裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

日曜日

赤坂サカスと青山テルマをしょっちゅう混同するんですが

え、建物なのはどっち?

※京橋フィルムセンターで映画鑑賞 東京芸術劇場で舞台鑑賞

朝10時まで寝ている。
二日酔いではないのだが、体力をだいぶ消耗している。
こういうときは、母の旅行中というのがありがたい。
雨が小降りになってきたようなので起き出して、
アボカド一個とアイスミルク。

急いで入浴し、仕事関係メールのみ確認して、
12時、家を出る。
このときにはもう、雨もほとんどあがっていた。
麻衣夢ちゃんは屋外でのライブだと昨日言っていたが、
上がってよかった。
彼女は何か仕事があると雨になる典型的雨女なのだが、
集まったファンに晴れ男がいたのだろう。

地下鉄で赤坂見附、銀座線に乗り換え京橋。
久しぶり、フィルムセンターで『発掘された映画たち2008』
を見る。今日は大都映画特集。『法廷哀話・涙の審判』と、
『怪電波の戦慄・第二編透明人間編』の二本。
もちろん、目当てはスチールだけで気になっていた
『怪電波の戦慄』(1939)だが、『涙の審判』(1936)も、
お涙頂戴の通俗メロドラマ(鬼姑にいじめ抜かれて離縁された
海軍士官の若奥様・静子が、肺結核が悪化して一人娘を残して死ぬ。
静子にかわいがられていた女中の“房や”は、墓前で出会った
幼い娘から“お母様のところへ連れてって”とせがまれ、
発作的に彼女を抱いて走ってきた列車に飛び込むが、
娘だけが死に、自分は生き残ってしまう。子供殺しで裁判にかけられる
房の弁護を、静子の夫の友人の弁護士が引き受ける。
彼は法廷で熱弁を奮って、悪いのは姑の方であり、房の行為は
子供をこれ以上悲惨な目にあわせないための忠義によるものだった
と主張して、執行猶予を勝ちとる、というもの)だが、
戦前の上流階級の家の描写が興味深く、また、主演の房役の
琴糸路、奥様役の佐久間妙子の美しいことにビックリした。

『怪電波の戦慄』は、期待通りのB級アクション。
ロボット(人間タンク)が登場するあたり、こないだDVDで見た
『ファントム・クリープス』との比較もあって興味深い。
ロボットの写真はいくつかの本で見たことがあるが、まさかその
動く姿が観られるとは。
海から上がってきたり、どういうカラクリだか透明になったり
(透明になるのはロボットなので、サブタイトルの『透明人間篇』と
いうのは偽りあり、である)かなりの活躍。
最後はコメディ・リリーフの男が敵から操縦装置を奪い、逆にあやつって
悪人たちを退治(かつぎあげて崖から放り投げてしまう、という
かなりザンコクな方法で)し、自らは発明者の博士(藤間林太郎。
藤田まことの父親)の投げた手榴弾で破壊されるが、しかし最後に
もうひとオチあるのが見事。
このロボット、人気だったのか使い回しか、他の作品にも登場する
(右の写真)。

大型の、昔のラジオみたいな操縦装置を紐で肩からかけ、アンテナを
手に持って操縦するというのは(電源はどうするんだ? と思うが)
『鉄人28号』の元祖みたいなリモコン操縦であり、実写版の
鉄人(1960年)でも怪ロボットが海から上がってくる、という
描写があり、この作品をかなり念頭において作られているのでは、
と思わせる。
ストーリィはご都合主義どころかうまくつながらないわ、
アクションシーンのたびに軽快なマーチがかかるわ(『ウィリアム・
テル序曲』が本当にアクションシーンにかかる映画というのを
初めてみた)、俳優たちの演技は棒読みで、しかもフィルムの
節約か、トチりシーンも平気で使っているわというひどさだが、
しかし“これぞ娯楽映画”という楽しさが全編にただよっている
のは素晴らしい。映画に高尚なテーマが求められていなかった
頃の、見ていて何にも頭を使わない快感を味わえる。

