裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

土曜日

少々御徒町ください

 立川談之助懐かしのスーパーヒーロー於上野広小路亭。夜中、間歇的に目が覚めて寒くて困った。朝7時半起き。朝食、またピタパン。ダイエットスープと。日記つけて、久しぶりに『ぶらり途中下車の旅』を見(今日は車だん吉)、薬局新聞一本アゲる。昨日の焼酎がいけなかったか、しぶり腹の気味。

 風呂入って、神田の方へ出る。今日は古書展休みであるが、夜の『鬼畜変態マル秘ビデオ篇』に使うビデオに心当たりがあるので、ちょっと仕込みに。白山通 り中心に少し散策もする。で、目当てのビデオ屋で、探していたものは見つからなかったが、代わりになる奴を見つけて、ホクホクする。

 昼飯は『いもや』の天丼。十数年前から変わらず、昼時は長蛇の列。早めだったので四人目くらいに座れる。ここはメニューが天丼とえび天丼の二種類のみ。えび天丼はエビが五尾も入っている豪華版だが、ここはオーソドックスにベーシックな天丼をごはん少なめで頼む。食器洗いと味噌汁担当の女性が二人いるが、天ぷら揚げて、ご飯よそって、ネタを上に乗っけてツユかける、という作業はたった一人の職人さんが やる。一度に七〜八人の注文を天ぷらを揚げながら聞いて、“大盛り”“普通”少な め”というのを全部覚えているのが凄い。エビ、イカ、キス、ノリの四つの具が乗っている。早くこないと油が悪くなって胸焼けがするが、今日はまだ新鮮。ツユは江戸前なのか非常にあっさりしていて、そこが人気の秘密なのだろうが、ネタを全部食べ終わったあと、普通の天丼のように、ご飯にかかったツユだけで後を平らげるには、少しもの足りない。それをおぎなうように、紅ショーガとタクアンの薄切りが、トングで取り放題にカウンターに置いてある(これは以前にはなかったように思う)。隣に座ったカップルが、入口で待っている人の列が長々続いているにも関わらず、スピードがどうしたこうしたというような下らぬ話をベチャベチャしていたら、職人さんが“並んで待っている人がいるんだ、しゃべってないで早く食べてくんないか”と一喝したのには心の中で快哉を叫ぶ。もっとも、これで注意されたのが自分だったら、“なにを天丼屋の分際でエラそうに”と憎体に思ったかも知れぬ。

 時間がないので、そこらで渋谷に戻る。鶴岡から電話。今日の会には年末進行なので残念ながら行けません、と、誰も来てくれとは言ってないのに言う。“こんな時期に会をやってもカラサワさんのファンみたいな連中は同人誌作りとかで忙しくて来やしないですよ”と憎まれ口を叩く。1時、時間割で村崎百郎と裏事件対談。新宿ビデオ屋爆破事件の十七歳トライガンマニアばなしで盛り上がる。まったく、毎月々々、われわれにネタを提供するために神様がはからってくれているかのように、変な連中 が次々事件を起こしてくれるものだ。その後、近くの小じゃれたケーキ屋で写真撮影 する。村崎さんが覆面かぶったのを見て、若くもないカップルが、イヤーな顔をして店を出た。

 それから今日のためのビデオダビング。倉木麻衣の親父が監督したどうしようもない美少女戦士ものなど、ダビングしながらゲラゲラ笑う。それやこれやで鬼畜なものを五本ほど仕込んで、中野芸能小劇場へ。ギリギリまで作業していたので、新宿までタクシーで出るが、これが週末の大渋滞に引っ掛かり、イラつくことこの上ない。尤も、開演時間を自分で告知しておきながら6時と間違えていたのであった。結局、楽屋へは一番乗りとなる。秀次郎連れてやってきた快楽亭、談之助、大宮イチ監督と、特別ゲストで『神様の愛い奴』出演の(根本敬ビデオでおなじみ)平やんこと貝ちゃんなど。貝ちゃん、落語家さんと会えるというのでうれしがっている。なんと、昔、月の家円鏡時代の圓蔵師匠に、三カ月、カバン持ちでついたことがあるという。

 中野区教育委員会が、今回のタイトルで“どういう会なのか”と問い合わせてきた らしいので、トークの内容については書かない(笑)。私としては、いつもロフトでやっているやつよりは数十倍薄めのつもりであった。とはいえ、二十世紀最後のトークがこんなものになるとはと苦笑。お客さん、さすがに同人誌のせいか超満員とはいかなかったが、それでもパイプ椅子が出て、かなりのワリが出た。最後にゲストとして壇上に上がった貝ちゃん、元気いいぞう以上の天然ぶりを発揮。『神様の愛い奴』の奥崎謙三・貝ちゃんの対決はスゴいものがある。四月、シネマ下北沢にて公開。

 二次会、トラジは忘年会で使われているので、ニュー浅草にとりあえず入る。開田さんや鈴之助たちは同人誌作りのため、帰る。大宮監督と話がかなりはずんだのがうれしかった(こないだ初対面のときはどちらも固くなってダメであった)。ひでじろう、しゃべったり遊んだりしているとまあ、ちょいとそこらにいる可愛い子、という程度だが、ニュー浅草入口で転んでアゴを打ち、しばらく恐縮して、憂いを帯びた表情でじっとおとなしくしている顔を見ると、まあ、まず日本には稀有、というくらいの美少年である。左談次がこないだ快楽亭の家で飲んで、ずーっと秀次郎の尻をさわりまくりだったというのもよくわかる。大宮監督、“唐沢さん、CMに進出ですね”とか言う。ソックリなのが缶コーヒーだかのCMに出ているらしい。違う、と言ったら、そのCMを見ていた人全員がエーッ、と驚いたくらいだから、よほど似ているとみえる。

 三次会、トラジ。ここの焼肉はバカうまだが、K子、“もう八起や幸栄を知っちゃうとここの肉が平凡に思えて”とゼイタクなことを言う。談之助さんはこないだ、二日連続で八起の焼肉を食うハメになり、その前がしゃぶしゃぶで、さすがに肉に食傷したという。真露、ホルモン、ユッケ、豚足、それから冷麺。1時過ぎまで雑多雑駁極まりない話で盛り上がる。

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