裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

日曜日

五月五日のメメクラゲ

 お腕の傷はおととしの。なをきの『平成動物会社』の“でんきくらげ にごりえ”というのとカブるな(あのタイトルには2分間笑いころげた)。朝7時15分起き。朝食、またコロッケサンド。朝もコロッケ、晩もコロッケ、これじゃ年がら年じゅうコロッケ。メール読んで笑う。

 母から電話。親父の身柄奪還に対しいろいろサクボウをめぐらしている様子。夏に出す予定のUA!ライブラリー最新刊用の作品を読む。ストーリーの前後のつながりなどという“些事”に頓着しない好美テイストばりばりの『呪いをあなたに』と、素人発明家で発明に関する著書もある先生のアイデアマンぶりがかいま見られるエロマンガ『ドケチ』という、奇作二本立てであります。“蚊を殺すことがなによりの楽しみ”というイッてる女子高生が、憎い相手に蚊でジャムを作って食わす、などという話をどうやったら考えつくんだろう。いや、考えついてもどうしたら実際に描く気になるだろう。マンガというものの魅力の底の底の方(本質、などと野暮なことは言わないけれど)には、こういう分析不能な、思いつきをそのまま絵にするという行為のインパクトがあると思う。入手方法など詳細は決まり次第、アップするので。

 トイショーに行きたいのだが予定詰まっていて行けず。原稿書いてばかり。昼飯は西武の地下で買った安いウナ重。圓生の『永代橋』を聞く。『粗忽長屋』があれば、残す必要もさしてない噺だと思う。腹ごなしに明治の思想関係のカタい仕事用読書。さすがに眠くなるので、明日の対談の核になるようなオタク関係資料を。

『月光』(こんどは『JAPAN』か)用の原作書いてK子の仕事場にFAXし、新宿へ。中村屋地下で南原氏と打ち合わせ。美好沖野さん、今日はコミック即売会の方へ行ってしまったそうで、基本的な明日の打ち合わせの打ち合わせで終わる。

 外で食事のつもりだったがこれで予定変更、紀伊国屋書店をヒヤカシて、岩波文庫の品切れものなど、それから小沢昭一『日本の放浪芸』のCDボックスなどを買う。今日の読売の読書欄で書評されていた、現代思想ケチョンケチョン本の『知の欺瞞』(岩波書店)、レジの店員用メモに“書評出。×棚に平積みしておくこと”などと書かれていたので、どんなもんかと見てあれば、なんと残り一冊という人気。これまで何となくウサンには思っていたがなにしろ知識がないのでビビっていたポスト構造主義からの足抜けの理論本として、ちょうどオカルトからの足抜け理論本にトンデモ本の世界が売れたのと同じような感じで人は買っていくらしい。

 SFマガジンでも鹿野司さんがこの本のことを語って、
「現代思想ってビデオゲームに似ている。やってるときは熱狂的にハマるし面白いけど、たくさんの呪文を覚えても、現実生活にはなんの役にも立たない」
 と評していた。・・・・・・私は(珍しく現代思想擁護をすると)、無用のものだからこそ、ビデオゲームが大流行するのと同じく、現代思想のニーズは生じていると思う。浅田用語、柄谷用語の二、三十をマスターし、蓮見文体のコワイロをちょいと使うようになれれば、これらを組み合わせていくらでもエラそうな文章、つまり役をつくっていくことができる。マージャンと同じなのだ。

『知の欺瞞』で著者の科学者二人組は、ポストモダン思想全体を批判しているわけではない。あくまでも、科学者として、厳密たるべき科学用語を人文科学や社会科学の分野に安易に使用することのナンセンスさを語っている。現代思想嫌いの人々も、ここをカン違いして、この本を現代思想批判のバイブルとすべきではない(と学会の本をオカルト批判のバイブルとすべきではないのと同じだ)。ただし、ポスト構造主義と誠実に向い合うこともせぬままに、そこでの用語をひけらかして(流用の流用だ)森羅万象に高度な批評をしたつもりになっている利口ブリッコの思想オタクたちにはイタい本になるだろうと思う。

 新宿の人出は沙汰の限りで、買い物はあきらめ、タクシーで青山まで出る。運転手さん、選挙について語る々々。帰って夕食作り。豚肉とアサリの酒蒸し、カツオのたたき、煮豆腐。カツオのたたきはいつも出来合いのものを買ってくるが、今日は自分で焼いてつくる。やはり風味、天地の差。なんでも手間かけて作るものだなあ。

 選挙速報、続々。当初地方での開票で圧倒的強さを見せつけていた自民党、都市部でボロ負け。しかしまあ、森喜朗のようなひどい人物をトップに立ててこれだけ議席とったんだから、評価としては大善戦だろうとしか思えない。自民批判票をひとりじめした民主のボロ勝ちは大して意味もないが、その陰で公明、共産が議席をガタ減りさせたことの方が大変にオモシロイ現象と言える。共産党の、謀略ビラのことしか繰り返さぬ記者会見の異様さには、裏者として喜々としてしまった。一億枚ってスゴい数字だよなあ。なんだかんだで、結局2時までテレビの前にクギづけ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa