裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

土曜日

四面ショッカー

 ライダー絶体絶命。朝8時半まで寝る。もっと寝てられるかと思ったが目がちゃんと覚める。別に腹具合がどうというわけでもなかったが、用心のため朝食は摂らず、豆スープ一杯のみ。

 Web現代原稿、今回は難渋。書き出しに少し大ネタを持ってきて、そこから展開させようと思っていたのだが、まずその資料探しに手間が取られ、続いて、そのネタと次のネタとの関連をつけるのがどうもワザと臭く、昨日書いた分も含め、半分以上削除。ほとんど一から書き直す。

 沖縄の木六さんから電話。『クレヨンしんちゃん』のこと。那覇育ちの木六さんもノスタルジー趣味にちゃんとひたれたと言う。オタアミなどを見ると、ハマれた人間とハマれなかった人間が完全に両極端に別れている。エヴァと同じで、こうハッキリと好き不好きが別れ、しかもお互い(私も含め)何やら感情的になっている、という構図は、沈滞化していると言われるアニメ業界において、いい“現象”である。停滞革命論者である私としてはあの映画のノスタルジーなど生ヌルい、もっと前、少なくとも戦後の闇市時代にまで歴史を逆行させろ! と叫びたいところだが。おリコウな人ほどハマりにくいかもしれない。ああいう通俗イメージによる自己存在のアンプリフィケーションにプライドが逆らうからである。

 開田あやさんからご教示受けて、読売新聞11日夕刊のテレビ情報ボックス『モニター』欄のサウスパーク映画版評を読む。“このような作品を子供には見てほしくない”って、子供向けの作品じゃないものにイキリ立ってるところが失笑モノで、それだけなら単なるバカのたわごとなんだが、筆者の追求はそこからテレビの低俗番組に及び、下品な番組をタレ流しているとお上が乗り出してきて表現の自由が侵害されるから、自分たちで下品な番組を作らないようにして、公権力が介入してくることを阻止すべきだ、って、きちんとした基準線をもたぬこのような自主規制コードをお上に利用されるのが一番恐いことなんだって、わからないか。公権力という言葉だけで拒否反応を起こして、自警団作ると、それこそ戦前の“パーマネントはやめましょう”と同じ状況が再現されるのだよ。

 原稿、書き上げたのが3時半。古書市も今から行っても半チクになるのであきらめて、昼飯を食ってなかったのを思い出し、餅を三切れ、焼いて食べる。時間的に新しい仕事にかかるには遅すぎ、のんべんだらりと過ごすには早すぎる、中途半端な時刻なので、以前書いてあった原稿を手直しし、と学会本の原稿に足す作業をやる。なかなか楽しくやれたのは結構。

 書き上げて原稿受け渡し用パティオにアップしてから、7時待ち合わせを思い出した。6時45分になっていたので、大慌てで家を出て、幡ヶ谷チャイナハウス。コンテンツ・ファンドの製作プロダクションのTさん、例の美術教師の大竹さんと会食。土曜のせいかやたら混んでいて、しかも子供連れが多く、店内ゴッタ返している。大竹さん、“ここがカラサワさんの日記によく出てくる店ですね”と言う。私の日記をあれからずっと読んでいるらしい。そこから話題がつながってノスタルばなしになるが、大竹さんにとっては『ビックリマンシール』がノス・アイテム。リバイバルもののソフスティケートされた線のはどうもいけませんという。古いものが好きらしく、最近は『佐武と市』だの『巨人の星』だのといった、あの時代のアニメを見まくっては“なんてスゴいんだ〜”と感動しているとか。アート系と大衆商業主義系を比べたら、絶対何と言っても大衆系に行きたい、と断言しているのが頼もしい。前半はマジメに作品論、商品論などを繰り広げていたが、後半はスケベばなしになったりして、もうワヤクチャ。

 Tさんがおごってくれる。感謝。今日の料理は若竹と鹿肉の炒めもの、エビとアワビタケ、ジュンサイとカニ肉の煮物、など。オードブルの叉鶏がジューシィで抜群、エビのプリプリ感はちょっと他で真似できない味。みんなあまり飲まないクチで、私一人、老酒をガブガブやる。話がそれからそれへと盛り上がり、気がついたら11時をちょっと過ぎていた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa