裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

木曜日

このやおいの紋所が目に入らぬ か

 さすが助さん、元祖ジャニーズ。朝方、奇妙な夢をエンエン見る。動物園に鼻のやたら大きいコウモリが輸入され、鼻面がベルの形をしているので“ウェディングベルバット”と名付けられるのだが、このコウモリはその鼻で花や果実の香りを嗅ぎ、その香りだけを栄養にして生きている。したがって消化器官というものを持ってない。それでもウンコはするのがマスコミで不思議がられる。姿はグロテスクだが、花の香りで生きているというその生態がロマンチックだと女性の人気を呼び、やがてこのコウモリが人間になったら、という映画が作られることになり、私もスタッフの一員として駆り出される。脚本を書かされて苦心してるうち、主人公のキャストが香取慎吾になったと聞いて、なるほど、彼なら鼻も大きいし、名前も香取で似合っている、さすが映画会社もキャスティングには頭を使う、などと変な感心をしているところで目が覚めた。この夢のコウモリの姿のモデルは以前買った『世界珍獣図鑑』に載っていた“ウマヅラコウモリ”なのだが(こいつは果物の汁だけで生きているコウモリで、生態も似通っている)、別にこのコウモリに私が入れこんでいるわけでもなし、何故にこんな夢を見たかはナゾ。

 8時起き、朝食エビフライサンド。雑用ばかりで午前中仕事できず。開田裕治氏から、昨日の日記に書いた“話は聞いた”の元ネタは『太陽にほえろ』だという指摘。なるほど、あの人のヘッダには他にコロンボからとったものもあるし、刑事ドラマのファンなのか。K子に弁当、朝の目玉焼の残りをオカズという超手抜き版。こっちの昼はタコの塩辛で茶漬け。

 郵便局から電話あり、K子が私名義でかけていた保健の保険金が今回の入院・手術で降りるのだが、書類に不備があるので私本人に確認をお願いします、とのこと。係の人が来宅したので、目の前で書き直す。俺の怪我で儲けやがって、とも思うし、怪我くらいでしか女房においしい目を見せてやれないのも情けない、とも思う。

 3時、時間割海拓舎Fくん。まあ、今日は雑談。この本の執筆完了のメドがそろそろつきそうなので、次の本の話もする。某若手マンガ評論家の話が出て、私もFくんも彼のファンなのだが、Fくんの知人の某社の編集が彼の本を出そうと企画して上に持っていったら、“本を出せるという格の人物じゃないだろう”とハネられたとか。文章はまことに面白いのだが、いかんせんどれも1200字程度のコラムのワクの中での面白さで、モノカキとしてのスケールが小さすぎる。“錦にしてもタバコ入れ”という言い方があるが、まさにそれである。じゃあ、大論文を彼に書かせたら面 白くなるか、というとこれには私もFくんも未知数ゆえに首をひねらざるを得ない。なまじ彼、売れていてあちこちに小コラムを持っているだけに、それだけの男、というイメージが定着しすぎているのだ。自分にとっていい売れ方をする、というのはまことに難しい。

 Fくんと別れ、都市論の押さえの資料を買いにブックファーストへ行く。いろいろ買ったついでに古典の棚をなにげなしに見て、目についたものをなにげなく手にとってパラパラ読んだら、今書いている原稿の内容に無茶苦茶密接にリンクするものだった。西手新九郎、とりついている。ありがたいというか、このことへの言及でまた原稿内容手直ししなくてはいけないのでトホホというか、うれしいようなつらいような気分。

 帰ってその資料に目を通す。ついでに露伴先生の『一国の首都』ももう一度それとのリンク部分を読みなおす。露伴先生、文字の知識ありすぎで、ノッて書いているところなど、ほとんどリズム感覚のみで筆を走らせているな、という感じ。
「蘆荻蒹葭の地は漸く連甍列檐の街となりて、鷺鷙の棲みたりしは鴛鴦の睡るところとなり、紅楼春長へに翠帳夢暖く、狂蝶痴峰の往来滋くして乱舞嬌歌の熱閙を極め、桃李媚び笑へば下自ら蹊を成し」(街、鷙はJISにない字なので似た字で代用)
 など、美文の教科書を書くつもりならともかく、都市論の中ではいかになんでもやりすぎである。

 9時、夕食。ジュンサイと牛肉の煮物、大目鱒塩焼、ありあわせのもので簡便パエリヤ。鱒の滋味、舌がとろけるかという程。ビデオでサウスパーク。区民税支払った残額の還付金がやっと返ってきて、ホンの少しリッチな気分。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa