裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

水曜日

下ネタネギ

 まあ、太い。明け方に夢。ずーっとインターネットで何かを検索していた。夢にインターネットが出てきたのは初めてかもしれない。朝食、豆スープとマカロニ。札幌からダイエット用にガルシニアを送ってくるというので、医学サイトでガルシニアダイエットのことを調べるが、どこにも“効果なし”と記されている。

 今日も朝からドンヨリモヤモヤの天気で、時折小雨がまじる。ピーピーカンカンの好天気より落ち着いてモノが書けるのだが、体力がなあ。開田さんに頼まれた、対談用の座敷のある店というのをちょっと調べる。K子に弁当、ジャガイモと鳥だんごの煮物。雑誌類送られてくるが、今まで一度も書いたことのない、しかも今まで送られ てきたこともないTVブロスが(しかも速達便で)配送される。これは何か?

 エフコメディーSのオタアミの部屋での『クレヨンしんちゃん』感想、みんなどんどんマジになっていく。おーい、もっとひねくれてこそオタクだぞ。ちょっと、引っ掻き回すようなエキセン的理論で書き込みをしてみたが、果して反応やいかに。もっとも、最初は冗談理論のつもりだったのだが、書いているうちに、ふむ、こりゃマジでいけるかも、と思えてきた。仕事場に出かけたK子から電話。ゆうべのまさ吉からの葉書のこと、井上デザインに問い合わせたという。やはりお父さんは亡くなっていたのだが、入院中、ほとんど回復し、近々本当に店を再開するつもりで、あの葉書を刷ったのだという。ところが肺炎を併発して容態が急変し、死亡。で、刷った葉書が残ったので、お母さん一人で店を開店させるのにそれを出したんだそうだ。うーむ、ものを無駄にしないというか、凄いことするなあ。

 髪がえらく延びてきた。整髪に行きたいのだが、スカした店なので、予約が面倒である。12時開店だというので、11時50分くらいに行って、飛び込みでやってもらう。案外簡単にOK。若い美容師の兄ちゃん(いや、センセイと呼ばねばならん)が、自分も帽子が好きだというので帽子談義。帽子かぶるからそれに合ったヘアスタイルお願いします、という要望が通るようになったのはいいことである。昔のヘアサロンの美容師どもは、客の頭を自分の芸術作品と心得て、帰りに帽子をかぶろうとすると、“あ、帽子はかぶらないでください”などといわれたものである。ご職業なんですか、というのでモノカキだというと、へえ、どんなところに書いてらっしゃるんですか、と訊いてくる。こういうとき、週刊朝日だとか新潮だとかに書いてないと、一般の人には通じないところが困る。たまたま手にしていた日経トレンディにWeb現代が紹介されており、そのトップページの写真が載っていた。そこの私の似顔絵を指して、コレです、と言うと、何かいやに面白がっていた。

 ヘアカットの後、花菜で昼食、鳥うどん。この店、昼からビールを出すのはよし。飲まないけれど。家に返り、原稿書き出す。資料揃えて、まずまずの調子であるが、今日じゅうには終わらない。途中で出て、曙橋井上デザイン。青林工藝社手塚さんと出版の打ち合わせ。まさ吉からの葉書を井上くんに見せ(井上くんのところには来てなかった)、雑談モード。工藝社でもこの葉書話題になり、“ひょっとしてお母さんの幻想?”とか言う人もいたとか。そりゃそう思うのも無理ない。『刑務所の中』の話など。朝日・文春をはじめ、各マンガ賞総ナメのところだったが、花輪さんが“どんな賞も一切貰わない”と宣言しちゃったという。出版社としては惜しいが、花輪さんじゃしょうがない、と手塚さん苦笑する。それから呉智英氏の話。彼が愛知に引っ込んだのは、年老いた両親の面倒を見るためだとか。さすが儒教の徒。

 で、果てしない雑談の末に、本の話。なにしろ書き下ろしでは何時完成するかわからないので、以前ぶんか社から不幸な形で出た『お父さんたちの好色広告博覧会』を完全バージョンで、ネタ大大幅増補で再刊することにする。ちょうど、こういうモノをアックスの別冊用に依頼しようと思っていたとのこと。それはともかく、不本意な形でしか世に流通しなかったこれがまた日の目を見るのはうれしい。

 打ち合わせ終えて一旦家に帰り、また仕事続き。岩井天志さんから留守録で、武蔵野ホールでのトークのチラシ、私の肩書を無断で評論家にしてしまったがよろしいでしょうか、との問い合わせ。ナンでもいいです、チンドン屋でもかまわない。フリーの職業の肩書などというものは昔の歌舞伎役者が、ラチ外のアンタッチャブルに非ずまっとうな職業を持っている、という建て前のために屋号をつけたのと同じで、単なる記号に過ぎぬ。それこそアンタッチャブルの誇りをフリーの人間は持つべきで、何でもやるのが本来の筈。自分に自信のないモノ書きほど、肩書だの呼び方だのを気にして、そのことで怒り狂ったりする。あれほどミットモないことはない。

 7時過ぎ、また家を出て、四谷にとって返す。荒木町『まさ吉』。お母さんにモゴモゴと要領を得ない挨拶をする。少しやつれたようだが、声は元気。女の子を手伝いに一人、入れている。井上デザインのメンバー、手塚さん、K子と大雑談。まさ吉特製のニンニク酎を飲んで酔っぱらった。

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