裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

金曜日

デジタルはなお及ばざるが如し

 デジタル録音も結局はアナログと変わらないということ。朝7時まで寝る。K子に“昨日、あんなに昼寝したのに朝7時までぐっすり寝られるのは変”と言われる。彼女は眠れなくて、買った貸本マンガなど読んでいたらしい。夢で、数学のテストが出来ず苦しむ。分子生物学会の秀才たちをずっと見ていて、ひさびさに劣等感を感じた らしい。

 スカイレストラン『プレンデトワール』で朝食バイキング。K子曰く“日本一の朝ごはん”なのだが、1800円という値段は大阪の二割五分安である。てっきり、不 景気でサービスを落としたのだとばかり思っていたが、十数年前と変わらぬ内容。し かも朝食券で食べられる。このさらに上階のフレンチレストランでは2500円でコンチネンタルの(!)朝飯を食わせるらしいが、どんなものか、一度食べてみたいと思う。

 ここのホテルのTVにはCNNのチャンネルがない。そのかわり、BBCのニュースチャンネルが流れている。CNNに比べ、さすがに落ち着いた感じの報道がウリらしい。荷造り(と、言っても最近は荷物は順次、まとめて宅急便で送ってしまうからほとんどないが)して、チェックアウト。ポートライナーで三宮へ。少し買い物してタクシーで新神戸駅。タクシーの中で聞くラジオ番組の大阪ことばが実に心地よい。
「そのシステムについて、アメリカが“そないにしとっては、開発が遅れるがな”と文句を言うてきまして」
 などとニュース解説者が言う。ホワイトハウスの見解でもなんでも大阪弁に翻訳してしまうところがいい。

 新神戸駅でオミヤゲを買い、喫茶店で時間つぶす。ホームにあがったら、車椅子の若い女性がやってきたが、この車椅子がプラスチックパイプ製の、大変に軽そうなやつだった。旅行用だろう。緑色で、やたらカッコいい。11時、新神戸発。とにかく食の堪能感は十二分に味わった旅行だった。車中の弁当はタコ壷に入った『ひっぱり蛸』弁当と、K子は鯛型の壷に入った『めでっ鯛』。ユニークで面白いが、味はまあまあというところ。

 東京駅着が2時10分、3時に時間割で打ち合わせなのでタクシーに飛び乗るが、渋滞でなかなか進まず、少しイラつく。3時ギリギリに東武ホテルの前に着く。で、ロビーに行くが誰もおらず。自宅に先に帰ったK子にカレンダーのメモを確認してもらったら、5時だった。15時と読み間違えていたものとわかる。

 一旦仕事場に帰って、FAX、留守録、メール類確認。ザ・ベストの原稿800字を書いて送り、日記メモをチェックする。各編集部からいろいろ連絡。土曜にまで打ち合わせが入る。3時、改めて東武ロビーで編集者拾い、時間割でK子と三人で打ち合わせ。『ダ・カーポ』編集部Iくん。来年2月からの新連載コラムの件である。Iくんは如才ないといった感じの人物で、鳥打帽やチェーンのネックレスなど、おしゃれと言えばおしゃれなのだが、私のイメージにあるマガジンハウスの編集者とはだいぶ異なる。もっとも、マガジンハウス自体、社風もだいぶ変化してきているのであろう。私の他に、湯浅学、杉作J太郎なども新連載だが、内容がことごとくオヤジっぽい。十数年前、似たような企画を持ち込んで、“あなた、ウチをどこだと思ってるんですか”と、さんざ説教されたことを思い出す。時代の流れだねえ。タイトルもいろいろ考えて決定してしまうが、一番オヤジっぽいのが選ばれた。いやあ、確かにマガジンハウス、変わったわ。

 帰ってさらに仕事。7時、『船山』で食事。神戸の『あら皮』に、貧乏人の予想でかなりの予算を組んで出向いたら、それほどでもなかったので、余った金を東京での食事に回そう、とK子の提案。毛ガニ、刺身盛り合わせ、かきあげでご飯。毛ガニはまだほんのり温かく、甘くて美味。ただし、今年は不漁なのだそうである。ご飯、ここの米は東北のもので、むっちりもっちり。実は西玉水でもご飯を出してもらったのだが、あちらのは鳥羽米だそうで、しごくあっさりした炊き方と風味だった。米の好 みまで、西と東では違うんだねえ、と改めて感心。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa