裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

火曜日

動物化するホストモダン

「ケダモノみたいな男の子ばかりよ、あの新しい店」

※『社会派くん』原稿チェック 『パチスロNEO』原稿

朝10時過ぎまで寝てしまう。
そろそろ血圧降下剤は抜いてもらうべきかも。

朝食、パックのサツマイモと黄ニラスープ。
この取り合わせは食文化研究の石毛直道氏の著書で
覚えたもの。

最近、トンデモ科学や宗教バッシングの書き込みをあちこちで
見かけるが、どうも面白いものが少ない。
もともと、と学会に入るくらいで、トンデモほど
面白いものはない、と思っている人間にすれば、
トンデモ的思考にこそ人間の本質がかいまみえているわけで、
その格好の観察機会をつぶしてどうする、という
気になる。と、いうか、戦後の迷信追放運動から始まる
“科学的思考の普及が人間を賢くする”という考えは、
少なくとも戦後65年の現状を見る限り間違いであったという結果が
出ていると言っていいだろう。
人は変わらずやくたいもない神様や御利益を信じてしまう
生き物なのであり、占いに走り、UFOを見てしまう生き物なのである。
まあ、それを無闇に敵視する思考もまた観察対象ではあるけれど、
少なくとも社会正義的な観点からこれを追放する、といった
主義みたいなものがかいまみえる論説はツマラない。
“こういう非科学的思考を放置するとカルト宗教が生れる”などと
いう春秋の筆法で言うなら、そもそも初日の出を拝む善男善女から
批判しないといけまいが。

昼食如例。煮豆腐、自家製クサヤ、ホウレンソウおひたし。
ご飯一膳。クサヤ旨し。このレシピは発表すべきであるな。
さくらや二月で全店閉店とか。上京したとき、いわゆる東京の
騒がしさのシンボルが新宿東口のさくらやの
「♪安いよ安いよ断然安い〜安い衝撃ぐっとくる〜
ああセンセーション〜」
というテーマソングだった。その後ずいぶんソフトに変わった
テーマソングの歌詞がよく聞き取れず気になって仕方がなかった、という
話は以前この日記に書いたと思う。
「お気に召すまま御覧下さい」
を“おきにめ”“すままご”“らんください”と切ってメロディに
乗せているので、なんべん聞いても日本語として理解できなかった
のである。

後から聞いた話では、このCMソングが変わったのも、安売り競争で
ビックやヨドバシに追いつけなくなり、安さを売り物に
出来なくなったため、とのことである。本当だとしたらこの時点で、
すでに今日の伏線は張られていた、というわけだ。

『社会派くん』旧臘末の対談のテープ起こし出来。
ざっと手を入れて編集部に返す……つもりが半日仕事になる。
家を出ての予定が全部キャンセル。
と、思って予定表を調べたら……うわあ、昨日の芦辺さんの奥様の
コンサートをうっかり忘れていた。NCの葬儀のお花のお礼も
言わねばならなかったのに。申し訳なし。

その後ずっと仕事机の前に陣取って原稿書き。
トイレ以外立ちもせず。
社会派くん終えてメールし、その後、すぐ続けて白夜書房の
パチスロNEOの原稿。
全部アゲたのは9時過ぎ。ふう。

気分を変えてサントクに買い物。
明日が臨時休業日だと店内放送していたので、二日分を
買い込み、大荷物。

ピェンローを作りながら、気分転換で9月の芝居のキャスティング
を再考する。意外なキャスティング自体が常連さんにはサービスに
なる、と考えつつ、しかし期待値にも応えなくては、と考える。
あっちの役をこっちに回して、とあれこれ試してみるのは小説には
ない楽しみ。これは不動だろ、と思っていた役者に思いもかけぬ役の
アイデアが浮かび、その役でのやりとりをちょっと思い浮かべたら、
それだけで吹き出してしまった。

メガフォース隊長さんからメール。
俳優・奥村公延氏旧臘24日(イブの日か)に死去、79歳。
飄々とした風貌と演技で、大好きだった俳優さんである。
特撮ものなどで子供の頃からその顔に接し、
「いい役者さんだなあ、もっと大きな役で出て欲しいなあ」
と思っていたら、思いもかけず伊丹十三の『お葬式』の死体役(!)
でブレイク。その後、さまざまな作品で変わらぬ飄々たる演技を
見せてくれていた。あと10年はそのキャラクターを楽しめると
思っていたのに、無念。

最初に印象に残ったのは『悪魔くん』の、『モルゴン』の回の
モルゴン使い。モルモットに愛を注ぎ、実験動物として殺される
モルモットのうらみをはらすため、モルモットを巨大化させ、
妖怪モルゴンとして科学者たちを惨殺するというシュールな役で、
この時すでにずいぶん老けた顔だったが、まだ36歳。
http://www.youtube.com/watch?v=zCHesVptAlw&feature=player_embedded

『お葬式』では映画の冒頭で、アボカド、ロースハム、うなぎと
いう変な取り合わせのご馳走をさつま白波のお湯割でつつきながら、
「わしもそろそろマンションでも買って若い愛人でも囲おうと思うが
どう思うか」
などと老妻(菅井きん)にぬけぬけ話すシーンがある。
伊丹映画にはその後毎作、ヘンなキャラクターを演ずる俳優が多々、
登場するがその第一号である。この映画で“日本一の死体俳優”
という有難い(?)肩書きを受け、伊丹監督から
「あなたは長生きしますよ!」
とお墨付きを貰ったそうだ。確かに79歳という享年に不足はないが
せっかくの老け役俳優だったのだ。せめて90歳くらいまでは
老人役を演じ続けてほしかった。

大河ドラマから特撮作品まで、その出演作は幅広い。ヒーロー
ものではさっきの『悪魔くん』はじめ『マグマ大使』『ウルトラ
マン』『ウルトラセブン』『ジャイアントロボ』『仮面ライダー』
など、並べると昭和の特撮ヒーロー史が書ける。
『好き!好き! 魔女先生』では用務員のお爺さん役だったが
このとき41歳、やはり老け役だ。
『ウルトラセブン』では珍しく老け役ではなく、なんとあの
幻の12話でスペル星人の役をやっている。

そう言ったヒーローものの集大成が『爆竜戦隊アバレンジャー』
における謎の老人・杉下竜之介。この時実年齢74歳、やっと役
と年齢が一致したが、そうなると不思議なもので、パナマハット
に白いジャケットなどを羽織って、いやにしゃれた、若々しい
爺さんであった。

生涯一脇役、のイメージが強い人だが、2000年には
ちょっとブラックなロードムービー『ホームシック』で主役まで
つとめている。俳優としては幸運な人生だったと言えるだろう。
半世紀近く、僕らを楽しませてくれてありがとうございます。
黙祷。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa