裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

土曜日

ウンベルトはエーコだ寝んねしな

 タイトルに意味はない。朝8時起床。朝食、自家製コロッケパン、スイカ。午前中までに週刊アスキー原稿アゲる。電気代支払い。一般家庭に比べて高い金を電気に支払っていると思うが、これは主にエアコン代をケチらず使うため。本がこれだけあると、夏の湿気が一番怖いし(カビ、湿気によるムレなど)、都心でこれからの季節になると、夜中エアコンなしでは安眠できず、眠れなければ仕事の能率が半分以下になる。こないだ日記に書いたが『知的生活の方法』ではクーラーを知的生活の必需品、と絶賛していて、“神代以来の日本の建築を一変させた文明の利器”“日本人はクーラーの普及で初めて欧米人に匹敵する知的業績をあげることができる(夏でも頭が働くから)ようになった”などと、スウハイに近い書き方をしている。これを読んだのは高校生のときで、北海道住まいだったから、“何とオオゲサなことを言う人だ”と笑っていたが、東京に出てきて、それを実感したことであった。

 トイレのドアノブが壊れ、内側のがスッポ抜ける。片手にノブ、片手にズリあげかけたパンツつかんだ格好のまま、一瞬、キャンディド・カメラの登場人物のような表情でボーゼンと凍りついていた。修理が二時に来るので、早めに昼食。チャーリーハウス、定食売り切れなのでパーコーメン。夜までこれだけでもつかどうか不安だったのでドーナツ一ケ齧る。二時カッキリに道具箱持ったお爺さんがやって来て、二分で直していった。ボルトアンドナットには案外強いはずの私がいろいろいじくりまわし てわからなかったのに、やはりプロは強し。

 1時に週アス原稿書き上げ、K子の仕事場にFAX。それからガロの日野日出志特集原稿十枚、だぎだぎだぎと書く。日野日出志と言えば『地獄の子守唄』のラストの
「死ね、死ね! おちろ、おちろ! 地獄の底へおちろ! おちてしまえ!」
 のミもフタもない絶叫が超有名だが、呪詛のコトバとしてはその続編とも言うべき『地獄絵師の告白・地獄変』のラストのセリフの方が、インパクトこそ弱いものの、 いわゆる“言霊”的な力がこもっている。
「君は死ぬ!
 あなたは死ぬ!
 おまえも死ぬ!
 きさまも死ぬ!
 貴兄も死ぬ!
 貴女も死ぬ!
 てめえも死ぬ!
 そっちも死ぬ!
 あっちも死ぬ!
 みんな・・・・・・!
 死ねえ〜っ!」
“死ぬ!”というリフレインに“貴兄も、貴女も”という無意味な敬称がアンバランスな感覚を産み出していて非常に印象深く、読んでしばらくは手仕事しながらハナウ タのように“貴兄も死ぬ! 貴女も死ぬ!”とつぶやいていたものである。

 5時45分までかかって脱稿。まだ粗けずりな部分があるが、それはゲラチェックで直そう。週アスとこれと二本立て続けにやって、多分バテるだろうと予想してマッサージ予約しておいたが、まだそれほどバテてはいない。体調がいいのだろうか。しかしまあ、予約しちゃったので6時、新宿へ出てサウナ&マッサージ。サウナは、エアコンのせいで汗をかいていないので、細胞内にたまった水分がスポンジを絞るような感じでジャバーッと出る。水代謝のためにも、時々行った方がいいかもしれない。 8時、ブックファースト前でK子と待合せ、『宇の里』。コロッケ(和風のと、イタリアンのと二種類)つつきながら日本酒。まだ飲み足りないというK子と、渋谷センター街のバー『八月の鯨』に行く。土曜夜のこととて大混雑、しゃれたバーとは思 われない“エエいらっしゃいませッ”“三人さまご案内ッ”“ハイ奥の五番さんジン トニックお代わり承りましたッ”という叫び声が飛び交う。バーだか魚河岸だかわからない。ここ、店名でもおわかりと思うが映画を店のモチーフにしており、好きな映画のタイトルをバーテンダーに言うと、イメージでその映画のタイトルをつけたカクテルを作ってくれる。試みに“ゴジラ”を頼んだら、ラムとミントとカンパリとオレンジビターが入ったクソ甘い酒だった(これは昭和ゴジラか平成ゴジラか、と訊いたが通じなかった)。他にメニューには“スティング”“ローマの休日”なんていかにものものから“風の谷のナウシカ”“七人の侍”なんてどういうカクテルじゃ、というのがズラリとある。“フリークス”とか“不思議の国のゲイたち”って酒が飲んでみたいものであります。帰宅して、寝ころがりながら届いたSFマガジン読む。61歳で死んだジョン・スラデックの『月の消失に関する説明』(柳下毅一郎・訳)が泣けるナンセンスで最高。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa