裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

14日

月曜日

アリゾナもし

 坊ちゃんは砂漠においでかなもし。朝8時起き。寝床で前に資料に引き出したホームズものなどを読む。朝食、ガスパッチョ。陽射し暑く、昨日に引き続いて空調を入れる。午前中、ダカーポ原稿。K子に弁当。昨日買ったチキンカツでカツとじ。

 アスペクトに移ったK氏からメール。村崎百郎氏との対談本の件。これだけの不況の中、単行本の話がこう途切れぬ状況はまことに有り難い。それから、この日記を本にさせてくれとの話も出た。この件に関しては保留。以前に何社かから、その話が出ているが、私としては、できれば5年くらい続けてから出したいと思っている。もっとも、そうなると今度は分量が多すぎてなかなか本にしにくいと思うが、ロッパの昭和日記も、夢声の戦争日記も、とにかく分量がたっぷりあるところが魅力なのだ。ダカーポは書き上げて送った直後に、字数(一行のワード数)間違えていたことに気がつき、あわてて書き直す。文章が削ってスッキリしたのはケガの功名。

 オタアミの『クレしん』ツリーにくらべればひっそりだが、裏モノ会議室で大手マンガ出版社の、“ブックオフに本を売るな”運動に対する批判的ツリーがポツポツと延びている。マンガが売れなくなった要因はさまざまであって、ブックオフやマンガ喫茶だけを原因のように言うのはいくらなんでも無理があるだろう。そもそも、それで不利益を被る作者・出版者側の都合を読者におっかぶせて、安くマンガを買えるという読者の利益を奪おうという運動が実を結ぶわけがない(以前、江下雅之氏などが“ネット出版の印税率を引き上げる”ことを謳い文句に『ほん・まるしぇ』を立ち上げたときも、こんな、読者には何の関係もないことをカンバンにしたって誰も興味を持つわけがない、と思ったのと同じだ)。大手出版社はブックオフを糾弾する前に、なぜブックオフがここまで急激な成長を遂げたのか、を考えて、我が身を振り返ってみる謙虚さを持つべきではないか? 棚の分類ひとつとっても、ブックオフは工夫しているし、店員の書籍に関する知識も豊富、なにより店がきれいで夜遅くまで営業している。最近の、大規模書店以外の店のマンガ売り場の状況のひどさを改善させようという運動をまず起こすことが急務なのではないか。発想の方向自体がマチガッているのである。

 昼飯は残ったごはんに久しぶりにレトルトのカレーかけて食う。冷や飯に温かいカレー、あるいは温かいごはんに冷たくなったカレー、という組み合わせが私には最高なのである。向田邦子は『寺内寛太郎一家』の脚本に、かならず一家の食事の献立を詳細に記しており、あるとき、朝食の献立に“ゆうべのカレーの残り”と書いてあったそのリアリズムにのにプロデューサー、出演者一同みな感動した、と久世光彦が書いていた。私もゆうべのカレーの残りは大好物なのだが、しかし朝はちとゾッとしないなあ。

 ビデオを資料用に数本とばし見。シャルロット・ゲンズブール『ルナティック・ラブ』は十年くらい前の近親相姦もの。吹出物面の美少年シニード・キューザックのオナニーシーンが『JUNE』なんかで話題になったっけ。この子がスペース・オペラに夢中になっている、という設定(仰々しいナレーションでベムとの闘いが朗読されるのが大笑い)なのだが、借りた本を何度も読みかえすほどハマっている、という描写はリアリスティックでないのではないか。スペオペというのは、次から次へと新しいのを読みたくなるもので、一冊を何回も読みかえすものではないと思うが。

 SFマガジンを書き出すが、電話や雑用で中断されて半ばまでしか進まず。明日まわしとする。8時、神山町でK子と待ち合わせ、以前おでん屋だった『一合目』が新装オープンした和食屋『華暦』に行く。かけてあった絵が変わっているくらいで、内装もほとんど同じ。メニューも、おでんがなくなったこと程度しか変わりがない。なんで、と思ったら、ここの美人女将が“またよろしく”と挨拶にきてくれた。経営関係のことで前の店を閉めたらしい。そう言えば内装は同じでもこの店、板前さんの数が以前は四人だったのが二人になり、従業員も若い子が四、五人いたのが一人、それも以前は全員和装だったのが実用的なエプロン姿になり、和服は女将一人きり、と、かなり切り詰めている模様。美人女将と書いたが、ここの女将は本当に美人。大信田礼子とひし見百合子を足して二で割ったような感じで、客の八割はNHKだが、この女将目当てという人もだいぶいるだろう。いくつくらいか、と思っていたら、立ち働いているエプロン姿の子がなんと娘さんだそうで、びっくり。若く見えるねえ。ヒラメ刺身、イカと里芋の煮たの、刺身湯葉、じゃこサラダなど。心無しか、前の店よりちょっと味のレベルがあがった感じ。帰りに引き出物で酒を持たせてくれた。

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