裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

月曜日

君のナハ、ナハ

 忘却されたせんだみつお。朝7時15分起き。何回か夜中に目を覚まし、夢をいくつか見るが、その中にモダンアートの大物さん(モデルなし)と仕事をして、向こうが何かというとアートを鼻にかけていばるのでムカついていたら、彼が自分のアート作品の巨大な箱の中に忍んでいたストーカーに尻を犯されるという事件が起こって、内心ザマアミロと喜ぶ、というのがあり、アホらしくて目が覚めてしばらく笑ってしまった。

 選挙の宣伝カー(扇千景は“宣車”と言っていた)の声、朝から響く。今回の選挙は泡沫、いやタレント候補の大盤振る舞いであり、いくら裏モノ的選挙マニアの私と言えどやや食傷気味である。ドクター中松も新味がないし、荒勢だの嵐だのは冗談にしか思えない。……が、立候補者名簿のうち、第二院クラブの名簿の最後にある名前にちょっと、興味を引かれる。映画監督・奥中惇夫(70)。これって、あの『悪魔くん』の脚本家で、『仮面ライダー』『快傑ズバット』の監督をやった、あの奥中惇夫氏か。やはりテレビ関係がらみで青島幸男と共闘することにしたのか。オタクとしては気になる名前ではある。

 午前中は今日のロフトの準備に費やす。いろいろな事情があってWeb現代の連載に使用しなかったサイトのURLをメモ。昼は金沢の桜井さんから貰ったお中元の、冷やし中華。メンが細くて柔らかく、甘味があってむちゃくちゃにうまい。冷凍庫にあった豚肉を醤油で煮た即席チャーシューと、ミョウガの千切りをたっぷり乗せて食べる。

 午後、『本の雑誌』ゲラチェック、少しく文体を“本の雑誌調”に変更する。ホンの少し、だが。それからダカーポ原稿。コラム欄リニューアルのため今回で最終回。1月からの開始だったから、7ケ月の連載。あっという間という気がする。目立たない場所に置かれたコラムなので、もう少し毎回読者の目を引く工夫を加えた内容にすればよかったと思うが、それを実行する間もないうちにコラム欄全体が無くなってしまった。書き上げて、睡眠不足気味なので、今夜に備えてしばらく布団に横になる。アガサ・クリスティ『オリエント急行の殺人』(創元推理文庫)読む。高校2年生のとき以来の再読、しかも同じ本。長沼弘毅の訳の古臭いこと(特に会話)が、慣れるとかえって懐かしい。読み返して改めて、あのルメットの映画の脚本(『猿の惑星』旧シリーズ2、3、4作の脚本を書いたポール・デーン)はよく出来ていたな、と思う。原作の設定を生かしながら、うまく展開を整理し、乗客全員のキャラクターを演ずる俳優のイメージに合わせて改変していた。あと、ラストでポアロが示すダミーの解決は、この事件を捜査するユーゴスラヴィア警察が無能であり、乗客すべてが英米欧の上流階級で構成されている以上、東欧ごときの警察が何を言っても黙らせられることを前提としていることがわかる。いかにも時代である。

 6時、新宿に向かう。ロフトプラスワン、扉の工事でお客さんが6時半過ぎてもまだ、中に入れないでいる。NHKのYくんが奥さん連れてきていた。Iくん、講談社の他のスタッフと打ち合わせ。モバイルを連載のデザインやってくれているNさんが用意してくれた。ロフトの斎藤さんと、本多きみ夫人とのライブのことを話す。ほぼ満員(控室は空いている)状況で、7時半、開始。トーク途中でモバイルが何辺もフリーズしてまいった。そこらへん本の話でつなぎ、何とか前半は無事終了。

 中間でサイン会。40部ほどにサインをするが、客は90人以上入っているんだから、もう少し売れてもよかりそうなものだ。ひょっとして、予約しちゃっているか。サインする中に、ちょっと目鼻立ちの整った、非オタク的な好青年がいて、どこかで見たような記憶があって、サインの列に彼が並んだとき、ヤア、と声をかけると、むこうでとまどっていた。あれ、やはり記憶違いで初対面か、と思うと、彼が、サインに並べて“案の定”と書いてください、と言う。一行知識にそのネタを書き込んだ人だった。なんで彼がこちらに何か関連のある人である、と思ったのか、理由はわからず。これがカンってやつですか。井上則人くんがやってきて、ハローミュージックとチラシデザインの打ち合わせ。後半は『宇宙人大図鑑』のKさん、鶴岡、談之助とゲストを次々壇上に上げて、トークする。モバイルを持ってあがるという経験は初めてで、データを読み込んでいる時間が、どうしてもトークがお留守になる。11時半まで、お客もほとんど帰らず聞いてくれてはいたが(終電はどうしたんだろう)、私としては不完全燃焼であった。鶴岡、談之助両氏にお車代進呈。

 それからいつもの炙り屋で打ち上げ。講談社スタッフ陣に、開田あやさん、K子など加え総勢11名。あやさん、講談社に売り込みをかけている。鶴岡は好物の天狗舞飲んで、妙に機嫌がよかった。知り合いの某マンガ家の単行本が、売れない売れないといっていて、実は私の本の数倍売れていることを聞いて、やや暗然たる気分になった。やはりマンガは強いなあ。2時、帰宅。メールも確認せずに眠る。夜になってやや、涼しくなった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa