裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

水曜日

パンナコッタと思ったぜ

 ただのプリンじゃねえか。朝7時起き。ゆうべがゆうべだったので8時半くらいまで寝てようと思ったのだが、K子が早く出かける用事がある、というので目をショボつかせながら起床。朝食、豆スープのみとする。髪の毛も体も、全身が焼肉のアブラでベトついている。鏡を見ると、目の下が膨れて、顔全体がむくんでヒドい感じである。これで今日、テレビに出るのかと思うとイヤになる。

 シャワー浴びて、熱い風呂につかり、汗をかいて少し体から水分を抜く。原稿、まず〆切を過ぎて一週間近く立っているデジタル・モノの映画評。先月は忙しくて、まるで試写観られず、何も書けないがな、と思っていたが、フィンランド映画『白夜の時を越えて』の公開が決まったのと、イタリア旅行の機内で観た『ガン・シャイ』がやっと公開されるので、それについて書く。2本で400字詰め6枚。

 それからSFマガジン(昨日仕上げるはずが手付かずになった)、やっと調子が出てガリガリと進める。途中で昼食(塩辛でお茶漬け)はさんで10枚、2時に完成。寝不足の割には能率をあげた。編集部にメールして、途中でガックリにならぬよう、麻黄附子細辛湯とアリナミンをガッとのんで、ハナイキ荒くして東京タワー下の芝公園スタジオ入り、コンテンツファンド収録。

 雨もよいで車が混み、15分遅れで入ってすぐ、鈴木さん、西山さんと打ち合わせ(岡田さんはその場のノリを大事にしたい、ということで打ち合わせには出ない主義らしい)。だいぶこの番組のことも業界に浸透したか、すでに実績あるプロの参加が多くなってきたが、ときどき、どーするこれ、というのが混ざってくる。打ち合わせの部屋に入るなり“今回はウンコが注目ですね!”と言うと、プロデューサーはじめみんな苦笑。高崎から来た彫刻家のカービー氏の考案になるゲームキャラクター“うんこくん”というのがあるのだ。バランスのよい食事をし、適度な仕事と運動の末に産み出した強い“うんこ”を育てて対戦させ、最強のうんこを作り出す、というゲーム。これまで、オリジナル性というのは“誰も考えつかなかったことを考えついた”という意味であったが、この場合は“誰でも考えついたがやろうとはしなかった”ことを堂々とやった、というその蛮勇に与えられる言葉であろう。彼の考案したうんこキャラ、およそ300体。パズルうんこ、桜ナマズうんこ、水玉うんこ、モロコシうんこ(トウモロコシを食べた翌日のうんこ)、ワイルドうんこ、快便うんこ、うんこ侍、迷彩うんこ、黒うさぎ亀うんこ(意味不明)、今どきうんこ、血便うんこ、げり将軍(究極)。とりあえず私的には、今回の収録作家中、この人をイチオシにすることに決める。他には以前、『ぷにぷに』というキャラクターを引っさげて参加したデザイナーの菅井淳氏のカノジョ(収録のときも一緒についてきて、ずっと彼の側に寄り添っていた)メガネ美少女永島幸子さんが、今回は自分のデザインした魔法赤ちゃん『ベビー・ベビー・マフ』をもって参加。遅れてスタジオ入りした内藤洋子ちゃんが開口一番、“今日、ウンコありませんでしたかあ?”と可愛い顔して大声で言う。やはりインパクトは最高だな。

 収録、今日は前の番組が早く終わったということで、プロデューサーはじめ全員、“マキマキですよ”と、ザ・シークみたいなことを言って楽観していたが、始まって二人目の永島さんのときに、カメラが一機いきなりイカレた。これでしばらく中断。ちょっと現場に緊張が走る。やむなく残りのカメラで何とかやりくりして続行ということになる。ダレ防ぎという意味ではかえってよかったのかもしれない。中断されてかわいそうと同情されたか、ブレストタイム時に岡田斗司夫が“頭クラクラするほど面白くない”と怒りだした『ベビー・ベビー・マフ』も無事、黄色の交渉ランプが五つも点灯、という成果をあげる。カレシの菅井さんのときは黄色一個しか点かなかったので、これがもとで立場が逆転し、ケンカ別れするかも、とみんな意地悪く笑う。美少女をカノジョにするとかく、オジサンたちからはうらまれるのである。

