30日
土曜日
机上のクーロン
そんな人体複製ばなしは現実的でないね。朝6時半起床。ミクシィのぞいてメールチェック。早川書房からまたフェア用に50冊サイン本の注文。せっせと営業しなく ては。9時朝食、スープとスイカ。
日本IBMから講演依頼。残念、うわの空公演とカブるので断る。向こうも非常に惜しがっていたので、ぜひまた時期を改めて、と言っておく。日記つけ、11時、母と家を出て中野総合病院までバス。中田伯母が月曜にも退院というので見舞に。孝子伯母、やせこけてはいたが元気。
「あら、今度サインくらい持ってきなさいよ」
と軽口を叩く。自慢屋は相変わらずで、冷蔵庫の中のアクエリアスだったか何だったかをのんで、案外おいしいというと
「おいしいでしょ、あんまり甘くないところがいいのよ」
と、まるで自分で作ったかのようなことを言う。
母を残して辞去し、中野ブロードウェイをちょっと歩き、渋谷まで。駅前の松川で鰻重。さすが柔らかさが違う。仕事場に行き、汗になったのでシャワー浴びて少し横になる。30分ほど寝てしまった。気力は充実しているが体力がついていってないと いう感じ。原稿。週プレ『名もニュー』をまとめて、各スタッフにメール。
5時、家を出て銀座線で上野広小路、立川談笑独演会。車中、5歳くらいの女の子 が私を見かけて母親にひそひそ声で
「『世界一受けたい授業』の先生だよ!」
と報告していた。なるほど、こないだのSPが妙に先生全員にウスい授業をやらせていたと思ったのは、夏休みに入ったこの世代を対象としていたからか。地下鉄の中 は浴衣姿のカップルでいっぱい。隅田川の花火大会か。
内田春菊がまだ最初の亭主(と、別の男の子供)と一緒だった頃、隅田川沿いのマンションに住んでいて、夏はそのマンションにみんなで集まって最高のポジションで花火を見ていたなあ、と思い出す。窓開け放して、当然暑いのでエアコンをガンガン かけて
「でんこちゃんの言うことなんかクソクラエだ!」
とかわめいていたのは私である。仕事場の仮眠室で、その子供の父親とザコ寝した こともあったっけ。
広小路亭、着くといま、始まったばかりのところ。相変わらずマクラは凄まじいウケ方。ばったばったという感じで事件を切っていく。テレビマンでもある人間なので情報量が凄いうえに怖い物知らずで凄まじく危ない切り方をする。その分、ネタに入るとトーンダウンする感があるのは否めず。ネタが新作ならいいのだが、この独演会は基本、古典。新作ならそれなりのファンも数がいるが、この独演会に常連で足を運 ぶ客というのは
「古典ファンだが伝統芸嫌いで、古典をトンガらせて現代に活かす」
芸風が好きという、非常に限られた範疇のファンなのである。そんな少ない客層をメインターゲットにする酔狂者も談笑くらいなものだろう。この酔狂さは貴重だ。
『野ざらし』『千両みかん』『井戸の茶碗』の三席。『千両みかん』では最後に本当のみかんを持ち出し、客席から人をあげて食べさせる。山口A二郎さんだった。こういう観客参加型のイベントの祝祭的性格について、小松左京と山崎正和が対談していた本をこないだ読んだはずだが忘れてしまった。あとでもう一回調べてみよう。
『井戸の茶碗』では元の落語ではただの正直者という性格付けの屑屋の清兵衛を、いかにも談笑風にアレンジし、預かった金をそのまま持って逃げたいのは山々だが
「あそこまで信用されるとそういうことも出来ないよなあ」
とつぶやかせることで、正直清兵衛のキャラはそのままに、近代的人物に変貌させている。談志のいわばお家芸的な“伝統を現代にアレンジする”手法だが、現在の立 川流でそれを受け継いでいる演者を私は談笑以外知らない。
また、こういう描き方が必ずしも成功するとは限らない困難な作業であるのは談志自身のアレンジでも、成功率が半分以下という現状が物語っている。しかし、落語を古典芸能のワクの中でお飾りにしてしまわないためには、こういうチャレンジをしていく無鉄砲な人間が絶対に必要であり、それを支えるファンたちも必要である。談笑も貴重な人材だが、広小路亭にそれを毎回聞きにきている常連たちも貴重なのだ。し かも最近、若い女性客が増え、その質が案外高い。これはうらやましい。
常連中の常連、ぎじんさんといろいろ話す。終わったあと、松坂屋裏の居酒屋『加賀屋』で打ち上げ、ぎじんさんや夏さん、WAN−CHANGさんといろいろ。談笑さんによると『井戸の茶碗』は最初『イドの茶碗』にして、“リビドーの清兵衛”というキャラにしようと思ったのだが、というような話を聞く。トンデモ落語界向きで すな。
カワハラさんに『ダメな人たちのための名言集』進呈。いろいろと話すというか、先達としての(何の)教えを請うというか。談笑さんがらみでちょっと企画もプレゼン。了承得られたので来週から進めることにする。現在企画進行中のものって、いくつくらいになるか? WAN−CHANGさんが病院でおっぱいの細胞を採取された話が大変に結構、胸をさわってセクハラしているところを写真に撮って撮ってと頼ん で撮影してもらうが、何故かエロにならない。ギャグでやるからダメなのか。
途中で別の落語会終えた一行と共にブラ房、ブラ談次もやってきて、落ち着き先のことなど聞く。何か力になってやりたいとは思うが。12時解散、タクシーで。かなりホッピーとかのんでひどい状態になっていた。気分は高揚なのだがな。明日も広小路亭である。