25日
水曜日
敵にWindowsを渡す
フリーズして成仏しろ。朝7時半起床。珍しく曇り気味である。天気予報では雷雨のおそれとか。歓迎する方が多かろう。朝食、アボカドとスイカ。読売朝刊に“昭和三○年代の雰囲気を再現した町並みや店鋪が各地に誕生”と、カラーでレポートされている。まるきりオトナ帝国である。三○年代の適度な安っぽさ、適度な貧乏という部分が、癒しの役割を果しているのかもしれない。ワールドワイドな情報革命とか、個性尊重とか、エコロジーとか、そういうモノに人が押しつぶされていなかったあの時代に人々が安らぎを感じるのは至極当然、という思いがする。近代文明否定のアーミッシュたちほどストイックでなくてもよいが、少なくとも昭和三○年代以降の文明は認めない、とかいう人々の集落を日本のどこかに作ってはどうか(『キリンヤガ』みたいなことになりそうだが)。
午前中、買い物に出たり雑用いろいろ。海拓舎Fくんとは芝のスタジオで待ち合わせということに。『別冊文藝』のSくんから電話、円谷浩のこと。原稿戻しが明日になる、と伝えたら字では書けないような声を出した。昼は寿司屋で買った太巻き。今日、トラッシュフェスのチラシをスタジオのバイヤーさんたちに配る予定だったが、ハローミュージックから何の連絡もなし。携帯も通じず。大丈夫か?
2時、タクシーでスタジオに向かう。途中、トシャァ、と電光が光り、ヨゴヨゴヨゴ……と雷鳴が低く響く。青山近辺でプチプチという感じだったのが、麻布あたりでゴジャア、という大雨になり、一時前方がまるで見えなくなる。幸い、まったく濡れずにスタジオ入り。Fくんにフロッピーを渡し、控室で少し雑談。
今回は前半のブレーンに、西山さんに代わってトイザらスの服部正和氏。打ち合わせのとき、資料ビデオを見ながら、オモチャ販売の現場からむちゃくちゃに説得力のある発言をして、こっちはただ感心。メイクのお姉さんたちにシスターリカちゃんを進呈し、時間通り収録開始。今日は階段を上がったところの位置がいつもとは逆の第 一スタジオだったのでちょっととまどう。
進行はいつも通り。司会の勝村政信、押田恵の二人も手慣れてきたもの。特に、ゲストに対する勝村さんのミもフタもないツッコミ(出演者の出身地を聞いて「ずいぶん田舎から出てきたんですねえ」、茶髪の女の子の出演者に「キャバクラに勤めてましたか?」、年齢秘密の女性出演者に「本当はもういいトシでしょ?」等々)の、ダイレクトさがいささか固くなりがちな出演者たちにリラックス感をかもし出すこと抜群で、聞いていて岡田さんなどと大笑い。司会席では押田さんと、ブレーン席では内藤陽子ちゃん(明日から写真集撮影でマレーシアだそうな)と、ケンカ半分みたいなツッコミ合戦が繰り広げられる。
出演クリエイターたちは今回も多士済々、#18の女性三人、#19の女性二人に男性一人、いずれもプロとしての力量があるか、ユニークきわまる視点をもっているかのどちらか。ただ、その二つを合わせ持つというのは極めて稀なことなのだな、というのも正直な感想。あと、回を追うごとにみんな、プレゼン技術が向上してきている。これはこれまでの放映ビデオを見て、みんな学習しているからだろう。特に、私や岡田斗司夫から話題をひったくって自分の意見を述べたNicolaさんという女性クリエイターさんは、アメリカ留学経験があるそうだが、その売り込みの積極性は日本人離れしており、海外経験を無駄にしてないなという感じ。一方、いかにも人前でしゃべるのが苦手、という感じの21歳の家事手伝いのデザイン&造型家、Noeさんは、常に発言がワンテンポ遅れがちで、それで必死にしゃべっているという感じで、これまた結構。自分の中にある“発想のヘンさ”を、自覚なく出しちゃっているタイプで、ああ、そこはこう言えば、人がそのヘンさを面白がってくれるのに、と歯がゆく、私のサジェスチョンもつい、彼女の言いこぼしたようなことのフォローにな り、岡田さんから
「カラサワさん、彼女“萌え”でしょ!」
と喜ばれる。
