裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

土曜日

きみと伊豆までも

 不倫旅行か。朝7時半起き。朝食は8時。ホタテにアボカドサルサをかけてパンにはさんで食べる。日記つけ、原稿書き。メディアワークスから電話。例のトラブルの件。解決の見込だがいささか不愉快。

 午前中はメールへの対応、資料探しなど。井上ひさしなどもよく資料が出てこないことをエッセイに書いているが、作家の仕事時間における、この資料さがしの割合というのは案外多いのではあるまいか。見つからないと非常にイラつくが、もっとも、そこで思いがけなかった本を発見したりもするから、あながち無駄とも言えない。

 昼に外出し、道玄坂近辺まで足を延ばして散歩。渋谷在住とはいえ、ここらへんまでは滅多にこない。やたらおしゃれな店があるかと思えば、再開発をバブル崩壊でまぬがれた、昭和三○年代そのままのような古本屋があったりする。昼飯は道玄坂交番先の『鬚鬚長魯肉飯』(ひげちょうるーろーはん。本当は最初の鬚は髟の字の下に胡という字なのだが、ワープロ第二水準にない)。台湾で人気のファーストフードだそうで、豚のほほ肉のゼラチンを細切れにして煮込んだものを丼飯にかけたもの。ゼラチン大好きの私には非常にうれしい味。これが大で360円。スープと野菜をつけても700円という値段がいいし、店内装飾のなんとなく大味なところもいかにも台湾のセンスである(なんのことだ)。次は皮付き三層肉の煮込みで台湾ビールでも飲ん でみたいね。

 タワレコまで行き、ピエール&ジルの画集など買って帰る。思いがけず歩き回ったのでクタビレて、仕事できず。常光徹編『妖怪変化』(ちくま新書)などを寝転がって読む。柳田国男学派のシンポジウム本なのだが、やはり柳田の民俗学者としての面ばかりを取り上げ、文学者としての価値を認めていないのが物足りない。学者にとって、柳田国男の文学的価値なんてものは学問の純粋性を貶めるものらしい。これは反柳田の立場を取る左翼的学者も同じで、例えば遠野物語はネタ提供者である佐々木喜善の仕事を無視して柳田が業績をひとりじめした、などというゴシップ的なところばかりを取り上げて、『遠野物語』の文学的完成度をまったく問題にしない。実際には例えば百目鬼恭三郎が言っているように、柳田のものと佐々木のものを比較すれば、文学性の深さが段違いであることは一目瞭然なのだ。私のような、民俗学の門外漢にとっては、読んでどれほど遠野に流れる無時間の相に意識をひたらせられるか、が遠野物語の価値であり、ブームに乗った民俗学による地域振興なんてものには、そんなに興味がない。

 夕方、さらに買い物に出かけ、8時半ころから夕食の支度。鴨と大根の鍋、カツオづけ、新タケノコ焼き。ビデオで昭和38年版『梟の城』。これまでの東映のカラーとはひと味違った司馬作品らしいシビアな忍者の生き方と、やはりそこは東映映画、というラストのハッピーエンドの落差が座りが悪い(笑)。

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