裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

月曜日

グエン・バン・チュー太

 ベトナムの星ぃぃ。朝7時半起き。朝食、チキンとトマト、スイカ。竹下元首相死去、朝刊にはまだ載っておらず、テレビのニュースで見る。政治家の死が相次ぐ。今回の選挙で“代議士の定年を65歳にする!”と吠えてる若い人がいたが、“老人が生きがいを持って働ける社会を”というお題目が、なぜ政治の世界には適用されないのか、そこらへんの説明をしてくれると面白いんだがな。老害々々というが、今の日本の若い政治家に、本当に日本政治を変革し、しかも内外に山積した諸問題に対応できるだけの柔軟な思考力と実行力を持つ者がいるとは、自己申告以外寡聞にして聞かないのだが(田中角栄も中曾根康弘も青年議員の頃からズバ抜けた実力とパフォーマンスで圧倒的な注目のをされていて、しかもアレであった)。政治家と言えば、昨日の『知ってるつもり?』でかかった、山村新治郎がよど号人質の身代りとなってオトコを上げたときに出た春日八郎の演歌『身代り新治郎』、このレコード欲しいぞッ! あまりにバカバカしくて最高。

 K子への弁当はチキンとキヌサヤのタラコ炒め。原稿書き出すがテンション上がらず、ネットで資料検索するがそっちの方に熱中してしまって、しばらくサーフィン。某マンガ家のサイトで、『アイアンジャイアント』でホガース少年がロボットに“自分の人生は自分で選べる”と説教するのがよくない、少年が自分もジャイアントと一緒に悩み、考えるべきではないか、と述べている感想を読んだ。このマンガ家さん、日記など見るにいろいろ自分のレゾン・デートルなどについて思いを馳せている人らしく、その心情には理解できる部分もないではないが、どうも、読んで、そういう自分の姿勢に酔っているところがチラチラとかいま見えてしまった。

 だいたい、小学生が自分の人生の問題について悩むなんてことが正常な姿か? アメリカ人というのは子供のときからアメリカの国是が“自由”であり、自分の人生に対して自分だけが選択権を持っているんだ、と教えられている。ホガースはそれを口移しにジャイアントに伝えているに過ぎない。もちろん、その理想はホガースのような少年か、ディーンのような奇人、そしてアイアンジャイアントのような、無垢な魂を偶然持ってしまった存在にしか、素直には受け取れない。空虚化してしまった理想だからこそ、その理念を疑うことなく、ミサイルに向かっていくジャイアントの姿にみんな涙を流す。嘘っぱちだから、その嘘に感動することができるのである。もちろん、アメリカでも最近はスタートレックなど、主人公たちが自分で自分の存在に疑念を持つ話が流行っていることは確かで、このアニメはその潮流に棹さしたものである(だからヒットしなかった)。とはいえ、物語の本道に帰れ、という制作者の呼び掛けは確実にアメリカ、そして日本の関係者に影響を与えている。あの『サウス・パーク』にすら、自己犠牲の尊さがテーマとして描かれているのだ。このマンガ家さんがどのようなところでどのような作品を描いているのか、寡聞にして知らないが、およそ創作という作業に相携わるなら、宮台社会学などにハマる先に、シナリオ学校あたりで、物語というものの持つ機能と構造に対し、もう少し知識を吸収した方がいい。

 Dちゃんに、本の書評をした雑誌とビデオを郵送。どうしてこういうことがも少しテキパキできないか。そのまま新宿へ出て、王ろじでとん丼。昼どきをちょっと過ぎていたので、逆にカツは揚げおきでなく、揚げたて。無茶苦茶ウマかったが、熱くて口の中をヤケドし、あとで口蓋の上の方の皮膚がペロリと剥けた。

 紀伊国屋書店に寄り、落語のCDを物色。圓生の新しいシリーズが出ていたので、未聴のものチョイスして買い込んだら2万数千円になってしまった。うぐぐ。次回の紀伊国屋寄席にご招待、とのことだが、いまさら老残の小さんを聞いてもなあ。小三治は好みでないし、今の文楽はいわずもがな。今度、喬太郎がレギュラーになるらしいから、それだけはちょいと聞いてみたいような気がするけれど。

 帰って原稿書き、進まず。お盆進行にそろそろかかりはじめており、キチキチやらねばいかんのだが。南原企画の南原氏から電話、美好沖野さんの上京スケジュールについて。その他、原稿催促やらなんやら。選挙がらみの情報もいろいろメール等で入るが、今回の選挙はそれほどオモシロソウな奴が出てないので私的にはイマイチ盛り上らない。高信太郎がいったいどれくらい票を集められるのか、まず当選はしないだろうが、収支はとれるのか、ガッツ石松はその借金をいまだに背負い続けていると聞いたが、と他人事ながら心配。談志の言うように、選挙を一度体験したら、他のギャンブルなんてアホらしくてやっていられない、というような快感があるのだろうか。

 8時半、ブックファーストでK子と待合せ、道玄坂のねぎしに行くが満員、も少し坂を上がったところにある“田や”という料理屋に入るが、高いうえに大ハズレ。生ビールは水っぽいは、照焼はショッパすぎるわ、カツオの土佐づくりは生ぐさいわ。日本唯一の日本酒プロデューサーとかいう人物のポスターが貼ってあったが、その人物がつけた酒の名前が“文句なし”とか“両手に花”とか“胡蝶の舞”とか、まあ教 養レベルがわかるというもの。その人物の書いた酒の説明書の“天ぷらに効果あり” という文句に大笑い。なんだ、効果ありって。料理残して出て、花菜で口なおし。この店、調理法は単純だが、素材が確か。最近、店員の(顔の)質、とみに落ちたのが 残念だけどね。

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