裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

月曜日

ジオラマの金さん

 てめえら、このドイツ軍北アフリカ戦線の桜吹雪ジオラマが目に入らねえか! 朝8時起き。ぐっすりと眠りこけていた。朝食、トーストとスモークサーモン。朝刊がめっきり薄くなる時期。朝、年賀状書き。

 ゾクゾクと冷え込む。昨日のイブは大層な人出だったそうだが、終電車乗り過ごして寒いクリスマスを迎えた者も多かろう。神戸に行ったとき、忘年会の二次会でフィリピン・バーに行き、睡眠薬入りの酒を飲まされて眠らされ、文字通り身ぐるみはがされて路上に放置された客が凍死した、という事件があった。乗ったタクシーが、そのときの死にぞこねの客を乗せて家まで送ったそうで、パンツ一丁の姿のまま、車内電話で家の奥さんに電話してあやまっている姿が、何ともおかしくて気の毒でならなかったそうだ。財布から携帯からカードまで全部持っていかれ、カードは限度額一杯に金を降ろされてしまっていたという。で、家に帰ったら怒った奥さんが扉を閉めて中へ入れてくれない。運転手さんも、金を払ってもらわないと困るので揃ってドアを叩いて、奥さんにあやまったという。運転手さん曰く“なんでわしがあやまらんならん、と、後で思いましたけどな”。それは気の毒だったにしても、こういう山賊みたいな奴は、少し人の気をひきしめるためにも、存在しなければいけない、とさえ思える。もっとも、昨日今日の東京の寒さだと、凍死どころか凍りついてしまいそうだ。

 ずっと対談本手入れ。博多で買ったぽん酢セットを、御歳暮にして宅配便で出す。それから昨晩、ビデオを整理したときに、使い道のないエロビデオがごそっと出てきたので、志加吾のHPに“エロビデオがあったら編集部へ”とあったのを思い出し、週刊モーニング編集部宛に送る。ひえだオンまゆらさんから、網走の活きホタテが届く。年内には食べきれない数なので、さっそく全部カラからはずして冷凍。ヒモの部分をバタ焼きにして、昼のオカズにする。さすが活きホタテ、グリコーゲンの甘味がたっぷり。これとゆうべの鯛メシの残り茶碗半杯、ニラのみそ汁。

 太田出版のと学会白書、出足と追加注文の調子、かなりいいとのこと。チェックをお早くと、パティオで編集のHくんがせかしている。と学会は凋落の一途で、書店でも持て余し気味であり、次の本の増刷がからぬことで会員たちもそれを思い知るであろう、などと、書店員を名乗った人物が書きこみをしていた掲示板があったが、その人には残念ながら、一時の狂乱的ブームこそ鎮火したものの、まだまだ商品価値は落ちていないらしい。

 肩がシンシンと張る。少し休もうと横になったとたん、沈み込むようにして眠ってしまう。やはりここ数日の年末進行がコタエていたのだろう。目が覚めるともう4時近く。あわてて銀行に行き、コンビニで牛乳などを買う。帰ったらブックTVから電話、一月の出演依頼。21世紀の予定がどんどん詰まってくる。新世紀もまた、相変わらず。結構なことで、世の中あんまり相変わっちゃいけない。変化というものは、砂時計の砂が一粒々々、落ちては積もり、山の形をいつしか気がつかぬうちに変えているように訪れる。この時期になると街頭に“救い主キリストのお言葉を伝えます。悔い改めよ、裁きの日は近い・・・・・・”などとがなるスピーカーを持って立っている連中が出る。親子連れもいれば男女のカップルもいるが、彼らの表情や態度に、どうしても善男善女というイメージがわかないのが不思議なくらいである。服装もモサいし表情もほとんどない。宗教的恍惚感などとは無縁である。本当に裁きが近いのなら、他にやることもありそうなものだ、と思える。何にせよ、現実に対して無能力な者ほど、大カタストロフィを期待するものである。

 7時、新宿紀伊国屋書店本店前でK子と待合せ(同じく忘年会で待ち合わせている快楽亭がいたそうだ)、鳥源へ行く。ここのところ数回続きで、満員につきご遠慮をくっている。7時あたりなら空いているだろう、と早めに飛び込む。運良くテーブル席がとれた。十分遅れたらまた満席だったところ。冬の狩猟シーズンで、野鴨、雀、ウズラなど、野鳥がずらりと入荷。骨ごとかぶりつき、野趣を大いに満喫。スズメの頭にカブりつきながら、そう言えば今日、サファリパークでライオンに頭をカジられた飼育係がいたなあ、などと不謹慎なことを思い出す。あとは鍋。満腹というより、キツくて苦しくなるまで食べる。お値段もちょっとよかった(なにしろ野鴨など“時価”である)。ここでは私はなぜか“先生”と呼ばれており、センセイに取っておいたんですよ、と言うお世辞つきで、焼酎の小ビン二本セットをおみやげにもらう。まだ時間早いので、カラオケを一時間ほど、二人で歌って帰る。

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