終わって出たところで、筑摩書房の某さんに声かけられる。
こないだ筑摩の本をアスペクトで取り上げた礼を言われる。
「誰も読んでくれてないんじゃないかと心配になった本なので」
とのこと。

そこから銀座に出て、ライオンで昼食(オムハヤシ)。
丸ノ内線で池袋。
映画と芝居のハシゴも珍しいが、池袋の芸劇で佐藤歩ちゃん
が客演している劇団MARMOSETの『し〜くれっと◆DRIVE』
を観に。

時間がまだあったので芸劇のカフェで『薔薇の環』、読了。
マーカス・レヴィン卿の著作に“ストレプストラ・マズラ菌
に関する論文”というのが出てくるのにニヤリ。
これは著者・ブラックバーンのデビュー作、つまりレヴィン卿の
デビュー作でもある『刈りたての干草の香り』に出てくる菌の名である。
この『薔薇の環』の翻訳・刊行された1973年にはまだ
日本の読者はだれも『刈りたての干草の香り』は読んでなかった
わけだから、誰もこれがいったい何のことなのだかがわからなかった筈。
これは刊行後50年にして初邦訳されたデビュー作を
読んで、それからこの『薔薇の環』を翻訳刊行後35年ぶりに
読んだ人間だけが出来るニヤリ、なのである。
ちなみにマズラ菌のせいで、『刈りたての〜』では人間がえらいことに
なったりするわけだが、この存在自体はブラックバーンの創作した
ものでなく、実際にマズラ菌症という風土病があったりする。
http://www.amda.or.jp/contents/database/3-2/j2.html
医学的に押えて書いてあるあたり(“この無痛性の腫大は幾つもの
瘻を作り、そこから黒や白色の菌塊がこぼれ落ちる”)かえって
きびが悪い。

4時半、芸劇小ホールに入る。ここらあたりから体調おかしくなって
やたら心拍数が早くなったりする。
後ろから、ワッ、という感じで首筋を叩かれて驚く。
乾きょんと岡っちだった。
しかも、トイレに立った乾きょんが、早さんを見つけて連れてくる。
この芝居の舞台監督だった。
世間は狭いが芝居の世界はその中でもかなりまた狭い。

歩ちゃんは少女っぽいかわいらしさと、オトナの落ち着き、そして
演技者としてのアツさ、自己内省できるクールさを兼ね備えている
女優さんだが、今回の女医役は、なるほど、こんな役が出来るのか、
というより出来て当然だよな、なぜそれを今までイメージ出来なかった
のだろうか? と不思議なくらい、ハマっていた。
『地獄の楽園』のときとはまったくイメージが違うので驚いたが
それをきちんとこなしていたのに感心。
ひいき目でなく、歩ちゃんのパートが一番、芝居として納得できた。

MARMOSETというのはモデルさん兼業の役者さんたちの劇団らしく、
イケメン、美女揃い。それでしかも役柄が男性ストリッパーと
ニューハーフというので、ファンも多いのだろう、客席は満杯だった。
やたらキスシーンがあるのも特長(歩ちゃんにもある)。
ただ、女優陣がキレイすぎて、ニューハーフには見えなかったな。
あと、最後まで、なぜこの季節にクリスマスイブの話なのかが。

終わって、挨拶。
「こんな役が出来るんだ」
というと、
「そう、“小さなオトナがいる”と言われます」
と。助ちゃんも観にきていたので、誘って、
岡っち、乾ちゃんと、近くの火鍋屋でメシ。
そこらでやっと体調回復した。

今日の芝居の話、トンデモ本大賞の話、ビデオ撮影の話から
何かやたら演劇人ぽい演技論まで、話はずむ。
マジに、“売れるにはどうしたらいいか”論など。
こういう、未来ある年齢の子たちとメシ食ったり話したりするのは
いい。自分まで若返る気分である。

別れて丸ノ内線で新中野。
山口監督からメールあり、『Pマン』のドクター・ドールの
二代目声優に松原あゆみをキャスティングしたとか。
さっきまで彼女とじゅんじゅんのことを話していたので
西手新九郎にビックリ。
明日の朝の食事をコンビニで買って帰宅、疲れ果ててダウン。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa