裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

土曜日

月とスポーン

 スパイダーマンやバットマンに比べれば。朝7時起き。昨日泡盛ちょっと飲み過ぎで少々フラつく。朝、目玉焼をパンにはさんで。それとライチ。母から電話。親父の看病行くたびに泣いていると、向いのベッドのアルツハイマーの爺さんになぐさめられるのだそうな。“ボケた人になぐさめられるというのもねえ”と、複雑そう。

 昨日の紙関係資料の整理、少しばかり続き。いろんなメモが出てくる。“卵のカラザというのはchalazaという英語で、日本語ではない!!”などと驚いているメモもある。殻座だと思っていたのだな。あと、1995年の読売新聞人生相談(本当に俺はこの欄が好きだな)。“29歳の主婦。私の恥ずかしい悩みの解決方法をぜ ひ教えてください”などと思わせぶりな書き出しで、何か色っぽいことかと思うと、
「スーパーなどの試食コーナーで、パンやクッキー、おまんじゅうなどを食べ歩いてしまうのです。それも、ひと口ふた口ではなく、ケースの中が全部なくなってしまうまで食べてしまうのです。なくなったら別のコーナーに行って試食し、また元に戻って食べてしまうのです。店の人にも“一回にしてください”と言われ、恥ずかしい思 いをしています」
 というユニークなもの。別に腹がすくわけではなく、家に帰ると苦しくて下剤を飲んだり、翌日は会社を休んだりするそうである。過食症なんだろうが、なぜそれが試食コーナーでしか発症しないか。それこそ“恥ずかしい私を見てください”という露出癖と一緒なのか。人の悩みのバリエーションはまったく限りない。

 ユニークと言えば、BWPで哭きの竜さんがレポートしていた、バスジャック犯の17歳の2ちゃんねる犯行予告問題、動機推理でひッくり返る。もしこれが真にキレて犯行におよんだ動機だとすると日本犯罪史上に残るものになるかもしれない。昼は冷凍のワイン漬け明太子をもどして、シソタラコ飯に大根の味噌汁。大手スーパーなどに行くとフュメ・ド・ポワゾン(白身魚のスープ)の粉末を売っているが、これで味噌汁のダシをとると、割烹店の上品な味噌汁の味になる(割烹の味噌汁のダシは料理に使った魚の骨やアラでとるから)。一度やってごらん。

 週刊読書人原稿2マイ書き、メール。空がドンヨリとして、いまにも降りだしそうな感じ。パルコブックセンター冷やかし、青山までノシて買い物。帰って、また書庫整理続き。図版用に探していた雑誌が見つかってヤッタと声をあげる。それから某社 に持っていく予定の出版企画書案を練る。

 8時、夕食準備。鳥の空揚げ甘酢あんかけ、ゴボウと豚肉の鍋。缶ビールと泡盛。ウルトラマン『射つな! アラシ』『怪獣墓場』。『回収』で山本弘と岡田斗司夫がこの当時の怪獣モノの話のツジツマがあわないことに、子供時代からツッコミを入れていたと言っていたが、本当だとすると、どうも彼らはあまり頭のよくない子供だったのではないかと思う。作品を通してのツジツマがあわないのは一話完結作品のお約束でもあるし、一回ごとに登場人物の性格などが違うのは、複数の脚本家や演出家がそれぞれ自分のオリジナルのウルトラマンを描こうとしていたからだと、当時のなをきや私はちゃんと了解していたぞ。『怪獣墓場』でネロンガやケムラーが宇宙に放り投げられたことになっているのも、“まあ、今回は監督がファンタジーをやりたいんだろうから、細かいことはうるさく追及しないようにしよう”なんてね。要は、大好きな怪獣モノを楽しむための“見巧者”であるにはどうしたらいいか、ということを考えていたのだ。裏情報を手に入れることにヤッキになり、結果オタクと呼ばれるようになったのも、もとはと言えばそのためではないか。

「映画って面白さのポイントさえはずしていなければ、多少筋がギクシャクしてても面白いんだよね。逆にポイントをはずしていたら、どんなに筋がうまく通っていても駄目だ」
 と言うのは、仮面ライダーの山田稔監督と平山亨プロデューサーの対談(今日整理してたら出てきた日東新聞第15号)の中にあったセリフだが、これは子供番組ばかりでない、すべての映画に言えること。『望郷』にしろ『カサブランカ』にしろ、そうそう、例の『アイアン・ジャイアント』にしろ、名作と言われる映画作品の筋のギクシャクは改めて検証してみると驚くばかりで、にも関わらず、観ている最中は酔わされてしまうのは、そのポイントを心得切っているからなんだわな。そこを“あそこはオカシイ”と言い立てるのは、映画の楽しみ方を知らない、つまり見巧者でない客なのである。人は映画通(あるいは文学通、演劇通、マンガ通エトセトラ)たらんとして勉強するが、往々にして見巧者でなく、ただのウルサ方に堕してしまう。そこらへん、スレスレの芸風の者として自戒が必要。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa