1日
月曜日
ピザ鎌倉
鎌倉にこういう店名のピザ屋、本当にないだろうか。朝7時起き。朝食、エビオムレツ。グアテマラの先住民族村で日本人観光客が人さらいの悪魔だというデマで虐殺される事件が報じられていた。個人的意見でいえば、こういうことはときどき起こった方がよろしい。人類はみな兄弟などというお題目に対する反論として。
朝、キモノ姿で猟奇犯罪ホラー原作一本アゲ。それから『とても変なまんが』重版用チェック赤入れ。人称表記を全部変えたのでかなりの量になる。書いてたら編集部A氏から“今日届きますよね?”と心配げな声で電話あり。セッパつまっているらしい。と、いうことは追加注文がかなり来ているということで結構。バイク便出す。衣類ケースの新しいのが届き、寝室の様子がちょっと変わった。弁当作り、チキン竜田 揚げ。
1時、鶴岡来宅。先日のサイン会見舞いの礼。昼飯食いに出て、神山町で定食。そのあと喫茶店に入り、四方山ばなし。彼の取巻きのキチガイたちの話が面白い。こういうショッカーの怪人みたいな連中を率いて暴れまくっていればそのうち文壇を征服できるかもしれない。ただし、ファングループの中で小成する危険性はある。
「三年くらい前、岡田さんが“いま、サブカルの若手ライターで売り出しているのが鶴岡、オーピン、伊藤くんで、一番先に消えそうなのが鶴岡”と言ってたのが発奮材 料になりましたよ」
と言う。少しゃオトナになったか。『マンガロン』出して仕事、かなりやりやすくなったとのこと。モノカキの中には雑誌仕事だけやっていた方が効率がいい、単行本は時間ばかり食って金にならない、という説の連中もいるが、やはり一般的信用を得ようとするなら、単行本をコンスタントに出しているいないは雲泥の差。早い話が、大学の講師になるための資格は論文を書いたことがあるかどうか、なのだが、学外の人間の場合は著作をもってそれに代えられる、という規定がある。『ガラクタ解放戦線』などというフザケた著書であっても、それがあったればこそ彼は早稲田の講師に なれたのである。
5時、別れて神南デンタルオフィス。左奥歯の台を入れる。これに次回は金冠をかぶせるわけだが、この費用が8万円。金が出ていく涙が残る。そのあと、パルコブックセンターで佐藤まさあき『“堕靡泥の星”の遺書』買う。怪奇マンガ掲示板にこのあいだの『プレイボーイ千人斬り』のことを書き込んだら、それはこの本の改訂版なのではないか、という指摘があったため。なるほど、さっそく見てみると、『プレイボーイ』の方で目線が入っている写真が全て素顔で出ており、S賀・Mというのも本名で出ている(うひゃー)。こら、出てすぐにこの本が書店の店頭から消えたのもわかるわな。たまたま、このパルコのマンガ評論の棚にはデッドストックが残っていることを覚えてはいたものの、のびのびになっていたのだが、その指摘のおかげで手に 入れられた。指摘してくれた人に感謝、である。
それにしても読むたびに、この時代の劇画業界人たちの、破天荒なまでのバイタリティ(陳腐な言い方だが、他にコトバが見つからない)には、ほとほと感服する。姉妹篇と言うべき『劇画の星をめざして』を読むと、アウシュビッツ展をのぞいて、そこで展示されたユダヤ人虐殺写真の残酷さに胸がつぶれる思いをしながらも、自分の中のサディズムの血がチロチロと燃え立ちはじめたのを敏感に感じとり、そして
「人間が人間を物のように扱える戦争の狂気、そして勝者の権力というものへのあこがれ」
に心がうずき、それが後の『ダビデの星』に結実した、と書いてある。なまじなインテリ気取りがあれば、こうまで正直に、ナチズムの側へのあこがれを肯定は出来まい。そして、その作品としての昇華である『ダビデの星』が文学作品をさえしのぐ圧倒的な虚無感を描き得たのは、
「ははあ、売る、漫画は売るもんなんや」
という、デビュー時の開眼に忠実に、読者と時代というものを見据えてきた末の成果だろう。
帰ったらマンションの廊下、壁紙からじゅうたんまで全て新しく張り変えられ、ドアライトも上品なデザインのものとなり、外見だけは高級マンションのようになっている。学陽書房から新著『カラサワ堂変書目録』表紙・帯ゲラ届き、前書き・後書き催促電話。モノマガ編集部から原稿字数指定。みんな連休中日だというのに仕事する なあ。感心。
大森サイファイ掲示板での三枝さんと若桜木虔氏のやりとりが面白い。作家は創作意図やイメージを本人のねらいと違って伝えられることを許容すべきか、という三枝さんの問いに対し若桜木氏いわく、無制限に許容すべき。しかしそれに耐えられないタイプの作家もいるのではないか、という問いに対しいわく、そういう作家はしょっちゅう腹を立て、余分なストレスが高じ、結局自分で自分の首を絞めて消えていくであろう、と。あれ、若桜木先生もオトナになったかな、と思ったら、その後に“ただし志の高低とかは批評すべきではない”とあって大笑い。まだ細田氏のこと根にもってますな。なんとダイレクトな。それにしても、その“耐えられない”モノカキが最近多すぎる気がする。
7時半、駅前に出て買い物。旭屋書店、むやみに私の本が並べてある。ここは私の本に新刊以外冷たい店だったのだが、どうしたか。8時、鰻屋でK子と食事。肝わさというのが珍しい。他に冷やし茶碗蒸し、鰻重。生イッパイと日本酒冷や一合。