裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

火曜日

そのうち山頭火なるだろう

「金のない奴は来い俺もないが」「青い空白い雲なんとかなるだろう」とか書くと、自由律俳句に見えないことも。朝7時半、起床。目が覚めたのは5時頃で、股のところの筋肉が意思に反してピクン、ピクンと痙攣する。痛くはないが変な感じである。ボルタの電池の実験じゃないが、ゆうべも派手に雷が鳴っていたし、空気が帯電していて、それが伝わってピクンピクン動くんじゃあるまいな、などとぼんやり考える。またウトウト。世界中のこれまで記録された映像情報を全て収めているデータベースが手に入って、ヤッタ、と思うが、題名とかの書き込みがまったくなく、いちいち全部見直して整理分類しなくてはならぬということになり、ウンザリする夢を見る。

 8時朝食。ハムとマカロニサラダ、黒小麦のパンのトースト。果物はささきさんから貰った赤肉メロン。メールやりとり。テリー・ドリーのガチンコ兄弟は東京にいよいよ越してきた。彼らとの懸案になっている書籍企画、通すよう動いていかねばなるまい。宇多まろんはピンク映画の撮影があるのでコミケに行けませんと残念がっていたが、撮影がズレて来られることになった模様。彼女やベギちゃん使った書籍企画もちょっと考えている。怪獣論、戦争論と、年末から来年にかけてちとインテリぶった本を連続して出すので、バランスを取るためになんかバカバカしくてエロな本を、と思っていたのだ。ゆうべ野坂昭如を見て少しガッカリしたのは、70年代、この人を私的にカルチャー・ヒーローとして目標としていたのが、戦争という大きな“敵”と対峙する方法として、その当時のこの人が“不真面目”という価値観を貫いていたからだ。テレビで“ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか……”と下手糞なダンスを踊ったり、『四畳半襖の下張り』を雑誌に掲載して訴えられてみたり、突然都知事選に立候補してみたり。その行動の脈絡のなさは、“真面目でないと戦争は出来ない”という事実に対する、徹底したアンチテーゼだった。一時この人がエコロジーにはまって、“このままだと地球は破滅する”と騒いだときも、私は大がかりな冗談ととって楽しんでいたものだ。しかし、その後野坂氏は次第に真面目に国を憂いはじめ、番組で共演したとんねるずの無礼に怒ってみせ、そして昨日の番組で、ひたすら真摯に戦争の悲惨さを語っていた。要するに“敵にからめとられた”のである。真面目というのは視野狭窄の別称である、とは常々この日記でも私が言っていることだ。あの景山民夫ですら、宗教に脚を踏み入れた途端、茶化しを許さぬ真面目思考になってしまった。最近でも、ごく身近だった人物がいきなりこの真面目思考になり、ある件で話を進めていたとき“くだけすぎはよくない”とか言いだして愕然としたものだ。真面目の呪縛というものは極めて強い。特にそれが、戦争、テロ、神、アイデンティティなどという問題であったとき、人はどうしても真面目という視野狭窄に陥る。無理にでも茶化し、不謹慎にし、ジョークにして相対化する必要があるのである。もちろん、真面目の必要性は十分にも十二分にも認める。真面目になれない、というのもこれまた考え物である。だが、それと車の両輪のようにして、不真面目もまた、視野の中に置いておかねばならない、と常に思う。真面目な本を連続して出した後は、徹底してバカな本を出してみたくなるのである。

 昼は金沢のハチバン冷麺。これで食い尽くした。Web現代をやろうとしたが、編集Yくんからスケジュールのメール、すでにお盆休みに入っているのでやや、〆切が延びる。なら、とアスペクトの『社会派くんがいく!』ネット対談原稿チェック。世間の関心事のあまりの移り変わりの速さに、ネット対談でもやはり、古くなった話題が多々、ある。このときはコスモス事件で騒いでいたのだな。自分で言った“コスモスは怪獣を殺さないウルトラマンだったけど、次のウルトラマンは、「怪獣から金をとる」ウルトラマンでどうだろう。ビル壊した損料を怪獣に請求するとか、地球征服しようとした宇宙人から賠償金とるとかして、自分の口座に振り込ませる”という発言に笑ってしまう。この対談のあとすぐ、コスモス関連の話は急速にしぼんでしまったので、話題が出ることもなく、自分で言って自分で忘れていた。

 3時、時間割で二見書房Fくんと打ち合わせ。出かけようとしたとき、平塚くんから電話。例のペーパーの翻訳に、まだひとつ、ヌケがあったということ。あわてて訳して、メールする。訳文を置くスペースが極めて小さいため、大幅に意訳して、字数内で意味を通じさせるようにする作業が困難である。それらを15分で済ませ、急いで時間割へ。Fくん、やっと二見での仕事になじんだ風だが、前会社とのからみでいろいろゴタゴタもあるようである。大変だねえ、と話す。怪獣論、今朝、これまでに書いた怪獣関係の原稿をざっとメールしておいたのだが、それでもまだかなりの分量を書き下ろさねばならぬ。効率的な方法を話す。Fくん、戦争論にも興味ある模様。そのあと、それからそれへと雑談。例のバカ本、ちょっとフッて様子を見てみる。本来は別の出版社(F社あたり)を想定して立てていた企画なんだが。

 打ち合わせ終え、六本木に出る。暑いのなんの。銀行に寄り、ABCに寄り、明治屋に寄って買い物。その後タクシーに乗り、鶯谷町につけてもらい、朗読テープ、出来上がりを200本、受け取って自宅まで運ぶ。まあ、思ったより軽いが、それでも200本のテープというと相当なもの(次回はCDにしよう)。今回は荷物も多し、運搬のスタッフも増えたしで、ネットで探して、コミケ当日のワゴンタクシーの予約 をする。年々、大事になっていく。

 8時半、大急ぎで夕食の支度。簡便鯛チリ、ねぎま、松茸(1パック450円の中国産)と牛肉のバタ炒め。9時、K子と夕食。いろいろと人のうわさ。ビデオで『江分利満氏の優雅な生活』。映画そのものはもう何度も見ているので、昭和30年代の東京風俗の記録として楽しむ。桜井浩子、二瓶正也、西条康彦といったウルトラシリーズでおなじみの面々の顔も若々しい。天本英世は江分利の同僚のイラストレーター(柳原良平)の役だが、どう見ても殺し屋に見える。

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