 で、うんこくんのカービィ氏。モヒカンに蜘蛛の巣をデザインした作務衣、パールライスの前掛け姿というそのキャラクターが極めていじりがいがあるので、
「もう君、今日は出てきて目立って、ウンコで受けただけで十分だろ。我々もな、この番組はじまって以来、ずーっとウサギとか子猫とかワンちゃんとかばっかり見せられてイヤんなってたところを、キミのウンコで十分にリフレッシュさせてもらいました。これで満足して、高崎にお帰りなさい」
 などと言って、ブレーンストーミングだかおちゃらかしだかわからなくなる。本人もてっきりその気だったと思う。なんせ、最初の設定金額のキャラ一点一万円を、一点千円に値下げしたくらいのだが、これが(後は番組を見てのお楽しみ)。

 カメラ故障でオシたので、休息は二十分ほどになってしまう。弁当は、夜に中笈さん歓迎会があるので、虫養いにちょっと箸をつけただけ。あと、ブレーンの内藤洋子ちゃんが20日を迎えたお祝いのケーキが、デザートにつく。これも半分のみいただいて残す。西山さんが、犬に興味があるというので、今夜の会(於グリーン食堂)に誘う。

 後半、登場するクリエイター三人が全員、実績あるプロという凄さ。中でも合コンシミュレーションゲームを持ってきた吉本典子さんは旅行雑誌、エステ雑誌、テレビCM(ツムラ便秘薬)などで、誰でも目にしている人気イラストレーター。打ち合わせのとき、鈴木さん西山さんに“このヒトはわれわれが何も言わなくても岡田斗司夫がハマってくれますから大丈夫です”と言っておいたが、果たせるかな、冒頭から、“いいよ、いいよこれ! 合コンだよ、これからは! オレ、次の本のイラスト頼んじゃうよ!”とむちゃくちゃなノリ様。他の人も“プロの仕事だ”“すぐ商品化できる”と絶賛。ただし、私が“ここ(ブレーン席)で評判がよすぎるときはバイヤーさんがランプ点けしぶるというジンクスがありますからねえ”とあやぶんだが、予感的中、ランプは黄色がひとつきり。押した某社の人が、まるで上玉を見つけた女衒のような表情と口調で彼女にある提案をした。さて、彼女の運命やいかに。

 終わって、8時半。まあ、通常のオシで終わった。いろいろと恒例の名刺交換。西山さんと岡田さんとタクシー相乗り。最近の出版事情や、某氏がいかにウスい奴か、などいろいろ情報交換。岡田さん、次の誕生日に和美さんからのプレゼントは“その日いちにち、彼女が化粧していてくれる”ことだそうである。なんだかこの二人もよくわからん。西山さんと二人、大久保で降ろしてもらい、グリーン食堂へ。メンツ、主賓の中笈木六氏、K子、開田夫妻、睦月さん、FKJ氏、大竹さん、談之助夫妻。これに後から植木不等式氏と裏モノのG氏が参加。西山さんはアニドウの会員で、自分でもアニメ作っていたという人物だけに、FKJさんと話が合うだろうと思って連れてきたのだが、これが予想当たりすぎ。三人で当時のアニメの思い出話全開状態となり、若い大竹さんに、マクラレンだトルンカだはらひろしだと、古いアニメの話をさんざ語ってヘキエキさせる。こっちの方であまり盛り上がったので、木六さんとはあまり話せず。

 木六さんへの犬鍋会記念に、その場の全員で犬イラスト寄せ書き大会。プロが揃っているので凄まじいものになる。十年したらまんだらけでかなりのネウチになるのではないか。西山さんがまた、アニメ野郎だけに達者なこと。しかしながら一番インパクトある絵を描いたのが談之助夫人のユキさんだった。とにかく話といいメンツといい、さすがの私も驚くほど濃い。西山さんが“エーッ、あの人がケンペーくんの睦月影郎さんなんですか。軍服着てないんですか”などと驚いていた。蒸し犬、犬鍋、犬炒め、犬おじやなど犬づくしで体中犬臭くなったが、味も満足。テレビでテンション上げ過ぎてハイになると逆に胃腸の動きは抑制されるらしく、あまり食えなかったのが残念。真露だけキュウリ割りでガブガブやる。最後まで残った開田さん、睦月さんなどと人のコキオロシでまた盛り上がり。冷麺を談之助さんと分けて半分だけ啜り、12時半ころお開き。二日続けて午前様というのもちかごろ珍しい。睦月さんにタクシーおごってもらう。帰ったら留守録に永瀬唯氏から電話、急に下血して入院したとのこと。本人の声は笑っていたが。

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