裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

水曜日

清順とは何だ

 映画監督だよ。寝床で花田清輝のエッセイなどを読む。朝7時半起床。朝食、ハムチーズトースト。果物なし。食後に小青龍湯とパンク錠。サンマークのマンガ原作、やる。資料が簡単に集まる人物とそうでない人がいる。近衛文麿なんて、家にある大平洋戦争関係の本全てに名前は出てくるが、いざ彼だけを扱った本を注文しようとしてネット書店回っても、どれもこれもみんな絶版品切れ。

 K子に弁当。オカズはジャガイモと牛肉の千切り炒め。ライター論の執筆構想をメモ。昼過ぎから気圧が大幅に乱れて、体が動かなくなり、倒れ込むように三十分ほど眠る。1時過ぎ、六本木に出て、銀行に行き、明治屋で買い物。入ったところで北海弁当を売っていて、うまそうだからと気軽に買ったら、なんと1800円もした。昼飯にこんなに金をかけるなんて、と、しばらく落ち込む。落ち込みすぎて、書評原稿用の本をABCで買うのを忘れてしまった。

 帰って、1800円の弁当を喰う。さすがにうまいのがまた、シャクにさわる。具はタラバガニ、ホタテ、カズノコ、茎ワカメ、ウニ。貞水の講談をラジオで聞きながら。食後、また企画書。参考資料をネットで拾う。同じ対象を取り上げても、商品になる視点とならない視点、商品になる書き方とならない書き方の差がサイトによって露骨である。これは名文悪文にも、また分析の深さや、正しさなどには関係ない尺度なのだ。タイトルを『売文の技術』とでもしようか。

 3時、井の頭線で西永福まで。途中、雲行きが無闇にあやしくなったので折り畳み傘を買う(結局、帰るまでには降らなかった)。S歯科に於て歯の治療。特長のない住宅街で迷うかと思ったがすんなりたどりつく。町中の方が、まぎらわしい目印が多い分、迷いやすいかもしれぬ。歯茎の歯周ポケットの深さを測る。先生、“おかしいなあ、こないだ見た感じではもっと悪いと思っていたが、それほどでもないですね”と首をひねる。いい方で不思議がられても困る。ただ、前歯(差歯)の部分は非常にいい数字(先生にとって)らしく、“ああ、ここは尋常でないですねえ、うふふふ”とウレシソウに笑う。歯医者を数軒変えてみるとわかるが、その歯医者々々によって治療方針というか、どこにイノチをかけるかがまるで異なる。前に通っていたデンタルクリニックの先生はとにかく“噛み合わせ”にこだわり、そこにポイントを絞って何度も検査をし、モデルを使って説明し、“ここは今はいいけれど、この噛み合わせでは数年後に必ず悪くなるから、今のうちに治療しておきましょう”などと言っていた。今回の先生はとにかく歯茎、そこに全てを収斂させる。“歯茎を健康にしてからでないと虫歯の治療はやってもムダ”と言い切り、前の歯医者は歯茎をないがしろにしていた、と怒る。
「ああ、この治療、ボクはこの治療は治療とは認めたくないなあ」
 などと言う。非常にオモシロイ。次の治療は“歯茎に一時間、歯に一時間”かかるのだそうだ。

 渋谷に帰り、パルコブックセンターで書評用の本を買う。福山庸治『じゅうなな』である。マンガエロティクスで読んではいたんだが、なぜか単行本が手に入りにくいままだった。その足で時間割、海拓舎Fくん。概論を吹き込んだテープをFくんにオコシてもらったもの(まだ冒頭のみ)に目を通す。岡田斗司夫の『フロン』がbk1の予約状況でベスト10に入っているとのこと。本人の離婚を宣伝に使うという、いかにも岡田さんらしいコマーシャリング。マスコミの取材も殺到しているようで、やはりこの人の発想はスゴいと思う。内容自体はとりたてて目新しくないのだが、要は売り方なのである。

 帰宅、仕事関係の電話数本。夏コミ、と学会、官能倶楽部ともに当選。8月12日(日)東O02aと05a。また“その他”で同じ島か。間の二つは日曜研究家とドリフト道場か? それにしても、12日がコミケで、その週の土曜からがSF大会。またテンション上がりっぱなしになるなあ。K子から電話で、曙橋の井上デザイン事務所へ行く。『裏モノ見聞録』のデザインをやっている。少しその打ち合わせをやり、8時半、近くの無国籍料理居酒屋の『ぼぅの・ぼぅの』という店に事務所のみんなと。最初はワインやビールを飲んでいたが、シェフから、マイナーな地酒が取り揃えてあります、と勧められ、飲んでみるとうまいので、かなり過ごす。地酒は独特のクセがあって、と言うと、それは飲む順番を間違えているからです、私のお勧めする順番でどうぞ、と言われ、三種類ほど続けて飲んでみると、なるほど、最初スッキリで、後になるほどコクが出てくる。二番目に飲んだ『国香』という静岡の酒が甘味とさわやかさのバランスが実にいい具合で気にいった。“ね、飲む順番を考えることで全然違うんですよ”と自慢される。歯医者も地酒も、プロはこだわるもの。

 帰宅、ちょっとネットで地酒検索。三重県の地酒で『作』(ザク)というのがあるのに笑う。取り扱っている酒店のサイトでは“三重のモビルスーツ、出撃開始!”などと紹介されている。もちろん、“蔵に訪問した際に「あのザクとは何か関係があるのですか。」と聞いてみたところ、全く関係ないとの事でした”とある。あたりまえだ。だがこの酒店はあくまでザクにこだわりたいらしく、
「しかし、ガンダムのキャラクターのザクの様に、世代を越えて受け継がれるロングセラー商品となる様に応援したいと考えています。父子が“作”を挟んで、食卓でガンダムのザク話をしてもらえればこれまた痛快でしょう!」
 痛快かなあ。

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