裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

木曜日

エルサイズのハラ

 ダイエットしなくちゃ。朝6時起床。かわいい看護婦にトイレで浣腸されて(前の手術のとき快楽亭にその話をしたら、“それはオイクラです?”と訊かれた。ナースプレイと間違えている。まあ、その後すぐ、快楽亭も骨折し、同じことやられたろうが)排便。8時、点滴をされ、右肩に麻酔を効きやすくするための痛い々々筋肉注射をされる。移動用ベッドに移され、5階の手術室へ。窓口みたいなところから体を入れられる。

 腰椎麻酔での手術なので、背中を剥き出しにされ、冷たい消毒液を塗られたあと、ビニールシールみたいなものを一面に貼られ、腰椎の間から針を入れられる。人から“あれは痛いよぉ”“針で腰の神経をさぐられるのが実に々々キモチ悪いんだよね”などとオドかされていたのでビクついていたのだが、ちょいとチクリとするのが三回ほどあっただけで、さしたることもなし。この麻酔薬は下にたまるのだそうで、看護婦ドクター総掛かりで私の体を傾け、局部の方にクスリがたまるようにする。なんだか野蛮ですな。しかし、効きはアラタカで、入れて数分もたたないうちに、もう右足がポカポカとしてきて、しびれはじめてきた。

 手術台の両脇に補助台をつけ、左手は点滴、右手は血圧計をつけられて、まるでキリストの磔のような格好。手術室には音楽が流れている。前回はクラシックで、『金と銀』なんかが流れていた。今回は映画音楽。『ピンクパンサー』や『ケ・セラ・セラ』など。顔の前に青い布が張られて、手術の光景なども見られず。痛みはまったく感じないが、一時間以上、寝返りも打てず固い手術台の上にハリツケ、というのはツラい。背中が凝って、そっちの方が痛んだ。

 11時半に病室に帰る。K子来ていて“遅いじゃない”と文句を言う。言われてもなあ。右下半身はまだ麻酔がびんびんに効いていて、さわると、そこになにか巨大な肉塊がある、という感じでゾッとする。神経が通っているうちは、自分の下半身がかくも巨大なものとは思わなかった。それよりもギョッとしたのは、“点滴で水分をかなり入れているので、お小水とってくださいね”と言われて下半身まさぐり、自分のペニスにさわったときだった。麻酔のせいでまったく感覚がなくなり、ダラリと垂れたままになっている自分のペニスにさわるというのは、あまり気持ちのいいもんじゃない。実際、ペニスからホーデンの裏側にかけては嫌な感じのしびれが後まで残り、“このまま立たなくなるんじゃないか?”という恐怖が頭をヨギる(笑)。少しでも早く回復させようと揉んだりいじったりする。人が見たらオナニーでもしているように見えるな。

 小水、ホントにしばらく出ず。尿道口がマヒしたままなので、開かないらしい。たまるだけはたまっているので苦しい。、うーんと力むと、膀胱の圧力でチョロリとは出るが、それだけ。あまり出ないと管を入れられるそうなので、必死になってしぼりだそうとする。立ってやるといくぶん出やすいようなので、今朝手術したばかりの身で立ち上がってすると、やっと少しだけジョロジョロと出る。ジョロジョロであっても、出たときには心底ホッとした。それからは順調に回復し、夜半までには通常に戻る。麻酔切れ、手術跡に痛みはあるものの、大したことなし。

 手術室から帰ったあたりで、学陽書房のHくんがゲラを届けに来た。今日手術ということは昨日話しているではないか。仕事熱心にもホドがある。また、ウトウトしている間に、光文社のHさんが来たらしく、ブドウがテーブルに置いてあった。これは私が手術は1日、と伝えてあったので悪いことをしたが、それだって電話一本してから来てくれればムダ足は踏まずにすんだものを。

 夜6時、K子また来てくれて、読書用の本など持ってくる。夕食。今日はじめての食事である。タラの塩焼き、インゲンとニンジンのゴマよごし、バナナ半分。見舞いのブドウ数粒。さすがにおいしく感じる。夜、足が次第に痛みだす。手術当日とはい い条、ちとつらい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa