裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

土曜日

水道完備モツ煮込み

 タイトルに意味はないんだってば。朝6時起き。ゆうべの忘年会があまりに印象的だったか、そのまんま、の夢を見る。それも二回も。二回目は、途中から田舎の工事現場の仮設食事場のようなところで酒を飲んでいる光景から、いつの間にかまた忘年会場になり、開田さんが“僕のファンです”と連れてきた外人がカラオケで演歌のようなポップスのような歌をうたう。“お前はイーツモー、五重の塔カラー、世界を見る眼を持ってイルー”というような歌詞で、しばらくそれが脳内でリフレインしていた。薄暗い中、一人で朝食(ピタパンと肉だんご)食べ、K子にざっと温めて食べられるものを作り、風呂入り、販売グッズ類を確認し、景気つけにアリナミンを二十錠ばかりイッキのみして、7時、さてコミケ。さすがに三十日にも押し詰まると、都内の交通量も減って、気持ちよく車が走っている。

 会場到着。さすがに寒い。例によってまず台上のチラシ類を取り捨て、イスを並べて、と学会誌(第一号復刻)、日曜官能家、やおい本、トンデモ落語会チラシなどを並べていると、睦月さんやってくる。国民服に身を包んでハリキっている。日本軍の軍服に身を固めた三人組が歩いてきて、あれは睦月さんの知り合いじゃねえかな、と思っていたら、やはりそうだったのには笑った。イベントというものの、人をハレの気にさせる効果というものの面白さ。そのうち、委託で眠田さんの同人誌も置かれ、チラシも増え、だいぶにぎやかになる。

 値段を書き、下げ札を書く。便利になったもので、カッターを忘れた、と思えば会場にカッターを売っており、台の上が少しゴチャついているなと思うと、プラスチック製の棚を売っている。柳瀬くんと値段つけの算段。今回は復刻本なので五○○円は暴利だろう、ということで三○○円にする。釣銭計算などが面倒なんだが仕方ない。畸人研究会のみなさんや、氷川竜介さん、金成由美さんなどと挨拶。隣のブースがドリフト道場。少し同じブロックをぐるりと歩いてみたが、今回はあまりヘンテコなのはないようだ。六○代と思われる老婦人がやっているブースがあり、『雷はなぜ落ちるか』という、奇妙な本を売っている。ぜひ買おう、と決意。岡田さんに教えられたパソコンのキーで作った指輪を売っている人たちのブースで、一個買う。

 10時、開場。入口近くの角席なので、風邪が吹きっさらしで寒い々々。肌を大きく露出している女性を見ても、こう寒いと色気を感じるより先に“寒そうだなあ”と思ってしまう。例により“走らないでください!”の声で逆にあせりを感じ、だだだだだと突進するオタクの姿をしみじみと見る。こういう、一番に駆け込んでくる連中というのは、まず、ウチのような地味な評論のところには来ない。厳密には新刊も出ていないし、夏に比べて暇かな、と思っていたら、開場三十分を過ぎるころから、どんどんどんどんとお客がつめかけ、お釣りの計算が間に合わない程となる。行列が出来て、運営スタッフから“ここのブースの方、誰か列整理にあたってください”と注意される。客に文句は言えないが、後ろにどれだけ人がならんでいようと、悠然として内容をチェックし、ためつすがめつしている人には“お早く願います”と注意したくなる。角胴博之、田川滋、藤井ひまわり等の知人に挨拶。寸時の合間を縫って自分の本買いに走る。

 復刻誌、会誌バックナンバー、眠田さんの個人誌、これも委託の川口浩本、いずれも羽が生えたようにどんどん売れていく。と学会やおい本(ペーパーみたいなもんだが)が驚くような売れ方を見せ、あっという間に完売した。最後の一部を買いに来たメイドのコスプレ姿の女の子に、“ハイおめでとう、最後の一冊でした”と言うと、身をよじるようにして“ああッ、よかったァ・・・・・・ッ!”と叫ぶ。自分で売っておいてナンであるが、こんなもん、そんなに見たいか、お前(笑)。  もちろん、日曜官能家も、ドリフト道場の豹マン本(開田裕治の表紙がすさまじいリキの入った大傑作)も好調で、官能家は二時台で完売、三時までには豹マン本も完売となる。委託分の売上と釣銭を清算し、夜の落語会に備えて、とりあえず撤収。鶴岡と相乗りでタクシーで渋谷まで。私は一旦、家に帰って、銀行へ行ったりなんだりの雑用をすます。例年、帰宅するとグッタリとなり、しばらく横になるのだが、今年のテンションは異常に高く、まるで疲れを感じない。

 仕事場から戻ったK子に買ってもらった祝儀袋に快楽亭の芸術祭受賞祝いを官能倶楽部名義で包み、銀座線で浅草まで。途中でと学会メンバーとも合流し、浅草東洋館のトンデモ落語会である。はるか昔の少年時代、20世紀を終えるにあたって、同人誌をお台場で売り、その夜は浅草でキチガイ落語を聞いて過ごすとは思いもしなかった(当たり前だが)。

 途中でタコヤキを買い(なにしろ昼は会場で売っていたセコな天むすを食ったきりである)、東洋館。ほぼ満席の込み様である。真ん中の席あたりにと学会メンバーが凝集。前の方の席は志加吾のファンらしい女の子たち。周囲に何か濃そうな落語ファンという構図がクッキリ見えるのが面白い。QPハニー大人や安達Oさん、私のファンの自衛官の人(カッコいい計器コースターをくれた)なども来ているが、睦月、開田夫妻などの姿が、開演となっても見えない。H氏は仲間のK氏と来ていた。K氏は健全な常識人で話も面白く、彼が保護しているとH氏もさほど気にならない。

 前座のブラ汁の後、志加吾が凝りに凝った紙芝居を使って笑点ネタ、それから談生(先日からHPが見られなくなっているが、荒しにあったらしい)がすさまじいまでの破壊力を持った相撲ネタ、次が新潟の女ストーカーネタ、中入りをはさんで談之助がなんと懐かしのスーパーヒーロー幻のロングバージョン、これは見られたのが儲けもの。そして特別ゲストの白山雅一先生(その時分には来ていた睦月さんが、壇上から指名されないかとビクビクしていた)のあと、トリの快楽亭が立川流バトルロワイアル。まさに世紀末の落語会という感じで大満足。

 終わって、東洋館近くの焼肉YAMYAMで、三○人以上のメンツで打ち上げ。白山先生に挨拶に行ったら大変に喜んでくださり、逆にあちらからこっちの席までやってきて、K子の耳に口を寄せて“レイホ〜”とささやく大サービス(笑)。FKJ、QP大人などと、それから雑談、裏談。いや、連日で楽しかった。志加吾から裏ビデオの礼を言われ、出演者でもないのに女性ファンにモテまくりのキウイからは、私の大ファンだという女性二人を紹介される。“これは日記に書かないでくださいね”と言われたようなことをしてもらった記憶もあるようなないような気がするが、こっちももう、昼間のテンションがずーっと続いていて、何が何やら、もうさっぱりわからず。12時近く、ではよいお年を、と挨拶して解散。タクシーで帰宅。よく生きて帰れた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa