食うと、もう体が喜ぶ喜ぶ。がっつくように食べる。ライスは半分残したが、これは 言い訳みたいなもの。

 そこから半蔵門線で神保町まで。ゆうべから飲み過ぎのせいか、足がちょっと重いのだが、それでもひょいひょいと階段を上がる。今年の夏くらいには、この駅の階段を上るのも、おれんちへの道を辿るのにも、左ヒザがしくしく痛み、ああ、もうトシで体にガタがきている、松葉杖か車椅子のお世話になるのも遠くあるまい、などと悲壮な考えでいたものだが、いつの間にか全く回復、気軽にちょこちょこと出歩く度合 いはむしろ二十代より多くなっているのではないか。

 本日の古書展は新興会。和書中心の会だが、一般書も多く並んでいる。見回ったところ、大正時代に出版された、稗史ものの全集がバラで一冊1000円以下で並んでいる。ダブらないよう注意して20冊ほど選び、抱えてレジに持っていく。さすがに 持って帰れはしないので、宅配にしてもらった。他に三、四冊。

 そのあと、カスミ書店さんにもちょっと立ち寄ってみるが、クローズド。そろそろコミケ準備で忙しいか? 大雲堂書店で東洋文庫(平凡社のアレではなく、昭和初期に大阪の聖光社という出版社が出していた講談文庫)の『幕末奇談忍術競べ』があったので買う。この時代の忍術ものは数十冊あまりコレクションしているが、舞台が幕末のものというのは珍しい。幕末ものなのだが、発端は家光時代で、伊賀と甲賀の忍 術者同士がいがみあい、
「ソリャ聞捨にならぬ、甲賀よりも伊賀の術が優り居るなぞと、別人なら兎も角、その伊賀の者が、小橋一ツ隔てゝ隣り合ひながら、斯く憚りもなう廣言を吐く上からは我々へ對して戦ひを挑むに相違ないぞ、いで、目にもの見せてくれうか」
「何ぢゃ、甲賀が伊賀を謗り居るとや、ソリャ面白い、口よりは腕で來いと申し遣はせ、技も出來ぬに、兎角出しや張りたがるは甲賀の癖ぢゃ、今の内に、小酷く高慢の鼻を折つて置かずばなるまいぞ」
 とやりあい、そのいがみ合いがやがて伊賀と甲賀からそれぞれ代表を出しての忍術対決となっていく。『バジリスク』ではないが、この当時から甲賀と伊賀の仲が悪い というのは定番の設定であった。

 地下鉄で帰宅、しばらく横になって、古書展で買った批評社『復刻「史疑」幻の家康論』(礫川全次編著)を読む。ミステリ的歴史書としての傑作である『史疑徳川家康事蹟』の、さらに裏側の大胆なテーマを読み解く礫川氏の解釈の面白さに知的快感を覚えて、いい気分になって読書しているうちにウトウト。理想的な昼寝であるが、疲れがあるので眠りそのものは不健康な感じのもの。体がゾクゾクと寒気を覚えて目 が覚めた。風邪がぶりかえしたか?

 起きだして4時。体調それほど悪くもないので、原稿書き。『クルー』原稿一本、一時間で書き上げてメール。あと、ミリオン出版の猟奇コミックものの書名案、三本ほど考えて編集Yさんにメール。すぐ返答があったが、これがいいのではと思っていたものを編集さんもいいと思った模様。5時半、家を出て新宿。サウナ&マッサージで。今年はこれが最後になるか。若いお兄ちゃん先生(プロレスファン)に揉んでもらう。風邪のせいか、揉まれているうちに胸のあたりが苦しくなった。すぐに楽にはなったが。温泉旅行がこないだ当たったんだけど、東北地方でいい温泉ないかねえ、と雑談のつもりで話したら、彼は温泉マニアらしく、やたらくわしい。自分用のロッカーから『秘湯の旅』などというムックまで出してくる。お勧めは、青森の“酢ヶ湯温泉”だそうである。混浴なんだそうだ。“女性と行くといいですよ”と言うので、“先生は女性と行ったの?”と突っ込むと顔をちょっと赤らめて“ええ、まあ”。西 武の松坂にちょい似の童顔でもあり、モテるだろうな。

 終わって8時15分。タクシー使って下北沢『すし好』。K子に言われてトーハンからのいただきものの昆布巻きを持ってきたが、K子はこれを虎の子に預けて、ナンビョー鈴木くんに救荒食として。この店の大将が私の顔を見て、“昨日は牡蠣だったんでしょ?”と。何でも通じているな。今日の担当は若いOさん。お勧めは大間マグロのさしみ。脂がたっぷりで、アンコほどワサビを乗っけても甘く食べられる。Oさんの顔は福原鉄平くんに似ていると私が言う。似てないとK子が言う。確かに顔の作りは全然似ていないが、ときおりちょいと見せる表情がソックリなんだがな。他にアナゴ、タコおつまみ、甘エビ、ネギトロなど。勘定しているときに、昆布巻きを受け取った鈴木くんがお礼に来た。

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