17日
土曜日
おれは河原のカンディンスキー
同じお前もカンディンスキー、どうせ二人はこの世では、意味のわからぬ抽象画。朝、7時まで目も覚めずぐっすり。朝の暑さもだいぶ薄れたか。もっとも、冷房はまだ入れっぱなし。朝食、サツマイモとトウモロコシ、二十世紀。テレビにモー娘。が出ている。現代では個性的というのは奇形的、の謂になっているのだろう。キミがたの元祖とも言うべきリトル・フランキーさんが亡くなったのだ。線香の一本くらいはあげた方がいい。
ナンビョーY子さんが東京に親子で旅行に来て、幸永で焼肉を食べたらしい。彼女は肉を食べすぎると腸捻転を起こす体質なので(それも褐色細胞腫の影響なんだろうか?)K子が心配していた。サイトをのぞきに行ってみるが、何とか無事ではあるようだ。そこの掲示板で、日清製菓(ワールドフーヅ)の倒産が報じられていた。私らが子供のとき、ここのバターココナツのCMソング、“♪せか〜いじゅうのおかしのうちでチャンピオン、チャンピオン、それ〜は日清製菓の、バター・ココナツ……”(『フニクリ・フニクラ』のフシで)というのが、耳にタコができるほどテレビで流れていた。世界菓子コンテストなるもの(いったいだれが主催で、どこでどのように開催されているのか。審査員はどうやって選ばれるのか)で優勝したというフレコミであったが、買って食ってみて、“なんでこんなビンボくさい菓子が世界チャンピオンなんだ?”と不思議な思いがした。大体、世界一になったんならCMソングくらい替え歌でなく自前で作曲せんか、とか憤慨していたな。変な子供であった。
昼もダイニングに冷房を入れず。今年の夏はやたら暑くはあったが、早く去っていきそうである。冷凍庫にあった鶏肉を塩ゆでして細切りにし、葱のみじん切りと一緒に熱い飯の上に乗せ、上から冷コンソメをかけて洋風お茶漬け。夏のランチには結構なものである。
資料本を片手に横になるが、つい寝入ってしまい、そのまま昼寝、というよりも熟睡してしまう。いろんな想念がアタマをよぎる。電話で起きる。K子からで、今日の上映会に、ササキバラゴウさんが行きたいと言っているが入れるか、というので、私の招待状で3人まで入れるから大丈夫、と答えておく。もっとも、その後、やはり仕事のやりくりがつかなくなって無理となった模様。あとメール数通、やりとり。植木不等式氏から正式に引っ越しの通知。
6時、新宿西口安田生命ホール。到着してサイフの中身があまりないことに気がつき、西口の新宿駅前支店に行くが、ここにはキャッシュコーナーがない。腹が立つ。新宿西口支店まで行って下ろして、また舞い戻る。安田生命ホール、アニドウ主催で小松原一男画集刊行記念上映会。入り口にメーテルなどのコスプレーヤーが立って出迎えているのがアニドウにしては珍しい。入ってすぐ、片山雅博たち昔の連中につかまる。もっぱら品田さんの『くもちゅう』フィギュアばなし。みんなが“てんとうむしの次はクモを作ってほしい”と言う中で片チン、“オレはさ、あのミノ虫、あれが好きなんだな、あれを作ってほしいな、それから、あのちゅうりっぷのお姉さんな、あれを……”私“じゃ、全部じゃねえか”。印口さんに“結局、あれ、まだ残っているの?”と訊かれるので、最後までいたわけではないが、開田さんの見たところではまだかなりあるようなので、ぜひ『まんがの森』で売ってよ、と言っておく。
何か客の面子がやたら濃くて、知り合いだけでも徳間のOくんやと学会のFKJさん、氷川竜介さん、加藤礼次朗夫妻、田川滋さん。角銅博之氏からは“あのSF大会の裏にああいうドラマがあったとは”と言われる。なみきといい、みんなこの日記を読んでるのだな。安田生命ホールは、席数350席。ちょっといま、ホールに関してはこだわっているので、いろいろと設備等を観察。使い勝手はべらぼうによさげであるが、また高そうでもある。スタッフは人数も多く充実している。やはりイベントは慣れだなあ。
上映会、ビデオでフランスのオタクフェスティバルでの原画展の模様や阿佐ヶ谷ラピュタでの追悼イベントの模様(アクションたっぷりにアニソンを歌う金田伊功が見られたのが収穫)、そして『キャプテンハーロック』第一話。休息をはさんでなんとCHICAGOの落語『オタク寿司』。ビデオ上映・トークのイベントに落語をはさむ、というアイデアは私がトンデモ本大賞のイベント用に温めていたアイデアだったんだが、なみきに先を越された。まあ、テストとしてやってくれたと思えばありがたいくらいなもので、意外に、というより当然に、ちゃんとマッチするものである。慣れない場所で(また落語に慣れない客の前で)多少アガリ気味だったが、堂々と演じていた。
休息が5分、というのもアニドウの上映会ぽく、懐かしい。客の都合より一本でも上映作品を多くしよう、というのである。続いては『マグネロボ・ガ・キーン』。ストーリィ展開が今みるとトンデモなまでに早い。そして小松原一男ゆかりのアニメーターさんたちのトークショー、というより並んで順に思い出を語ってもらうというもの。アニメや特撮がうらやましいのは、集団作業故に、このような現場を知るもの同士のつながりが密接で、才能あるものが才能あるものを称える、という、人を一番感動させる行為が自然に行われることだ。物書きや演芸のような個人芸にはこういう体験はあまりない。孤独な作業なのである。……私自身の小松原一男評はとりあえずは差し控える。なにせ、自分を構成しているエレメント自体を評するのはきわめてむずかしい。金田伊功になると、ちょっと一線を引いてモノを言えるのだが。
で、その後さらに『タイガーマスク』の最終回、そして友永和秀氏の結婚披露宴で『キャプテンハーロック』主題歌を熱唱する小松原氏の映像(二十年前のベータ映像がなんとか見られる状態で残っていた)を見て、未亡人を前に会場全員でその歌を合唱して終わり。……やはり、なんだかんだ言ってなみきはこういうイベントの取り仕切りをさせるとうまいわ、と思う(別にこの日記を読んでるからおだてているわけではない)。司会にアニメのことを何にもしらない、きれいなだけのおねえちゃんを使う悪い癖さえなくせばな、と、後で加藤礼ちゃんと話す。今日のような催しは客が全員オタクであって、オタクというのは知識のないヤツが出てくると、露骨にバカにする性質を有する。これだけ貴重な、というか滅多にスクリーンで見る機会のない映像群を前に、もっとびしばしと的確なコメントとばす人(と、いうかなみき自身)が司会進行を勤めないと、どうにも気が抜けたようなものになってしまうではないか。会場のテンションが、なみきが出てきたときとそうでないときで明らかに違っていた。……それにしても、アニドウのサイトで予告していたバラタックを上映しなかったのは納得いかないぞ、と、これも礼ちゃんと熱く(笑)文句を言い合う。
ロビーでCHICAGOと挨拶。“どういうルートでこの仕事来たの?”と訊いたらなみきがニヤリと自慢げに笑いながら、“そろそろこの才能をカラサワの呪縛から解き放たないとな”と言った。いやいや、別に呪縛しようとは思わないから、どんどん使ってやってください。田川センセイと礼ちゃん夫婦誘い、K子を携帯で呼び出して小田急前で待ち合わせ。K子、終映8時半の予定が9時過ぎたので、かなりオカンムリ。タクシー分乗して幸永へ。オタク談義に花を咲かせながら、ホルモンや豚足をむさぼり食う。田川センセイも40過ぎて、これまでまだ豚足というものを食ったことがない、と言う。礼ちゃん夫人のゴチちゃんもこのあいだ(後楽園の後だったか)初めて豚足というものを口にした、ということだが、案外多いのか。小松原原画の体の線の流れがどうのこうのとか、いろいろ。ゴチちゃんはちょっと呆れ気味。礼ちゃんは食ってる最中に前の犬歯の差し歯が折れて、マンガの自画像そっくりになった。レバ焼きで陶然。オタクばなしが遠慮なくできて、ホッピー2ハイ飲んで、ちょっと幸せな気分になる。