裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

火曜日

いいじゃないかヘルマンじゃなし

 な、ゲーリング?(ナチスやおい、しかもデブ受け)。早朝、いい感じの庭をながめて歩く夢を見て目が覚めたが、下半身に男性的生理現象が如実に惹起していて驚いた。エロ夢を見てこうなるというならわかるが、何で庭園で? 夜半に、就寝前に服んだセンナ末の作用で軽い腹痛と下痢があり、それで刺激されたのかもしれない。別に立ったからと言って性的欲望が起こるものでもなく、また就寝。7時半に起床。朝食、ソーセージに胚芽パン。それとイチゴ。

 電話数件。南原企画の南原さんから、美好沖野さんの日記本の解説依頼。彼女の本を出すことが懸案なのだが、どの出版者も、この不況下、新人の本は怖がって出すのに二の足を踏んでいる。これが出たら、ひとつ持ち回ってみよう。昼に家を出て、青山の方へ行こうとしたが、車大渋滞、人もワンサカ。メーデーであったことを思い出し、中止して渋谷駅前の西武で買い物。帰宅してレトルトの御飯を温め、釜上げシラスをのっけてシラス御飯にして食べる。味噌汁はナス。

 朝はそれほどでもなかったが、昼ごろから、Tシャツ一枚で肌寒い中仕事していたせいか、左の二の腕から肩にかけてシクシク痛みだし、腕を上に上げられなくなる。四十肩かしらん、と、いささかユーウツになるが、どうも、昨日、本の片付けで筋肉を使ったかららしい、ということがわかる。情けない肉体である。

 二時きっかりに芝崎くん来。今日は一番広い第二書庫。昨日と同じく、また、床に積み上げられた本の山をまず一度外に出して、整理し、しかるのちもとに戻すという作業。いらぬ雑誌のバックナンバー類、仕事で読んで用済になった本などを、思い切りよくどんどん始末する。本好きとして、これはどうしても始末できない、というもののみ、古書店に売るために段ボール詰めにする。昔買い揃えたたアンティーク雑誌など、紙質も写真もよく、惜しいのだが、エイと始末。だいぶ書棚が空く。腹が立つのは、同じ本がダブって出てくることである。桃源社版・浜尾四郎の『殺人小説集』などは、一度どうしても目を通す必要が生じたが書庫の奥にまぎれて見つからず、仕方なく、店頭に並べられていたのを覚えていた神保町の中野書店で買ったもの。緑書房・大泉黒石全集弟7巻『眼を探して歩く男』は、最初この一冊を古書店で買って、読んで気に入り、他のを探したがなかなかバラでは売っておらず、仕方なく揃いで注文したのでこの一冊だけダブったもの。ぶんか社・ガース柳下『世界殺人鬼百選』、本の雑誌社・横田順彌『探書記』などは出てすぐ買ったら著者から寄贈されたもの、洛東書房・目賀祥介『捜査実話・刑事の記録』は、似たようなタイトルの本が山のようにあるのでコンガラかっちゃったもの。これらはまだいいが、ワイズ出版・小林淳『伊福部昭の映画音楽』などは、3800円もする本なのに三冊も出てきたのに呆れかえった。最初発売されて書店で見かけてすぐ買い、買ったことで安心して読むことどころか買ったことまで忘れ、また書店で見つけて買いこみ、それをまた忘れて買ってしまったのである。本を買うときはたいてい、五、六冊まとめて買うので、こういう無駄をする。

 もちろん、思いがけない発見もあった。酒井潔『らぶ・ひるたァ』(昭和四年・文藝市場社)は、澁澤龍彦のネタ本でもある珍書だが、これも二冊、同じものがある。どうして二冊も買ったか、まるきり忘れていたのだが、このうち一冊は、昭和四年のこととて、ほぼ7割のページに検閲による無惨な空白があるこの本に、どういう好事家だかが、丁寧に、その空白にエンピツ書きで、検閲された部分を埋めている書き込みを付してあるシロモノだったのだ。どういう資料をあさったのか、マニアか編集者か(あるいはヒョッとして著者本人か?)が、事細かに、空白部分の文章を書き込んでいる。単なる想像の落書きなのかと思ったが、江戸時代の文献はその文体で、翻訳ものは翻訳ものらしく、ちゃんと文章を変え(さすがに漢文のところのみは手に余ったか空白のままだが)190ページ以上のこの本に最初から最後まで、その補綴作業を行っているのである。こんな貴重な本買っておいて忘れるなよ、と自分を叱りたくなった。

 お茶の時間はさんで7時半まで、片付けを続ける。さすがに第二書庫は広く、本の数が昨日の倍はあるが、なんとか片付き、きちんと整頓される。芝崎くんへの報酬はこちらが始末する本の中から好きなものを持っていっていい、というだけなのだが、どうにも気の毒な気がする。かといって、金は絶対受け取らないだろうし。

 仕事のあとの疲れた体にムチ打って、サンマーク出版のマンガのプロット一本書いてK子にメール。それから家を出て、K子とパパズアンドママサンで待ち合わせ。焼鳥、ジャガバタ、梅茶漬け。ビール小ジョッキ2ハイ、冷酒二合。左腕はどうにか痛みが去ったのが有り難い。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa