裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

金曜日

うしろの朔太郎

 犀星受け? 朝5時ころ、寝床の中で映画『パリ・テキサス』のことを考えているうち、主役の名前を忘れていることに気がついて、うんうんうなる。脇役俳優の名を片端から思い浮かべ、一時間くらいしてやっとハリー・ディーン・スタントンと思い出し、非常に爽快な気分になる。もっとも、おかげで寝不足気味となり、8時起き。朝食、如例。谷中で買ったブドウ。

 1時までかかって、講談社Web現代原稿。資料に、7年ほど前のFMISTYのログを持ち出してきて読む。山本弘が小中千昭とバトルしたりしていて、なかなか懐かしい。双方、まだネット議論というものに習熟していない風なのが初々しい。レーザーディスクとパソコン通信に関しては、かくも短期間でかくまで時代遅れと言われるモノになり果てるとは、当時誰も予想だにしなかったろう。

 昼は鮭茶漬け一杯。2時、時間割で光文社『FLASH』インタビュー。マンガの中に描かれた未来について。昭和三十四年の学習マンガ『宇宙時代』(山内竜臣)に描かれた十年後(!)の時代風景、昭和四十年代の貸本マンガ『外星人ガンマ』(関一彦)に描かれた未来の生活描写などをを見せてあげたら、バカウケ。一時間半ばかり、未来像というものがナゼ見当はずれのものになりがちなのか、を語る。編集者のNくんは、入社して初めての仕事が週刊宝石のと学会原稿のチェックだったそうで、これが最初に読めるなんていい会社に入れたなあ、と思う間もなく連載が終わって、非常にガッカリしたそうだ。

 こないだの日記に書いたソニーPCLについて、安達Oさんからご教示。今の東宝がPCLと東京宝塚劇場の合併で出来たとき、強い阪急資本に押されて不満を持っていたPCL一派の一部が戦後に独立、16ミリ映画の現像をする会社としてPCL現像所を設立し、その後ソニー資本が入って、ソニーPCLとなり、いまやデジタル映像の分野では世界的で、コッポラなどがお忍びで通うほどのトコロだとか。安達さんの記憶では、本社ビルの向かいのビルの二階がフィルム編集室だった、ということだが、私らが試写を見たのは、たぶんそこの試写設備でであろう。なるほど、ホンカサロ監督が“自分で映写機を操作したい”と言ってスタッフを困らせていたのは、器材がいいのでイジりたかったんだな。

 それからメディアワークス『キッチュの花園』ゲラ直し。連載時は毎度勝手なことをフイていたが、読み返してみると、自分の書いたものながらすっかり忘れていて、“なかなかオモシロイこと言っているなあ”などと感心したりする。4時少し過ぎ、また時間割にとって返してTくんと打ち合わせ。来年の出版予定のスケジュールを立てる。Tくんが出したがっている本の話を聞くと、ちょうど芝崎くんから預かっている本の企画にソックリなので、その話をする。果然、それはイケます、唐沢さん監修ということなら企画通してもいいです、という答を得る。ビンゴである。

 家に帰ると講談社Iくんから電話。原稿、長すぎるということで少し縮める。ウェブでの原稿枚数は雑誌に比べかなり長短が自由に出来るのだが、今回は筆がノリ過ぎた。芝崎くんに電話するが、仕事で残業らしく、連絡つかず。

 K子と新宿の幸永に出かけるが、ちょうどこの寒空に外の席で飲んでいた客が、一席空いたので中に入ったところ。あきらめて、すがわらに行くが、ここも満席。師走 の金曜に新宿でメシを食おうと思った我身のマヌケさに腹が立つ。区役所通り脇の台 湾料理屋に入り、酔鶏、イカとアスパラの炒めもの、豚足とピーナツ煮込みなど食べる。老酒ボトル一本飲んで、いい気分になる。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa