裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

日曜日

美女とイキたい人間

 東宝特撮シリーズ。朝5時に起きて身繕いし、半に下のロビーに降りて仲原くんを待つ。降りたときはまだ真っ暗。次第に明るんでくる通りをぼんやり見ているのは風情がある。・・・・・・が、Nくん、待てど暮らせど現れず。とうとう7時まで待ったが、スッポかしを食わされた。昨晩、みんなかなり泡盛が進んでいたからいまだにグースカ状態なんだろう。・・・・・・とは思ったがトホウにくれ、お日様もあがってしまって、さてあるべきにもあらず詮方なく部屋に戻り、また寝直す。9時、ホテル上のレストランで朝食睦月さんと(開田夫妻はすでにコミケにスタッフ入場で出かけている)。このバイキングがちと内容のお寒いもので、メシは硬いわ、パンはあれどもパン向けのオカズがなにもないわ、というテイタラク。K子イキリ立つ(後からガイドブックを見たら、この南西観光ホテルのところに“朝食バイキングが好評”とかあった。どういうことなのかね?)。

 コミケ会場は那覇の南にある宜野湾市での開催。木六さんから昨日、“会場までは1時間以上は見ておいた方がいいですよ”とのアドバイスがあったので、一般入場の11時の一時間前に沖縄コンベンションセンターに出発するが、タクシーの運ちゃん(マーチばっかり車内に流しているヘンな奴)は“日曜ですから30分くらいで着きます”と楽天的なことをいい、実際には20分くらいでついた。K子“沖縄人の時間の感覚はわれわれと違うんだわ”。そして、これまで“滞在期間中沖縄は雨”との天気予報結果だったにもかかわらず降っていた雨が、いきなりバシャーッ、という感じで降ってくる。スコールのような感じであった。コンベンションセンターの警備員が 走り回りながら
「こちらに移動してくださーい! 押し合わず四列を守ってくださーい! あわてずに至急こちらの方へ列を進めてーっ! 急いで!」
 と、必死の形相で叫んでいる。ゴジラが出たんじゃないんだから。

 会場入口で米沢さんの奥さんに出会う。“あら、いらしてたんですか!”と驚かれる。まあ、単に一参加者として私などがくるのは酔狂の極みだろうが、今回はサミット前の、あやしげな部分が残っている最後のオキナワを見ようという目的もあったから。会場周囲の観客席部分に300人ほど並ぶ。バーブ・ワイヤーのコスプレしているあやさんと、坊主頭の木六さんは遠くからでもすぐわかる。30分ばかり並んで、11時、開場する。“走らないでくださいっ!”のアナウンスなどは本家と同じ。まずは木六さんのところに挨拶、それから開田さんのところへ。隣にエヴァのエロ本のブースがあって(“あんなに売れるのはエロ本だからに違いない”とみんなで話していたが、実は人気同人作家のCさんがバックナンバーを放出していたのであった)、そこに長蛇の列が出来ている。

 開場回ると、やたらファンとか知り合いとかに出会う。博多オタアミのメンバーで例の焼酎『魔王』『大魔王』贈ってくれた人もブースを出していた。可愛い女性から“議長さんですか?”と声をかけられる。裏モノのROMらしい。“なをきさんですか?”とも言われた(笑)。“いえ、兄の俊一の方ですが”“ああ、そうですか。サインしていただけますか”“いいですよ”“ぼく、『カスミ伝』のファンなんです”“あー、はあはあ”サインしてやったが、彼“なんでトマトじゃないんだろう”と、それを見て考えていたのではあるまいか。火野妖子さんにもひさしぶりに会ったし、裏モノの気楽院氏まで来ていた。仲原くんを探したら、いたいた、木六さんに何か相談しているところだった。朝のことだろうと思って声をかけたら、うひゃあ、という感じで平身低頭。ホテルまで送ってきて、別れた後記憶がないそうである。一応、寝る前に用心に何人かにモーニングコールを頼んでおいたのだが、全滅だったとか。お詫びに、とK子にレアものの琉球リカちゃんをくれる。K子は金成さんへのおみやげが出来た、とヨロコんでいた。

 米沢さんとも立ち話。“沖縄のお客さんというのは東京と並び方が全然違うねえ”と首をひねりながらも面白がっている。不気味社のブースはなんと昔懐かしい謄写版を持ち込み、ガリを切っている。私も何か書けと言われて、27日の中野のトークライブのチラシを書いて刷ってもらった。鉄筆を持ったのは25年ぶりくらいだが、昔新聞部をずっとやっていたキネヅカで、白ヌキの手書き文字などスラスラ書けるのは我乍ら大したもの(笑)。

