裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

ヘルニア及びません

 脱腸というほどのものでは。朝8時起き。昨日のキャベツスープにサラダスパゲッティ入れて朝食。徳間書店から『新人賞の〜』のオビ文につきメール。意見 述べて返信。今日も朝から暑い。鶴岡からの電話でさらに暑苦しくなる。朝まで田村信、江口寿史と飲んでいたとか。なをき、とり・みきも同席していて、盛り 上がっていたらしい。

 K子の弁当、冷蔵庫のご飯が固くなっていたので炒飯にする。大和書房原稿、書き出すが頓挫。集中力がなくなっているな。昼、銀行に金を振り込みに(還付 金の一部を郵貯にしていたが、居間の改装のため一時降ろした)行き、自動振り込み機を使うが、途中で機械がエンストを起こし、昼なので修理する人がいない ので30分後に来い、と言われる。詮方なく近くの回転寿司で昼食。頭に血がのぼっていたか、今夜寿司屋に行くことにしていたのを忘れていた。まあ、回転寿司は寿司と別物だからな。金は30分後、無事振り込み直せました。

 帰宅して、今度は海拓舎原稿やり出すがこれも頓挫。目次(章だて)部分のみ整理する。これまで語り起こした原稿を思い切って整理し、本のエッジをシャー プにしたが、これで方向性がぐんと明確になってきた。3時、時間割でFくんとそれを元に打ち合わせ。そろそろこの本の内容抜粋を持って海拓舎の営業があち こち回っているが、なかなか反応がいいそうだ。サイン会などの依頼もこれまでの本以上に来ているという。来週あたりにイッキまとめしなくてはなるまい。

 少しFくんと話す。論文調の本を出すとき注意しなくてはいけないのは、それが学術的に偏りすぎて、一般読者の興味から離れてしまうことである。われわれ は学者ではなく、売文業者であることを忘れてはならない。われわれは発想の奇抜さと、文章の面白さによって読者の知的好奇心を刺激することが与えられた役 割なのだ。書くものの考証の精緻さを商売とする学者とは、立脚地がそもそも異なっている。もちろん、トンデモ本になってしまうほどのデタラメをよしとする ものではない(実はトンデモ本の大部分は発想の飛躍などのほとんどない、ルーティン的思考のパターンでしかない)。しかし、積み重ねたデータの上に1パー セントの“飛躍”を与えねば、それは一般読者にとってはなんの必要性もない資料の山にしかならない。どれほど慎重な分析を重ねようとも、そこにエンタテイ ンメント性を入れることを忘れてはならない。それがその文章を売って“食べていく”ものの役割なのだ(声には出さないが、私はこれは学者の人たちにだって必要な資質だろうと思っているんだが)。

 よく、評論家で、昔は斬新で面白いことを書いていたのに、最近は“そんなこと、誰が興味持つの?”というようなことにこだわった文章しか書かなくなる人 がいる。映画評論などに多いが、些末な撮影技術とか、上映の際のスクリーンの性質、公開年度の資料などについて、くだくだと細かな検証を重ねるだけのもの を、それが学術誌ならともかく、一般誌に発表し、“一見地味だが、これは映画というものの本質に関わる重大な事項なのだ”と気張ってみせる。確かに映画に とっては重大事かも知れない。だが、映画ファン全てに、そこに興味を持てと迫るのはいかになんでも無理なことである。そこが判断できなくなってしまうとい うのは、評論家としての老化である。どういう視点、発想が売り物になるか、という市場把握感覚がスリ切れてしまったのだ。いや、それならばまだいいが、独 自の視点を“独断”とか“無責任な想像”と否定して、資料の分析の中に閉じこもっていってしまう人も多い。己れの想像力鈍化を正当化するのである。

 これはモノカキとしての自戒だが、ものを調べるのは面白い。自分の頭の中に知識がひとつひとつ増えていくことは何にも替え難い快感である。だが、往々に して人は、その快感に酔うあまり、それが他の人、ことに読者にとっても快感である筈だ、と信じこんでしまう。自分がオモシロいということと、第三者にそれ をオモシロく読ませるよう論を組み立てるということは全く別事項に属する。家庭で作る料理で、これなら店に出しても通用する、と思われるものは多いが、実 際に店でプロが作っている料理というのは、その上に必ず一点、商品化する際の工夫を加えているものだ。調理師と違い、われわれモノカキには免許というもの がない。プロとアマの境目は限りなく不透明だ。だが、商品として見た場合、その一点で差は歴然と存在するのである。書いたモノを売って食べていこうと思うならそのことだけは忘れても念頭から去らせてはならないのだよ。

 少し買い物し、家で大和書房原稿再開。K子から電話で、今日は寿司屋でなくうどんすきにしよう、と電話。重ならないですむのですぐ了承。7時半、新宿駅 ビル南口方面で待合せ。スコールのような雨が降っていた。柿傳ビル隣のうどんすき『美々卯』。うどんすきセットと生ビール三バイ。かなり腹がくちくなる。 雨、まだかなり降っているので、向かいのカラオケボックスでしばらく雨宿りして帰る。帰宅したら、未確認だが快楽亭の師匠が階段で転んで今度は背骨を骨折 との情報。おいおい、今日が自分が脚本・出演の映画のクランクインでなかったか。こないだの骨折も映画の撮影中だったし、よほど現場にたたられている人で ある。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa