裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

29日

木曜日

ロルカそるか

 天本英世朗読。朝6時に目が覚め、寝床で読みかけだった『トンデモノストラダムスの後始末』(洋泉社)読了。われらが山本弘会長の本だが、毎度感服する徹底したデータ集めと、事細かなツッコミ。ただし、さすがにここまで濃くなると、感服はするがあまり笑えなくなってしまった。ノストラダムスチキンレース、といった感である。笑うという行為には余裕が必要なのであり、読者のほとんどは著者より体力と執念に欠けるのである。あと、あとがきにある聖バレンタインの伝説、これはキリスト教々会が後でバレンタイン・デーにあわせて創り上げたオハナシであり、そのような事蹟のある聖人は記録にない筈。人文書院の『黄金伝説』の訳注によればバレンタイン・デーが男女の恋の告白の日とされたのは、古代ヨーロッパの民間信仰で、この日が小鳥たちや小動物が発情する日、とされていたからで、その発情日が人間同士の間にも延長された、というだけの話とのこと。もちろん、チョコレートを愛する男性に捧げる、というのがチョコレート屋(一般にはモロゾフとされているが、定着させたのは東京のメリーチョコレートカムパニーなるところであるらしい)の陰謀による、 というのはそのとおりなのだが。

 7時半に起床、朝食は札幌から送ってきたキャベツ・スープで。新連載の映画評、第一回はあちらの希望でサウスパーク。3枚、書き上げてメール。それから原稿の資料集め。この二日間、ロクに原稿書いてなかったが、スケジュール見ると、うひー、というような状況にすでにおちいっておるではないか。

 昼は御茶漬け。先代馬の助の『辻八卦』のCDを聞く。こんなマイナーな落語がCDになるとは。『ぞろぞろ』のとき、この落語のパロディもやったのだが、それは先代文治のを落語選集で読んでパロディしたので、実際に聞いたのはこれが初めて。編集部宛FAXいろいろ。誤植の指摘、営業の督促、初版部数アップ要求などなど。それから六本木へ出て買い物し、銀行で家賃降ろす。

 一旦帰って、3時、時間割にて某大手Webマガジン編集部Iくん。企画ものコラム、連載の打ち合わせ。まだ最終決定ではないが8月から開始、ということでとりあえず大雑把な内容と形をまとめる。Iくん、もとマンガ編集部にいたそうで、ぜひ一度、私と仕事してみたかったそうだ。しかし、『脳天気教養図鑑』にハマっていたのが高校のとき、というのは、あっちが若いのかこっちが老人なのか。

 今後の展開の件も含んだ上での連載、ということで気分よく帰ってきたら、その同じ出版社の別の部門から、こっちは出していた単行本企画ボツの知らせ。“最近はこういう難しいのは売れません”(大意)。・・・・・・そりゃまあ、ちょっと特殊な企画ではあったが、ここにはこれまで、売れにくそうな本を売るためのタダ協力をいろいろしていたんで、せめてもう少し熱のある対応を期待してたんだが。まあ、出版の世界というのはこないだ力を貸してやったから今度はこっちに、というような人情は通 じないトコロである。以前ネットで紛糾した、白泉社の細田氏の若桜木虔氏あてのボツ 状よりはましだ、と思うとしよう。

 本日、皇太后陛下“殯宮移御後一日祭の儀”。高貴な方が亡くなるといろんな言葉が新聞に踊る。“お舟入り”、“正寝移柩の儀”、“斂葬”。今日は柩の前に“饌”(せん。食べ物のこと)とか、絹の反物などの“幣物(へいもつ。供物のこと)”が置かれ、三権の長列席の上、天皇陛下が“御誄(おんるい。弔辞)を読み上げられたと。誄、なんて字がJISにあるとは思わなかった。漢和辞典を引いたら人を悼む祝詞の意、訓はシノ(ヌ)ビゴトだそうである。

 国際宇宙ステーション“ズベズダ”。パパパヤー、と後につけたくなるのは私だけか? 9時まで原稿。9時、K子とソバ屋の前で待ち合わせるが満員。船山をのぞいたら空いていたので、そこで晩飯。巨大なる夏牡蛎、一個余っていたのを食べさせてもらう。他にはカサゴの刺身、米ナスの田楽、甘鯛のテンプラ。K子に“ズベズダ”と言ったら、切り返すように“パパパヤー”。・・・・・・いい夫婦だ(そうか?)。

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