 1時半に仲原くん、喜友名くんなどと私、K子、睦月でメシ食いに出る。アメリカ人のじいさんばあさんご用達というスーパーマーケット『JIMMY』に行き、そこのカフェテリアでライチバイキング。モロにアメリカ風、といったカフェテリアで、並んでいるパンもアメリカ風のクソ甘い菓子パンであるところがいい。その帰り道にちょっとフリマにも寄る。こちらでの勤務が終わり、アメリカに帰国する兵士の一家が、家具や衣類、子供のオモチャなどを売っているもの。絵本と子供用ビデオなどをいくつか、買った。

 有明コミケではいつも評論ブースにいるため、回りがある意味ヒネた連中ばかりなのだが、今回はやけに少年少女の客が多い。沖縄だなあ、と思うのは、ときおり、日本人ばなれした、ハッとするような美少年、美少女が混じっていることだ。おじさんおばさんになると、単に濃い顔のヒト、なのだが。サミット前でエロは徹底して抑えられたらしい。コミケの変質についてなんだかんだと文句を言う者も多いが、彼らもここまで巨大化したコミケに昔ながらの内輪的なまとまりのよさを期待できると本気で思っているわけではあるまい。現在のコミケは、存在意義が別のところに移ってしまって、しかもそれでそれなりに機能している。不満苦情はどんなものにもつくもので、そういうもののない、自分たちにとっての理想の場が欲しければオフ・ブロードウェイを自分たちで作ればいいだけの話である。誰も止めようとはしていない。昔、私らは札幌で北大の主催していたアニメ上映会に不満で、も少しわれわれのニーズにあったような上映会や同好会を作ろうじゃないか、という意見が自然発生でわきあがり、一気に七つくらいの会が立ち上がったことがあった(後に残ったのは三つくらいだが)。ここの一歩を踏み出そうとしないから、いつまでたってもオタク文化は昭和30年世代に牛じられているんじゃないか?

 開田さんのところでもだいぶサインする。驚いたのは睦月さんの写真集がやたら売れていたこと。ティガ本より売れていた。本人ですら開場前に“客層が違うから一部も売れないかもなあ”と気弱であったのだが(笑)、開けてみなきゃわからないもんだねえ。K子“沖縄人の趣味は本土と違うのよ”と吐き捨てる(笑)。昼に、ブックジョイなる書店さんが、睦月さんを訪ねてきた(昼食で不在中)というので、4時の撤収後にそこを訪ねる。アダルト中心の店で、品揃えがすごい。あやさんの『バイトDeバトル』、K子のマドンナメイトのレディース本などがあったのでみんなサインしていた。そこに官能倶楽部の残部を預けてくる。写真集は、と言ったら、それはイ リマセンと断られたそうだ。

 一旦ホテルへ戻って荷物を置き、オミヤゲなどを買いにまた出る。国際市場で果物や泡盛など泡盛の種類の多さにみな、驚嘆。それに、古酒となるとかなりのお値段。木六さんに言わせると最近は本土の人などの嗜好に合わせ、あまり臭くないまろやかな味のものが人気だそうだが、私はやはりどなんの、昔海洋博で来たとき、一合飲んで腰を抜かしたような強烈な味の泡盛が好み。ホテルとって返してまた荷物置き、というトンボを繰り返し(そのたびに国際通りのミヤゲモノ屋のお兄ィちゃんに呼び込まれる)、7時に沖縄居酒屋へ。予約入れておいたのに前の客がまだ帰らない、という一幕あってK子とあやさんキレかかるが、何とか入れる。ヤギ刺し(冷凍なのであまり臭くない。本式のは体じゅうにその匂いがシミつくほどだとか)、名前複雑すぎて覚えられなかったナントカいう食い物(ただし、味はそれほどでもなし。要はイモのデンプンを練って固めた、キャッサバの如きネトネトのもの)、イカ汁。イカ汁は以前木六さんにレトルトのものを贈って貰っていたが、やはり現地で食べるものはひと味違いますて。開田さんのドレイ(と自称)の岡さん、トウフヨウとこのイカ汁で飲む泡盛古酒に陶然。私もまたしかり。変なCMのビデオ見せてもらったり、沖縄のオタクたちの生態について説明受けたり、実に楽しい一夜であった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa