2日
金曜日
エロサイト思えど今日の寒さかな
シャレも寒い。朝7時半起き。朝食、アボカドとミートボールのサンドイッチ。昨日見た夢を日記に書こうとするが思い出せない。夢の中で何かを必死に思いだそうとしている夢で、その何かが何だったかを必死に思いだそうとしているという状態も何だかわけがわからん。光文社出版部O氏から電話。先日来、何度も電話あったのだがカケ違って留守録になっていた。“メール拝見しました”という電話もあり、メールなぞ出した記憶はないが、と首をひねっていたが、今日の電話でわかったところではどうもこの日記のことであるらしい。串間さんの事務所で見ていたのですな。来週打ち合わせ。あと、『怪体新書』また重版とか。長持ちするな、この本も。
仕事、次々に来るのは非常に有り難いが、雑事にわずらわされずじっくり執筆する時間も欲しいところである。昨日K子が、来年あたり一カ月かそこら、海外にアパートでも借りて仕事に専念するのはどうか、という話を持ちかけてきた。彼女はロンドンでロシア語教室に通いたいという。どういう発想なのであるか。弁当作り。鴨じゃが煮。自分はコールドコンソメスープを使った鶏茶漬けで昼飯。
集中力なく、ちょっと仕事しちゃ寝転がったりなんだり。現代教養文庫『弊風一斑畜妾の実例』(黒岩涙香)読む。奇書というべきか、これを文庫で出すという意義の果たして奈辺にありやと怪しむべきか。明治31年、涙香が発行していた新聞『萬朝報』に、当時の各界の名士大物金持ち連が何というメカケを、いつからどこに囲っているか、というデータをひたすら列記した記事を毎日掲載した、その連載の文庫化である。
「医師蜷川昌は三田四国町一番地の自宅に妾笹井いと(二十七)を蓄えいたるが、同所樹木谷に別邸を新築してこの程これに移す」
「朝日新聞社員、木村騰は京橋区南鍋町一丁目九番地に武笠哲(二十四)なる妾を蓄う。この哲はかつて蛎殻町の牛肉店中初の妾となり、後横浜の芸妓屋大泉の抱となりて勤めいるうち木村に落籍さる。又木村は新聞社に勤むる傍ら南伝馬町二丁目九番地にて煙草屋を営めりという」
「鳩山和夫(唐沢注・鳩山一郎の父、由紀夫、邦夫の曾祖父)はこれまで数人の妾を置き書生に逃げられたることなどあり。当時は新橋信楽新道の青柳小浅こと鈴木みち(二十五)を妾とす。この小浅はかつて烏森浜屋の伜権平の妻たりしが、一昨年離縁され江戸屋の抱えとなりて勤めいるうち鳩山の寵を受け、そのお蔭にて昨年中右のと ころに営業せしなり」
などという記述がエンエン、510例も並んでいる、ただそれだけの本である。いかにも明治というか、プライバシーのプの字もないとはこのことであろう。荒しが個人の電話番号を掲示板に書き付けるようなものである。涙香の正義感の前には名誉棄損などという考えは全く問題にならなかったと見える。困ったもんである。
畜妾者として取り上げられている人物は無名有名とりどりだが、有名人には西園寺公望、伊藤博文、井上馨、犬養毅、山県有朋、黒田清輝、北里柴三郎、勝海舟、日本赤十字の創始者佐野常民、北海道開拓の祖岩村通俊、高嶋易断の祖高嶋嘉右衛門、早稲田大学二代目総長高田早苗、ベルツ博士から森鴎外まで華やかで、ホホウこんな人までがメカケを、という面白味はある。また、三面記事的興味を持って読めば、
「本郷区湯島切通坂町五番地、小間物商伊勢屋の主人忠次郎(四十四)は自分より十四も年上なるうの(五十八)という老婆を妾とし、それがため伜の勇三郎(十七)をわざと他へ奉公に遣り、家にてはおうのが年にも恥じず毎日白粉を塗り立てているを見、近隣の人いずれも不思議の眉を顰めおれるが、その仔細を尋ぬるにおうのはもと霊岸島にて信濃屋という小間物屋の女房なりしが、或年亭主が一子の勇三郎を残して病死せしかば、多情なる後家のおうのは番頭の忠次郎と通じてついにこれを養子とし世帯を纏めて今の所に移転せしなるが、血こそ分けざれ義理ある母子の仲なれば世間を憚りて忠次郎はうのを以て己れが妾なりと吹聴し、おうのは又忠次郎を以て男妾なりと吹聴しおれり。実に沙汰の限りなり」
などという記事の面白さっちゃない。・・・・・・しかしながら、これを文庫本で読んで喜々とするのは私のような物好きか、よほど明治人のスキャンダルに興味のある人くらいで、しかも専門にそういうことを研究する人なら文庫などを読まず、図書館で萬朝報の現物の縮刷などにあたるだろう。なんのためにこれを文庫に入れたか、果 たして採算は取れるのか、そのあたりが何とも不可解である。
快楽亭は談之助によると(まったく“骨の折れる”アイノコだ、とのこと)9日の二人会、なんとかトークには出演できるとのこと。まずひと安心。中野貴雄カントクに電話して、ネタの提供をお願いする。自宅にかけたら“この電話はただいまお客様の都合により・・・・・・”最近仕事はコンスタントに入っている筈なんで、電話代でまたオモチャ買ってるんだろうなあ。携帯で、通じた。
8時半、夕食。牛肉と長芋の木の芽煮、マナガツオの揚げ物甘酢かけ。LDで『マグマ大使』のバドラの回を見る。バドラ出現の報を受け、緊急連絡に走る車のシーンの遠景に、ありありと路のわきで立ち小便している(終わってしずくまで切ってる)オッサンの姿写り、K子大喜び。