裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

金曜日

癒しの塩焼

 大根おろしを添えた本当の自分との出会い。朝8時起き、半に朝食。シーフードサラダをピタパンにはさんで。皇太后陛下危篤の報に、気の早いTV局はもう、“昭和天皇陛下と共に戦後の日本を国民と・・・・・・”まだだっちゅうに。

 光文社文庫O氏からメール、『カルトホラー漫画秘宝館』文庫化の件。9月10月と連続でカエル編ミミズ編を出す。ちょっと予定よりズレ込んでしまった。まあ、いいか。メール連絡、他にいっぱい。ロフトプラスワン次回は8月22日、久美沙織さんとで“ライブ版・新人賞の獲り方おしえます”。

 K子に弁当(エビ丼)作り、送り出して風呂入る。上がって、カビが生えないようにドアを開けっ放しにして乾燥させていたら、ネコがいつの間にか入って、風呂桶をぺろりぺろりと舐めていた。まるきり、妖怪あかなめである。水はたっぷり与えているはずなのに、年中風呂場に入りたがるのは、生温いのが好きなのか、やはり肉食獣だけあってアカの味がいいのだろうか。

 12時半、チャーリーハウスで昼飯を食おうと思ったが列がズラリであきらめ、近くに開店した宇明屋の一口ギョウザ定食。“うめえや!”と声をあげるほどではないが手軽なのはありがたい。1時、時間割で大和書房打ち合わせ。串間努さんの『子どもの頃の大疑問』恵んでもらう。本来は私の本の方が先に出るはずだったのだが、追い抜かれてしまった。頭脳パンのキャラクターである博士の顔が林髞(木々高太郎)の似顔だなんて、スゴい情報も入っているかと思えば、“こんなこと、自分で調べんかい!”というくらいウスい質問もあって、そのレベルの高低の差を別け隔てず取り上げている姿勢がいい。

 私の質問(「割箸のない外国では綿菓子はどうやって作るのか?」)の答えも出ていた。割箸の代わりに紙製の三角錐でからめるのだそうだが、これは綿菓子完成後には抜いて捨てるのだろうか?(食べるときは袋からちぎって食べるという説明から、そのように思えるが)。昔、『トプカピ』という映画でロバート・モーレイが、7〜8センチ角の四角い紙を三角に折って、それで大きな綿菓子をはさんで食べていた。あれを見たとき、どうやって綿菓子をまるめるのかが不思議に思えて仕方なかったのだが。・・・・・・世界というものは、こいった些末な記憶の寄木細工で形づくられた共同幻想である。世界はけして個々人の歴史の集積ではない筈なのに、なぜかその時代を代表する駄菓子やテレビ番組は、個々人のノスタルジーを越えて世界感を形づくる。串間氏はモノを通して世界を語る吉本隆明なのだ。吉本センセイは頭脳パンを食べたことがあるだろうか。

 パルコブックセンターで本を買う。少しリッチになったという油断で、手元にたちまち本の山が出来るが、いやいや、ポーランド旅行の振り込みもあるのだ、と思いなおして半分に減らす。家に帰り、日経ヘルスの原稿を書く。太田胃散についての原稿だが、この歴史を調べて見ると、殖産興業の時代と製薬業、洋食の入ってきた時代と胃薬、マスコミの誕生と宣伝戦略、などというファクターに、自ずから明治という時代が透けてみえてきて、まことにオモシロイ。まさに時代の申し子だった製品なのだなあ。福沢諭吉が時事新報に“売薬無効論”を発表し、太田胃散や宝丹、精綺水など当時の有力薬品メーカー四十五社が営業妨害として時事新報を訴え、福沢もこれに対抗して次々と売薬攻撃を展開して大ゲンカした、などというエピソード(結局、時事新報側の敗訴で福沢の面目丸つぶれ)はいかにも啓蒙家の福沢らしい傲慢さで結構。6時半、完成させてメール。買い物に出る。夕刻、皇太后陛下逝去なれど街ゆく人々に変化なし。

 買い物して帰り、バイク便で日経に図版資料届け、夕食の準備。タラのスリ身バーグいしり風味、シャケ塩焼、ルーロー麺。ビデオでサウスパーク。

・今日のお料理(ひさしぶり)『ルーロー麺』
 ヒゲ長のルーロー飯を、なんとか自作しようとしてみた成果。まず、韓国食材店にある(最近はスーパーにもある)豚足を買ってきて、骨と可食部分を分け、骨は捨てる。骨を捨てると本当にわずかばかりしか残らないから大目に買ってくること。フードプロセッサにかけ、米粒大の細切れに。鍋に湯を沸かし、細切れを投入、アクをすくったら白酒(パイチュウ)をドボドボ、ネギやニンジンなどの切れ端、ニンニク、ショウガ一片、八角とナツメグをひとかけづつ入れて1時間ほど煮込む。コンドロイチン分が染みだし、ドロドロになってきたらネギや八角などの香味材を引き上げ、醤油と、好みで砂糖で味付けしてさらにひと煮立ちさせる。これを飯にかけて食べてよし、マントウにはさんで食べてよし。今日は冷やし中華にかけてジャジャ麺風にして食べた。シャキシャキに茹でたゆでモヤシを添えると歯ごたえが楽しい。翌朝、お肌 がツルツルになる。沖縄に行くとツラガワと言って、蒸した豚の顔の皮をお面みたい にはいだものを売っている。ヒゲ長ではこれを使って作っているらしい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa