20日
火曜日
それゆけ! 戦犯マン
そうだ おそれないで
皇国(みくに)のために
愛国と忠義だけが ともだちさ
ああ センパンマン
やさしい 君は
いけ 東亜の夢まもるため
※ミリオン出版打ち合わせ
朝8時起床。
例により6時半ころ目を覚まし二度寝するが
まとまった夢なし。
大会前にしていろいろ気掛かりが多すぎるか?
明け方に大嵐(台風由来)で窓がガタガタ鳴るほど。
9時朝食。風は止んだが雨、まだかなりの強さ。
今年初めてのスイカ小片二ツ、ブドー。
アスパラガスのスープ。
送られてきたアスパラガスが悪くなる前に、ということで
いろいろアスパラガス料理。
新聞で、今日泊亜蘭氏死去を知る。97歳。
日本SFにハマったかなり初期のころに『光の塔』を
読んだその衝撃が、かなり私をひねくれたSF者にしたような、
そんな気がする。
レトロフューチャーという便利な言葉がその後発明されたが、
『光の塔』はレトロでもない、アナクロフューチャーとでも
言うべき作品であった。伝法な江戸言葉を人々が駆使する
未来世界! 思いつこうッたッてなかなか思いつけやしない
世界観である。読みにくいっちゃアありゃしない小説だったが、
しかしこの世界観に一度ひたると、小松左京も光瀬龍も子供っぽく
見えたのは確かであった。
SFの描く未来像が、実は未来ではなく過去のアナロジーなのでは
ないか、SFの魅力ってのはソコなのではないか、
という思いがそれからずっとしていたのであった。
実質的な未来派志向の福島正実とソリが合わなかった、と聞いて
さもありなん、と思ったものである。
はっきり言ってストーリィテリングは極めてあやふやな人だったが
語り口と設定がユニークで(題名を今、思い出せないが古代から
よみがえった吸血鬼を退治する考古学者を、実際“オリエントの宮様”
として有名な三笠宮崇仁をモデルにして描いていた短編があり、
コンナことを思いつく人の頭はどうなっているんだろう、と
ひっくり返ったものだ)、いかにもシャレていた。
父親がビアズレータッチで谷崎潤一郎の挿絵などを描いていた
水島爾保布、というのも驚く出自だが、幼い頃から東京の
(父子共に根岸生まれ)、多くの文人・画人に囲まれて育った
ところから、自然、観察力と表現力を研ぎ澄まされていったの
であろう。江戸っ子の口の悪さに言語学者としての語彙の豊富さ
が加わり、かなりのものであったらしい。
私と弟が腹を抱えて笑ったのがハヤカワ文庫JAの一冊
『縹渺譚(へをべをたむ)』のあとがき。
「そのときの編輯長はかの円盤学の泰斗南山宏こと森優で、
かれは或る晩とつぜん円盤のごとく出現して“書きたいことを
好きなやうに書け”とだけ命令して姿を晦ましました。
その後小生が題材や枚数のことでいくら問合せようとしても居た
ことがない、といふのは“どこそこにUFOが出た”テナことを
聞きさへすれば“ソレッ”とばかりに編輯も何も放りだして
飛んでいってしまふからなので、てめえのはうが余ッ程UFO
ぢゃねえかとボヤき々々小生が八方手をつくしてやっと捕まへた
彼の返事は〜むろん電話でです。このUF野郎の実体(オブジェクト)
なんか捕まるもんですカ〜」
「一昔まへ、『宇宙塵』の会でれいのスペオペのノダ公……これは
飛んでもない失言をいたしました、このお方は今や宇宙軍の大元帥
陛下であらせられますが、このデブと並んで」
といった文章の、“好きな人間であればあるだけ悪口を浴びせる”
という下町っ子特有の性質は、地方出身者や仕事先には
辟易する人もかなりいたのではないか、と思われる。
星新一なども、かなりやられていたらしい。
今、書き写していて気づいたのだが、この『縹渺譚』の奥付にある
著者略歴には“大正十年生れ”とある。享年97歳(7月生)ということは