と、いうか、もし、私の若いころに彼女のようなタイプの恋人と出会ったとしたなら、私は彼女のそのヘンさを愛し大事にするあまり、彼女が何か人に口をきこうとする寸前に、うまく代弁してあげたいという本能からこっちがしゃべってしまい、最初は頼りにされても、いつかどこかで彼女に“私はあなたの人形じゃない”とか言われて、ある朝目が覚めたら部屋から彼女がいなくなっている、というようなことになるのではないか。休息時間にそう言ったら鈴木さんたちに、“なにもそこまで細かくシミュレートしなくてもいいでしょう”と笑われた。Noeさんの現在の彼氏というのもデザイナーで、どういうタイプのデザイナーかと訊いたら、“鼻水をモチーフにしたキャラクターに凝っているんです”とのこと。ヘンな女性にはヘンな彼氏がつく。お似合いなのかもしれないが、ツイ、あなたが世にでるためにはマネージメント能力のある彼の方がいいよ、と、お節介すぎるセリフが喉元まで出かかる。
こういう若い人たちを見てると、普段はケッ青くさい、とか、苦労しらずが何ナマイキな、という思いが最初に立ってしまうのだが、今日はやたら、彼らの頑張りや苦労に対し、シンパシーが強く感じられ、及ばずながらもどうにかしてあげたい、という気持が沸いてくる状態になった。これはナニかと自己分析をすると、私の体の内なる“オバサンの声”なのじゃないかと思う。田中康夫じゃないけれど、年齢が増すと共に、どうも私の中に、母あたりからの遺伝子で伝わっているオバサン細胞が増殖してきたようだ。だから#19のイラストレーター、岡安典子さんのジャッジで、最初ランプが点灯しなかったのが間違いとわかり、後で黄色が点いたのを見ると“よかったね、よかったね”と思うし、今回の出演者中唯一の男性クリエイター、そとやまけん(#19)さんが、出品キャラの『はずかしがりくん』(これがまたバカバカしく可愛い)を地でいくような、地道な真面目青年(25才)で、ちゃんとゴハンを食べているのかと思えるような細い手足をしているのを見ると、もう愛しくてたまらなくなる。“彼の笑い声がカワイクて仕方ない”と言ったら、岡田斗司夫に“また来月の『噂の真相』に唐沢俊一ホモ疑惑説が流れますよ!”と突っ込まれたが、実際、今日は自分でも何か変に思えるくらい、若者に甘くなっている。ひょっとして気圧の乱れせいで、私の頭の中の“オバサン脳”が活性化したせいなのかもしれない。
サクサクと収録進み、7時15分にはアガる(まあ、撮影開始がいつもより1時間早かったせいもある)。勝村さん、押田さんが7月生まれということでハッピーバースディ。テレビ局の慣習なり。ハローミュージックAくんからやっと連絡、井上デザインからメールで送られた画像を開くのに時間がかかり、やっと刷り上げて持ってきたのだそうな。バイヤーさんあらかた帰ってしまった後だったが、なんとかソニー・マガジンズさんはじめ、数社の方にチラシを配ることが出来た。Aくん、大汗のもよう。いや、御苦労さまでした。#18に出演した女性クリエイター権平有美さんの連れのデザイナーさんに挨拶されたが、彼、例の『ブリスター』のアメコミ調デザインを担当した人だそうだ。世間はせまい。
鈴木さん西山さんと一緒に、幸栄へ行く。K子が列に並んでいてくれたが、時間が早いのでえらい混みよう。30分ほど待って、やっと座れる。やはりホルモンなどというものは大勢で食った方がうまい。スライステール、豚骨たたき、極ホルモン等のメニューをお二人とも、うまいうまいと絶賛。鈴木さんが日経で新しい雑誌を立ち上げるのに苦労している(なにしろ日経BP社には、もうたいていの雑誌が存在するのだ)話になり、みんなで『日経焼肉』だの『日経死体解剖』だのというアホな雑誌名を言いあって笑う。やはり、気圧の乱れでみんなワケわかんなくなっているらしい。
11時過ぎ、帰宅。メールいくつかチェックするが、ちょっと気落ちするようなものもあり、元気づけられるような報告もあり。人生いろいろ。雨のおかげでいつもより幾分涼しいような気がする。