裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

日曜日

鴻上が来た

 またあの第三舞台は。7時半起床。朝食、ガスパチョとスイカ。朝から汗ばむ暑さである。台所のシミだとか、テーブルの下のホコリだとかが、暑いと妙に気になってくる。神経がイラつくからであろう。母から電話。裏の土地の売却、案外早くなるかもしれないとのこと。読売新聞書評欄、木下直之氏が三遊亭圓生『明治の寄席芸人』の新装改訂版の書評を、CD『全集日本吹込み事始』とからめて立体的に行っているのが目につく。人が本を読まなくなっている時代の書評には、こうした試みが絶対、必要になってくると思う。筒井康隆が昔、『みだれうち犢書ノート』でそういう書評のさまざまな新工夫を試行していたが、その後を継ぐものがないのは遺憾である。

 午前中はWeb現代の原稿に手を入れる。編集者のIくんが、送った原稿の感想として書いてきた言い回しがすごくよかったので、早速いただいてオチの文句とする。昭和16年富山房発行『丸ノ内今と昔』読む。皇紀2600年記念出版として、丸の内の発展を江戸期から昭和16年まで記したものであるが、さすが当時の記念出版物だけあって、中に写真、浮世絵、古地図、絵葉書などをはさみこんでおり、やたら図版が豪華。印刷技術は稚拙だが、製本の丁寧さは、今では想像もつかないほど。内容も単なる発展史ではなく、風俗史でもあり、星亨暗殺やお艶殺しなどの犯罪記録もあり、エントツ男の写真なども載っており、実に面白い。

 昼はまた金沢の冷やしメンで、冷やしタヌキラーメンを作る。耳の後ろの汗腺から汗がポタポタたれる。冷房をきかせた仕事場で、原稿。眠田さんとの『トゥーン大好き!』、後半手入れ。ほう、こんなこともしゃべっていたかという発見もあり、我田引水ではあるが、お買得の同人誌になるはず。この中で、最近のトゥーンシリーズの 中にメタフィクション的な話が多くなっていることに触れて、その理由を
「やっぱりシリーズが長期化してきてノッてきたからでしょう」
 と分析しているくだりがある。007でもウルトラマンでも、シリーズ後期になると、その作品が人気が出てから参入してきたスタッフによって、そういうメタな構造の話が作られる傾向が出てくるのである。これも言わば、人気シリーズものの特性と言えるだろう。東浩紀氏が自分のサイトで『スター・トレック/ヴォイジャー』の中のメタフィクション的エピソードに触れて、何か語っていたようだが、例によって押井守あたりとの対比に止まっていて、バックの制作システムからくる必然性にまで目が及んでいない。もちろん、そういう重層的作品世界を好む作家性の問題(例えばウルトラシリーズの実相寺監督とか)もあるが、シリーズ初期からそれは出来ないことで、あくまでこういうのは、そのシリーズの人気の上昇(何でもアリ、の楽天的ムードが現場にただよう)と長期化(マンネリを避けて変化を出すため)によって可能となる作風、なのであり、そこに言を及ぼさずに語っても、あまり説得力はない。

 体がダルくなってきたので仕事の資料などをまとめてカバンに詰めて、新宿へ。サウナで汗を流しきり、休息室で資料に目を通す。マッサージ一時間。肩がやはり腫れたようになっていた。施術されながら少し眠る、というより意識を失う。8時、紀伊国屋前でK子と待ち合わせ、伊勢丹会館の『三笠会館』で食事。一人前の料理を二人で分ける感じで食べる。ネギとトウガラシのあっさりしたパスタが夏向き。あと、小イカのパスティスソースが、ブイヤベースを濃厚にした感じで美味。パンを頼んで、ソースをぬぐいとって食べた。こういう形式で食べると、おフランス料理もそれほどバカ高くなく食べられる。食後にカルバドスとチーズで、ちょっと優雅な気分。サウナ入ったせいか、帰ってベッドに入ってから、ノドが乾くこと乾くこと。二度、水を 飲みに起きる。

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