正しくは明治43年生まれ。10才以上年齢をごまかしている。
現在だったらネットで年齢詐称、などと叩かれるかもしれない。
この当時の文人には、こういう韜晦趣味というのがあったのである。
本来は死んだのか生きているのかも定かでないままに溶暗して
いきたかったのかもしれないが、野暮な現代はそれを許さない。
ご冥福をお祈りする。
午前中はメールやりとり、コラム原稿など。
弁当は焼きオムスビにアスパラと卵の炒めたの。
2時半、家を出て渋谷まで。
マンション地下の喫茶『ベラミ』でミリオン出版打ち合わせ。
K子と、担当Yくん。
次の企画、どうするか、とか言う話は一分で
「ア、それにしましょう」
と決定してしまう。
Yくんの持ってきた企画案の中の、一行の中の一語に私が
反応して出したアイデアであった。
K子はスケジュールを気にしていたが、スンナリ会議でこれが
通って製作に入れればベストのスケジュールになるという。
「彼女、いま、大学で教えているんですよ」
と言ったらYくん仰天して、
「何を教えていらっしゃるんですか」
と訊くとK子、嬉しそうに
「マンガの描き方なんだけど、4年生には“マンガなんて
先行きの定かでない商売やるなら、簿記の資格とりなさい! って
二級の資格所得がいかに就職に有効か、を教えるとみんな
飛びつく」
とのこと。変わらないなあ。
打ち合わせ中、気掛かりだった某企画依頼の件、
依頼先から極めて好意的かつ積極的なOKの返事もらい、
憂鬱のタネがひとつ消える。
すぐ企画担当者にメール。
事務所出て、オノとスケジュール確認、連絡事項いくつか。
盛り上がってきましたな、いろいろ、という感じ。
背中がバリバリなので、マッサージ予約。
タントンは今度“渋谷ピノマッサージ”と改名する由。
揉んでもらいながら、イタタ、イタタと声をあげるほど。
しかし、その痛みが気持ちいい。
昨日から右腕が痛く、五十肩かと心配だったが、そうでは
ない模様でホッと。
新宿までバス。車中、写真撮影に関しメディファクSくんと
携帯にてメールやりとり。
京王デパ地下で買い物。昨日、日記に“もっと鯨を食え”と
書いた責任上(と、いうこともないが)ニタリクジラの赤身が
あったので買う。
某所に寄って、某件確認。
これが実はどっと最近、私を憂鬱にしていたことだったのだが、
それが見事晴れた。
「日本一の御機嫌にて候」
という謡曲の文句のよう。
考えてみればこんなことで憂鬱になるのも憂鬱が晴れるのも
情けないが、今の自分はゼイタクは言えない身分だしなあ。
ともあれ、いくつもの憂鬱が連続して晴れた日ではあった。
帰宅して、少し作業して、9時、夕食。
鯨肉のステーキ、一乃谷風。
ホタルイカの酢味噌和え、それと八杯豆腐。
黒ホッピー2杯、蕎麦湯氷ロック3杯。
DVDで『ファントム・クリープス』、三枚組みの
最初の一枚。ベラ・ルゴシが、透明人間になる装置と、
巨大な海坊主みたいなロボット“アイアンマン”と、
コインみたいなディスクに引き寄せられる爆弾蜘蛛を
発明して世界を征服しようとするという荒唐無稽なシリアルムービー。
いや、やっぱり字幕付きで見ると、細かいところのストーリィが
はっきりして面白い。
ベラ・ルゴシの発明の元となっているのは隕石から採取した
特殊エネルギーだが、これは原子力の、極初期の大衆的イメージ
だろう。1939年の映画だがこの年、アインシュタインが
ルーズベルトに原子爆弾開発を急ぐよう、書簡を出している。
科学と戦争が密接に結びつき、そしてその科学技術をスパイしようと
いう国際間の水面下での争いが活発化していたこの時期の社会情勢
がちゃんとこの映画に反映しているわけだが、ナチスドイツが
ポーランドに攻め入って第二次世界大戦が勃発したこの年に
こういう映画を作って観ているアメリカはやっぱり凄かったな。
一時半、酔って就寝。