裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

火曜日

ウゲッ!物語

 え、死体にキスしながらずっと添い寝? ウゲッ! 朝、7時前に起床し、長文のメールを書く。イベント関連。出したのは朝食後。朝食はコロッケをトーストにはさんで。食い終わってまたメール。コミケまで仕事を放っぽりだしていたのでそれへの陳謝と、スケジュール確認。廣済堂Iくんからは定時催促。あと、NHKFMのディレクターから出してくれと頼まれたプロフィール。東文研の会計事務所通しで来たと いう、珍しい仕事。

 午前中、ゆうべの酒が残っているような感じで、やたらノドが乾き、水をがぶがぶと飲む。気分が落ち込んでみたり、昂揚してみたり。扶桑社のトンデモ本シリーズの候補作を読む。今日も暑くて汗をかき、キーボードのホコリ掃除用のスプレーを顔に当てて吹き付けて涼んだりする。と学会MLではすでに次の例会の二次会の参加者の受付を初めている。祭はまだまだ、終わらぬようである。

 1時半に家を出て、まんだらけ並びの博多ラーメンの店で冷やし博多で昼飯。甘くて閉口。食べていたら、ひとつおいた隣の席での会話が耳に飛び込んでくる。
「昭和のガメラなんか最低で、バルゴンとか、出てくる怪獣がみんな脚を折り曲げた四つ足でね。あれは海外でも上映されているそうだけれど、日本の恥だと思うな」
 当然、こういう会話は耳がピクンと動く感じでチェックが入る。見ると、三人組の客がラーメンを食べ終わった後もえんえんと席で会話に熱中している。大デブ二人と中デブが一人で、大デブの一人が識者、という感じで怪獣映画に対する批評を述べ、後の二人はうれしそうにその話を傾聴している。ああ、典型的な怪獣オタクだな、と思っていたのだが、それから先、聞こえてくる会話がどうも、気になって仕方ない。偉そうな大デブの話が、いかにもオタクぽい表情と話し方のくせに、何かウスいのである。

「……アメリカじゃさ、ぬいぐるみなんか使わないで、みんな人形のコマ撮りアニメなんだよね。ゴムで出来た人形をさ、ひとコマひとコマ、少しづつ動かして撮影するんだよ。手間はそりゃ、すごいもんだしさ、ちょっとでも人形が転がったりすると、また一から撮り直しなんだもの。金も時間もかかるけど、出来たものは見事だよ」
 何十年前の話をしているんだ、オイ、という感じである。
「ゴジラはね、数作め数作めで第一作のシリアスにもどるという法則があるんだよ。知ってた? 前作の『怪獣大戦争』でシェーなんかさせるまでになったんでね、次の『南海の大決闘』はむちゃくちゃシリアスなドラマ仕立てでね」
 ……そうだったかあ?
「そもそも、あのオキシジェント・デストロイヤーってのはさ」
 ……“ト”ってなんだ、トって。オキシダントとゴッチャにするな。

 聞いてる連中も同じくウスい。
「あの、ガメラ3の監督が撮った、今回のゴジラね、あれは最低。話が話になってないんだな。ドラマ部分と特撮がかみ合ってないというかなあ」
「あ、だから今度公開されるゴジラ、あれ、また監督が元にもどるんですよ」
「へえ? 本当? 橋本監督かい?」
「いえ……あ、そうだ、大森一樹ですよ!」
 二十代の私だったらドン、と机を叩いて立ち上がり、訂正に向かうところであったろうが、今ではこういう会話が実に微笑ましく響く。思わず箸を置き、皿の方に目を落としながら、クックッ、と笑いを噛み殺す。別に彼らはオタク評論を書こうというのではない。こんな会話しているオレたちってマニアだなあ、という自己満足感にひたりながら小一時間を過ごすなら、このくらいで十分なのであろう。……ただし、私がこのウスさを気にしたのは、彼らの外見ゆえである。これが一般の学生風、もしくはサラリーマン風なら、この程度のウスさでも、何の支障もない。だが、彼らを見ると、一般社会ではまず、友人とか恋人とかにあまり恵まれないであろうという体型と服装センスだ。オタク界ならば、別段目立ちもしないのであるが、逆にそっちの方に深入りしようとすると(彼らはそのつもりなんだろうが)、今度はコア・オタクたちに、そのウスさを糾弾されてはじかれてしまうだろう。……それにしても、自分の回りにいるのが濃すぎるような人たちばかりなんで、オタクと言えば当然これくらいのレベルという線を高く置きすぎる傾向がある。怪獣酒場に集まるような面子が基準、などと思っていてはダメなのだなあ、としみじみ思ったことであった。

 こんなことに気をとられていて、少し店を出る時間が遅れる。大慌てでハチ公前、石原伸司さんと待ち合わせ。このあいだと同じルノワールのこのあいだと同じ席。石原さん、K出版と縁を切ったといい、社長に書かせた一筆のコピーを見せてくれる。今は『コミック・GON!』でマンガの原作、そのうち本誌にも載るという。雑誌での展開はミリオンにまかせ、私は単行本の件を進めようと思う。資料その他をまとめておいてくれるように頼む。

 銀行で記帳。今年は本当に金づまりである。まあ、使いすぎるからなんだが。そこから六本木に出て、明治屋で買い物。ABCに立ち寄るが、すぐ出る。9時過ぎまで家で仕事。ドゴドゴドゴ……と音がするので雷かと一瞬思ったが、神宮の花火大会の日なのであった。夕刊読む。埼玉で、シャモ賭博を開いて逮捕、と言う記事。闘鶏用のシャモを育てるのはなかなか難しいと聞く。マニアは意外に多く地下に潜んでいるのではないか。スターウォーズのスカウトウォーカー(別名チキンウォーカー)同士を蹴り合いさせて戦わせる、シャモウォーカーというのを、『帝国の逆襲』見て思い ついたことがあったな。

 手紙類届く。このサイトからもリンクしている、私の著作のデータベースを作ってくださっている、と学会員の久留賢治氏から結婚報告。めでたいことである。お祝い申し上げます。あと、おおいとしのぶ君から、例の『ネクロマンティック』のブートゴレット監督の離日前の会合にこないかとの誘い。時間の関係でダメなのだが、それはズラせられるということになり、じゃあということになってまた電話あり、結局ズラせられなくてダメとのことに。

 9時45分、すし処すがわら。数ヶ月ぶりになるが、ちゃんと例の8本指(両手の小指がない)ヤクザのおじさん、連れと一緒に来ている。すがわらは明日から盆休みだそうで、危なかった。8本指氏は、5日間もこの店が休むと聞いて、“5日も、どこでメシ食えばいいんだ”と困っていた。ホント、毎日来ていると見える。連れの男は50代のやせぎす(左談次がも少し老けた感じ)で、8本指氏は大デブであり、極楽コンビのよう。白身、甘エビ、コハダ、シマアジなど。アナゴが絶妙な焼き加減。おかわり頼もうとしたら、もう終わりと言われた。残念。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa