裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

2日

金曜日

ベンダサンの赤ちゃんが風邪ひいた

 みんなは早く湿布をしろと言いましたが、全員一致だったのでしませんでした。明け方4時起床。寝ぼけまなこで本など読んで、また就寝。8時起床。朝食の用意。昨日開けたカニ缶の残りでカニサラダスパ。果物はスイカ。日記つけて風呂入ってなどなど、如例。荷物が来たので見てみると、ナンビョーさんのサイトのメンバーのあのつさんからのお中元だった。彼は仙台で農業をやっているのだが、そこの畑で取れた野菜が段ボール箱いっぱい。ちょうどトイレ読書で『梅安最合傘』を読んでおり、隠居して百姓をしている元締の萱野の亀右衛門が梅安のところに、取れたての野菜を籠いっぱい持ってくる場面で“うまそうだな”と思っていたので、非常にうれしい。

 朝のうちに、ゆうべのIくんに書籍企画のモトのモトになるようなものをざっと書いて送る。Iくんは私の大学の後輩で、31歳。SF大会スタッフとして初めて参加したのがあのHAMACONで(そりゃ気の毒に)、私の企画含め、あの徹底的に混沌とした大会の雰囲気をSFの原体験としているという。こういう、微妙にゆがんだSF嗜好を持った人間を生んだ、ということだけでも、私のSF大会の十年はムダで はなかったな、と再確認した。

 朗読テープのマスターを作ろうとデッキをつないでいろいろやるが、どうも音質が極端に落ちてしまい、気にくわない。コピー会社に電話して、マスター作りはそっちでやってもらえますか、と訊ねると、こっちは最初からそのつもりだったとのこと。なんだ、昨日30分テープを苦労して探すこともなかった。“今日じゅうに持っていきます”と言って切る。しかし、その前にそろそろチラシ用の翻訳も済ませてしまわないとならぬ。チラシはうちでコピーするつもりだったが、K子が、コピー機のインク代が高いから、どこかの店にやってもらった方がいいと言う。そうかも知れない。これもネットで調べてみよう。ロフト斎藤さんから電話で、昨日の件、とりあえずその日はペンディングにしてもらう。

 翻訳作業、ザクザクと。ジャック・チックの英語は中学生でもわかるレベルの極めて優しいものだが、ときおり、極めてクセのある言い回しが出てくるので注意が必要である。とはいえ、これは教科書に使っても(内容はともかく)いいんじゃないか、と思えてきた。なんだかんだと時間とられ、3時までに一本、完成。昼飯が遅くなったが、パックご飯にシオカラ、まさ吉のお母さんにもらったほぐし鮭でお茶漬け。

 で、出かけようかと思ったあたりで、急に外が暗くなり、雷がバシャアッ、と鳴って、いきなりの大雨となる。雷はゆうべも少し鳴っていたようだったが、今日のはまた、凄まじい。どーん、どーんと高射砲が連発されているような音が響き、真っ暗な空に稲光が走る。夏や夏、という感じで、嫌いではない。もっとも、この凄まじい雷の中では、パソコンは怖くて使えない。電源切って、用心のためコンセントも引き抜き、ちょうど気圧の乱れで全身ドロのようになり果てたので横になる。一時間ほど、 寝るでもなく起きるでもない、朦朧状態。

 5時になって、やっと小降りになったので、鞄に元テープとシールの文案と、サイトからプリントアウトした店の地図を入れて、傘指して出かける。鶯谷町の、あの変てこりんなデザインの校舎のデザインスクールの先にある、Y技研という会社。こぎれいな建物だが、中はダビング機やテープの入った段ボール箱でぎっしり。上がることも出来ないので、積んである段ボール箱を机代わりにして、玄関に立ったまま手続きをする。スケジュールも余裕たっぷりである。朗読テープ販売は前からの計画だったが、いつもコミケ間際はゴタゴタとして、先延ばしになっていた。こんなんなら、もっと早くここを利用すればよかったと思う。代金を前渡ししようとしたが“いや、 品物と引き替えでいいですよ”と固辞される。

 で、ここからなら青山までも歩いて二十分くらいだから、散歩がてら買い物をしよう、と、雨の中を歩き出す。二十五年前はここらは庭だったから、とタカをくくっていたがいけません、カンが鈍って、すっかり道に迷い、気がついたら並木橋のあたりに出てしまっていた。古書店があったのでぶらりと立ち寄り、二冊ほど買って900円、支払おうと思ったら一万円札ばかり。老店主、“くずしてくるから”と店を出て行ったが、やがて“いやあ、今日はどういうもんだか、どこの店も大きいのしかなくて”と帰り、“代金は今度でいいから、それ、お持ちください”と言う。今度と言ってもいつ来るかわからないし、と言ったが、いえいえ、いいですから、と、900円分の本を押しつけられるようにして、タダで貰って引き下がる。Y技研といいここといい、金に淡泊なのが渋谷のこっち近辺の心意気か?

 結局、雨の中、なんとか歩いて青山までたどりつく。かなりバテたが、面白い散歩になった。紀ノ国屋で酒類など買う。帰宅、翻訳の続き。雨は帰ったあたりですっかり上がった。志水さんから留守録が入っていて、この雷のせいで(?)パソコンがまた壊れて通信が出来ない状態となっているので、緊急の連絡があったら電話でということを、と学会のMLに上げておいてほしいとのこと。さっそくアップする。しかし志水さんの家には、何かパソコン嫌いの霊でもとっ憑いているんじゃないかしらん。

 8時、夕食の支度にかかる。あのつさんから送られた野菜のうち、枝豆はざっと茹でて皮を剥き、薄口醤油と酒を入れて炊いたご飯が炊きあがる寸前に加えてむらした豆茶飯。キャベツは半分に切って、コンソメスープの素を溶かした鍋で煮る。柔らかくなってきたら、途中で肉屋で売ってる生のハンバーガーを投入。一緒に煮る。要するに、ロールキャベツをいちいち作るのは面倒くさいから、別々に一緒の鍋で煮て、一度に食べれば同じこと、という考え方である。こっちの方がキャベツをたっぷりと食べることが出来る。茄子は、厚めに皮を剥いて、皮の方だけを使う。もっとも非常に小ぶりな茄子なので、厚めに剥くともう芯しか残らない。これを繊切りにして、同じく繊切りにした羊肉(昨日の残り)と炒め、ロイヤルスープストックで味をつけ、片栗粉でとろみをつけて皿に盛る。チャイナハウスでよく出る料理で、確かあれは鹿肉を使っていたと思うが、羊肉のときもあった筈。火力が家庭のガス台では頼りなくて、中華料理屋のあの“爆”と形容される豪快な調理は出来ないが、わが家式に極めて薄味にしたところが、K子の気にいった模様。ビデオで、まだタリバンに破壊される前のバーミヤンの石仏などを見る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa