裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

土曜日

ホー! チ・ミン諸君

 川島雄三リバイバル。朝7時半起床。朝食、昨日と同じくシーフードピタパン。朝のニュースショーは皇太后ではなく金正日一辺倒。マスコミも歓迎ムード一色だが、これからの韓国は東ドイツ背負ってヒイヒイ言ってる西ドイツのような状況になるのではないか。そう簡単に北朝鮮じつはいい国、とテノヒラを返してしまっていいのかねえ。

 午前中は雑用でつぶれる。K子に弁当(桜エビ入り卵焼き)作り、風呂に入る。このマンションの浴室は部屋数に比して極めて小さい。自分のヒザを抱くように、ちょうど映画『家族ゲーム』に出てきた風呂みたいな入り方をしないといけない。私は子供のころから広い風呂に入り慣れていた人間で、これまでも家を選ぶときは浴槽の大きさを基準にしてきたので、現在のマンションに移ったとき、唯一の不満がこの浴槽だった。・・・・・・ところが、この、ヒザを抱いて入る風呂というのに、今はかなり満足しているんだな。胎児のスタイルだから落ち着く、という理由ではないだろうが、足をのばすよりもむしろリラックスできる。そのままぬるめの湯にじっとひたっていると頭が活性化してきて、壮大な理論が組み立てられる、とまではいかないがちょいとした原稿のアイデアならすぐ浮かぶ。たとえ浮かばない場合でもこの日記のタイトルの駄ジャレくらいは思いつく。

 昼は参宮橋で道楽ラーメン。そのまま新宿に行き、秋葉原に出て小雨の中、しばらくウロつく。コンドールマンのLD最終巻買う。マグマ大使のLDボックス、買おうかどうしようかしばらく迷うが、結局買わずに、中央線に乗り換えて中野までノス。中野ブロードウェイ、しばらくご無沙汰だったがさらに魔窟化が進んでいる感じ。古書ワタナベはもはや本の山で客が足を踏み込めない(レジから客席が本に隠れて見えない)状態になっているし、ただそこらにスチール本棚いくつか並べて売っている、という感じの、フリマ風な店まで出来ていた。大予言に行って、主人夫婦とひさしぶりに話す。“唐沢先生のおいでになるときはいつも雨ですねえ”と言われる。そう言やそうか。他に歩書房で文庫ちょっと。ブロードウェイのビデオ屋回るが、やはりあ の秋葉原のマグマ大使買おか、と思いなおす。

 一旦家に帰り、すぐまた外出。新宿京王プラザで散髪。ここはいつでもガラ空きなのですぐやってもらえる、という理由で使っているのだが、今日は満員で、しばらく待った。今日はアタマ使いたくない日なので、池波正太郎の『鬼平犯科帳』など読んで待つ。ホントにスイスイ読めて滅法面白く、読んだあと、何かうまそうな料理を食べていた、ということくらいしか残らない。も少し何か残してもいいのでは、と思うのだが、さすが江戸っ子の作者、見事に何も残さない。エンタテインメントの極致。終わって時間が半チクなので、ご苦労さまなことにも一度秋葉原行き、結局、マグマ買う。なんだかなあ。そんなにマグマ大使見たいわけではないのだが、迷って買わなかったというのは、ウンコ出しかけてまた引っ込めたような感じがつきまとうからなあ。これまでも、マグマ大使のLDボックスは見かけるたびに心のすみで“買っとこうかな”と思っていたブツだからなあ。

 8時、幡ヶ谷チャイナハウス。少し早めに着いたのだが満席状態で、やっとカウンターに座れた。隣に座った夫婦ではないらしい中年カップル、イチゲンさんで、ここの料理の薄味にとまどい、“醤油ないの?”とか言って、露骨ではないが軽蔑されたらしく、後はシューマイくらいしか出してもらえず、すぐ出ていってしまった。自分がこの立場だったら嫌味な店に映るだろうが、この二人(特に男)、自分がいかに香港とか上海で中華を食べてきているかを相手の女に自慢ばかりしているヤな奴であったので快哉を叫ぶ。店に媚びるのは客の態度にあらず、とは思うが、お得意さんとして珍しいもの食べさせてもらう特権にはかえられず。本日はクエのクチビルという珍味を出してもらった。猩々のクチビルというのは聞いたことがあるが、クエのクチビルとは初耳である。モズクのようなキノコとからめて出されたが、モチのようなねっとりした歯触りと白い色で、言われなければ材料が魚だとはまず、わからない。口に含んでいるとかすかに貝柱のような風味が感じられる。人間てのはあらゆるところから美味を発見してくる生きものなんだなあ。老酒に、こないだ陶然としたパイチュウ(兎丸氏がこれにハマって、こないだ藤谷文子ちゃん連れて飲みにきたそうな)が加わり、かなり酔ったかもしれない。

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