裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

水曜日

危険なジョージア

 缶コーヒー一本おごっただけのつもりが・・・・・・。朝7時起き。5時くらいに目が覚め、それからまた眠ったのだが、このときの眠りの快適なことといったらなかった。目が覚めてしばし恍惚とする。朝食、サツマイモとスープ。ワイドショーで石坂浩二&浅丘ルリ子離婚の報。今さら、という感じだが、なにもこの暮にせんでも。レポーターどもが忙しくてあまり殺到しないだろう、という計算だろうか。今日は掃除が入るので、早めに風呂に入る(そう言えばうちではいつ、風呂は朝に入るという習慣になったのだろう)。来年の取材予定をKKベストセラーズにFAX、それから映画批評原稿(これも新年6日〆切)で取り上げる映画をスタジオ・ボイスにFAX。なかなか雑誌仕事にキリがつかない。AIWから毎年恒例の松坂牛がお歳暮に届く。札幌に持っていって正月に家族でいただくのも、また恒例である。新聞に週刊宝石新年号の広告、“大型新連載!”などとある。次号で休刊のはずだがな。

 某誌編集長Kくんから電話、創刊号が売れ行き芳しくなく、辞表を提出とのこと。うーん、この雑誌、同系統誌の中ではユニークな試みだったんだけど、やはり結果 は厳しいよなあ。四号目からリニューアルで、私ら連載陣は変わらないが、とりあえず年開け早々にも引き継ぎの打ち合わせをしますので、ということ。次の行き先などは決ってるの? と訊いたが、とりあえず辞表だけ出してしまったので、何にも決ってません、とのこと。彼も、世紀の変わり目を無職で迎えるとは思ってもいなかったろうな。もうひとつ、薬局新聞から。現在連載中の作品、あと三回ほどで最終回なのだが、その後、単行本化の件も含めて年開けにご相談を、とのこと。そういうことを一切考えていなかった連載なので、非常にとまどう。するにしても大幅な手入れが必要になるだろう。そもそも、現在唯一ワープロ機で書いているこの原稿、フロッピーの一部はすでに古くなって読み取れなくなってしまっているのだ。

 昼はパルコブックセンターで買い物したあと、丸井地下のソバ屋で鉄火丼とソバの定食。まずくて鉄火丼のご飯を少し残す。家に帰って、原稿ちょこっと書いて、2時に時間割。某社と某週刊誌担当者(このあいだから書いている連載問題)で打ち合わせ。この企画をどちらも熱心に面白がってくれているのがしみじみ有り難い。とりあえずの折衷案を出しておく。双方、“ウチに問題はないが、唐沢さん、出来ますか”と言う。何にせよ連載は春先からだから、それまでに書き溜めなどしていれば何とかなるだろう(ならないことは経験でわかっているが、今は無理にも楽観的観測でいっておく)。

 家に帰り、資料持ち、とって返してまた時間割。日経ヘルスライターIくん。笑いの健康に対する効用、ということで、五本ずつ、おすすめで笑えるマンガとビデオを紹介する。“いかにも唐沢さんらしい選定ですねえ”と言われる。もっとも、健康雑誌なので、あまりマニアックすぎる、と編集部が判断した場合は、少し削るかもしれない、とのこと。河井克夫の『ブレーメン』程度なのだが。

 話している最中、左下腹部に鈍い痛みあり。風邪が腹に入ったような感じ。あわてて漢方薬をのむ。6時、また出てルノアール。古書せどり屋のU氏に会い、伊勢丹古書市、それから地方古書市での探求書を引き取る。全部で数千円のものだが。このU氏、せどり屋といってもほとんど失業者で、家賃を滞納してはそこを追い出され、住所がコロコロ変わる。古書マニアにありがちの社会不適応人格なのだがそれでもこの寒空に凍死もせず、ちゃんと携帯など持てているのが不思議と言えば不思議である。松本清張や星新一の文献収集では大した人で、専門家のミスをよく指摘したりするのだが、どれも確かにミスとはいえ、重箱の隅をつつくようなものばかりで、私も何度も嫌味を言われては腹立たしい思いをさせられている。とはいえ、こういう人がいなければ困る業界であることもあるのである。

 それからパルコブックセンターにまた行き、資料探索。買わずに立ち読みですませる。帰って夕刊を見たら、ジェースン・ロバーズ死去の報。大好きな役者だった。代表作はオスカーを取った『大統領の陰謀』での、ニクソン大統領を追い詰める新聞社のデスク役だろうが、NHKで放映されたミニ・シリーズで、同じようなタイトルの『権力と陰謀』では、追い詰められる方のニクソン(劇中ではディクソン)を演じ、こちらの方が(声をアテた西村晃もうまかったが)数等印象的な大芝居だった。どっちの役でも、机の上に足をデーンと投げ出す行儀の悪いことをしていたが、これが彼 の得意の人格表現、だったのか?

 8時、K子と一緒にタクシーで四谷三丁目。井上デザイン事務所の忘年会。串焼屋『どど』。毎年恒例の会場だった『まさ吉』はお父さんの病気で店を閉めている。青林工藝舎の手塚さんたちに挨拶。来年は必ず本を出しますから、と約束。井上くんからメディアワークス『キッチュの花園』の表紙刷りを見せてもらう。傑作。工藝舎のOさん、旦那さんがアニメの演出家だそうで、アニメの話いろいろ。某(笑)脱税で社長が刑務所に入る会社のことなど。そこの社長に花輪和一さんの『刑務所の中』をプレゼントしたら、読んで“いやあ、こういうところなら入っても楽しいかもなあ”と言うので、みんな“そりゃ一日や二日ならね!”とツッ込みを入れたそうな。

 紫煙充満でK子がせきこみはじめたので、一時間半ほどで辞去し、近くの讃岐うどんの店で食事。串カツと焼酎梅干し入り、中華風冷や奴。それと釜揚げうどん。最近はソバよりうどんの滋味の方を好むようになってきた。もっとも太いのに限るが。

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