裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

水曜日

ウルトラQ『クラタマ』

隕石みたいに目の前にだめんずが……。

※講演打ち合わせ

9時半起床、ベッドで井上寿一『吉田茂と昭和史』(講談社新書)読む。
山田風太郎や古川ロッパの日記などまで参照するのはサブカル世代の
学者らしい(1956年生まれ)博捜主義で好感あり。
ただ、内容の価値とはまったく関係ないのだが、西園寺公望のことを
文中“元老”とのみ記して、
「元老は言った」
「元老の秘書が」
とか書くのは(確かにこの時期、西園寺はただ一人の、そして最後の
元老ではあったが、“元老”が人称に変わる地位代名詞として
定着しているとはちょっと思えず)、読んでいてやや、違和感。

気圧乱調、そのせいか朝からテンション変な感じ。
朝食、でんすけスイカ、さしも巨大なスイカも今日で最後。
自室に戻り、日記つけ。
夢の内容をメモに書き留める。
今朝の夢はこんなの。
今朝の夢。
田辺茂一(紀伊國屋書店の創業者。生前は文化人のパトロンとして
有名だった)が友人たちとスペインの海岸が見える城のような
ホテルでカクテルを飲むCM。
カクテルのレシピは大きなグラスにかき氷を詰め、中に上三分の一を
切ったブラッドオレンジを丸ごと埋め、スプーンでその中身を潰して
果汁を絞り出す。その上にテキーラと香り付けのブランデーを少々。
これを飲んでいるのをテレビで見た私はうまそうだなあと思い、
せめても気分を出そうと、住んでいるマンションから出て、
夜明けの薄明かりの中、無人の路上でこれをぐいとやる。
何故かマンションは四谷見附あたりに建っていた。

……夢の記録は何の意味もない無駄なものだが、夢日記を続けて
読んでいると、何か自分の現実の存在と全く別個の世界をのぞき込んで
いるような気がする。実相寺監督の絵入りの夢日記はぜひとも
出版してもらいたい。電話ボックスのテレクラチラシコレクションも
そりゃいいけど。

メール連絡、文庫の件(別の文庫の件ではチェック用原稿も送られて
きた)、打ち合わせの件、そのための叩き台原稿も書かねばならぬ。
記ばかりおたおたして全然手元の仕事進まず。どうすりゃいいのよ。

結局、家を出るのが3時になる。今日は2時に出て銀座の画展に
立ち寄るつもりがダメになった。うーむ。
銀座線某所で打ち合わせ、講演仕事。
Kさん、いろいろと提案してくれたものにこちらで用意してきた
案とジャストフィットのものあり、これで行きましょうと。
時期を今年終盤に決定し、いろいろと頭に構想を浮かべつつ帰宅。

K子が家を大掃除するので7時まで帰るなというので、買い物は
新宿から下北沢回って、そこのオオゼキで。
ネギの束買い物袋から突き出させて小田急線、丸ノ内線乗り継いで
帰宅。

8時半、夕食。釜揚げサクラエビ、茹で豚タン、北寄貝サラダ。
WHDジャパンから恵贈受けたDVD『ドラキュラの御子息』。

1952年のUK映画で、原題は『Mother Riley Meets the Vampire』。
主演のアーサー・ルーカンはもちろん男性だが、ライリーおばちゃん
というお婆ちゃんを持ち役にしていた。つまり、青島幸男のいじわる
婆さんや慎吾ママ、古くは柳家金語楼のおトラさん、藤村有弘の
エプロンおばさんなど、喜劇俳優のお婆さん役という伝統がイギリス
にもあったというわけ。モンティ・パイソンのメンバーが女装するのも
この伝統の上にあるわけである。

邦題はこの映画のアメリカ版タイトル『My Son, the Vampire』
からだろうが、これは内容にも全くリンクしていない。
きっとアラン・シャーマンの新曲を、ベラ・ルゴシ出演作という
ことで無理矢理タイトルと主題歌に持ってきたんだろうと思う。
http://www.youtube.com/watch?v=MQ5ZZ3fEBdw

IMDbではこの映画、10点満点で2.4点しか与えられてないが
それは、せっかくベラ・ルゴシを出し、彼の世界征服計画やら
ロボットやらさまざまな伏線を張っておきながら、ラストにそれが
全く収斂せず、竜頭蛇尾で終ってしまうというところに原因がある。
とはいえ、これはライリーおばちゃんのドタバタさえ描けばみんな
満足、という喜劇シリーズの一環だったわけで仕方ないだろう。
マニアはつい、こういうネタだと期待しすぎてしまうが。
珍品として見ればかなりの拾いもの。

話の中で、おばちゃんが(たぶん吸血鬼のエサとして太らせるために)
ステーキとレバーばかり食べさせられてヒイヒイ言うギャグがある。
この映画の公開時、1952年にはまだイギリスは大戦の影響で
食料不足が続き、食料は配給制だった。ステーキとレバーはもう
結構、というのは凄まじい価値の転倒ギャグだったろう。

大戦をはさみ、15年間にわたって15本作られたこのライリー
おばちゃんシリーズの、この作品は最終作のようだ。
2年後の1954年にルーカンは死去。さらにその2年後の56年、
ルゴシも死去。そう思ってみると、この陽気なドタバタ喜劇も
ちょっとしんみりしてくる。監督のジョン・ギリングのみはこの後
出世(?)してハマーで『妖女ゴーゴン』とか『吸血ゾンビ』とかを
撮るわけだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa