裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

土曜日

ウナサレテ東京

 悪夢の中でザ・ピーナッツが襲ってくるんですよ! 朝、みずしな孝之氏のサイトをのぞこうとしたら政府から妨害が入るという変な夢を見る。目が覚めたら7時半、入浴は後回しにする。食堂に行く。昨日、母が三時間かけて組み立てたというテレビ台があり、そこにテレビを乗せ、ビデオとDVDデッキを収めて配線するという作業 しばらく。朝食はクルミ入りキャベツサラダ、黒豆、野菜コンソメ。

 菅直人氏が文珍の番組に出ている。奥さんまでを引っ張り出して釈明しているが、言い訳すればするほど立場が不利になる、となぜわからないか。確かに、菅氏の場合(その言い分を信用するならば)悪質なわけでもなんでもない。ウッカリミスによる支払い忘れである。言い訳したくなる気持ちは十分にわかる。しかし、人には立場というモノがある。未納追求の先頭に立っていた本人に未納があった、とわかった時点で、これは天が自分に味方しなかったと諦めて、さっさと腹を切るべきであった。運が悪いときだって人間、あるのである。ところが、それをせず、与党と同じ、いやそれ以上の執着を見せ、あまつさえ福田官房長官の辞任を受けてまでなお、党首の地位に固執する言辞をくりかえすというのは、自分からドブの中にダイビングしているようなものである。政治的センスがゼロである。なんべんも言うが、世間は正しいか正しくないかではなく、態度がいいかどうか、それでモノゴトを見るのである。

 新聞にはマイケル・ムーア監督の新作がディズニーの配給拒否にあった、という記事。あやしいねえ。そもそも第二次大戦時にあれだけ国策アニメ作りまくった、社是としてアメリカ万歳のディズニー社が、マイケル・ムーアの作品を配給しようと本当に思うだろうか? 申し込んで断られることを箔付けに利用したんではないのか(などと思ってサイトを検索したら、やっぱりムーアのヤラセであったことがバレており ました↓)
http://abcdane.net/archives/001058.html
 ムーアらしいと言えば言えるのだろうが、やはりこの人のブッシュ叩き権力叩きは商売でやっていたことなのだな、と確認。日本の知識人はムーアを持ち上げすぎ、と思っていた私にはちょっといい気分のニュースであった。この件でディズニーを
「アメリカの単独帝国主義思考の権化であることを私はことあるたびに触れてきた。その本性がいよいよむき出しになってきた」
 とか日記で喚いている勝谷誠彦さんの立場は如何に。

 入浴して8時半にゴミを出し、出勤。イレギュラーな時間帯なので地下鉄で。新宿駅地下通路で、プーなおじさんが、あれはパーティ用品なのか、『銀河鉄道999』のメーテルのカツラつき帽子をかぶって歩いているのを見かける。優男のプーなので妙に似合っているのが可笑しい。通路の鏡の前で、ちょっとカツラの髪をいじってい るのを見て吹き出しそうになる。

 薬局で薬品類買って、タクシーで仕事場へ。小型タクシー乗り場でミニワゴンのタクシーに乗ったのだが、これがおそろしくおんぼろな車で、客席の椅子はタバコの焼け焦げがあちこちにあり、破けたところをガムテで補修し、助手席の背についているつり革もビニテでぐるぐるに巻かれて補修され、料金支払用の小皿も半ば割れているという有様。エンジン音も凄まじい。運転手の初老のおじさんはまあ、小ぎれいな人だったが、到着して料金支払い、“すいません、領収書を”と言ったら、発券機がなかなか動かず、運転手さんが、ポンポンと機械をひっぱたいて、やっと動き出した。マンガみたいであるが、本当の話。こういうのを画竜点睛というなるべし。

 仕事場で日記つけ、雑用すまして、参宮橋に。道楽でミソラーメン。何故か店内に60代くらいのブルーカラー老人たちいっぱい。なにか集会でもあったか。ここの店のラーメンはかなり脂っこいので老人たちには腹にもたれると見え、ほとんどが半分くらいで残している。支払いのとき“ジジイなんで、全部食べられなくてゴメンね” と謝っている人もいた。

 そこから渋谷駅までバスで戻り、半蔵門線で神保町まで。古書会館にて城北池袋古書展。城北系の古書市はちょっと私のイロには合わない(雑然としているのはいいのであるが、その雑然の方向性があまりにとれていないというか)のであるが、今日はなかなかいいものがあり、あれもこれもと買い込んで両手にいっぱいの荷物となる。4万弱のお値段。今日は他のところには寄らずまっすぐ帰宅す。行きがけは天気が極めてよろしく、汗ばむほどだったが、帰宅途中から曇ってきて、急に薄暗く、肌寒くなる。畳の部屋にマットレスを引き、横になって今日の“戦利品”チェック。戦前の海外奇譚集などに目を通すうち、グーと熟睡してしまう。

 目が覚めたら6時過ぎ。あわてて書き下ろし原稿のチェックなどする。雑々した用事をかたづけているうちに、8時過ぎてしまい、昨日届いた釜飯セットひとそろいの箱を抱えて、タクシーで新中野に帰宅。井上のカオル、マコトの姉妹と、そのボーイフレンド二人が来ていた。カオルは年下のコピーライター、マコトは十いくつ年上のアメリカ人。この二人を、母は親戚中で一番というくらい可愛いがっており、ボーイ フレンドたちにもせっせと御馳走を作ってもてなしている。

 この二人は昔、まだ少女だった頃は、親戚一統中でも図抜けたお嬢さまであった。父親がうちの一族としては異質な、ベンチャー系指向のある人物で、ダイエーから出向して、神戸のサンテレビの局長になり、さらに自分で会社を興して札幌でビル経営に乗り出した。サンテレビ時代、六甲山中の彼女たちの家に泊まりがけで遊びにいったことがあった。裏庭のテニスコートでこの二人とバドミントンをした記憶がある。神戸の山々に囲まれた白い住宅のコートでラケットを振っている二人の美少女という姿は、まるで古くさい少女マンガみたいだった。……ところが、必ずお嬢さまには悲運が降りかかるのがお約束の古い少女マンガを地でいって、父親がバブル崩壊で破産して雲隠れし、彼女たち二人はまだ中学生と小学生の若さで、人生の苦労をイヤというほど味わうことになる。私など、彼女たちに比べれば、何の苦労もなくノホホンと育ったお坊ちゃんに過ぎぬ(それからあと、オノプロ騒ぎで苦労はイヤというほど経験することになるけれども)。今、彼女たちが連れてきたボーイフレンドたちは、いずれも底抜けに善人ぽい好漢だが、いわゆる生き馬の目を抜くようなところはクスリにしたくもない。彼女たちにとり、ビジネス方面のやり手などという人間は、もうホ トホト懲りているのであろう。幸せになってくれよ、と思う。

 彼女たちに出す御馳走のお裾分けにわれわれ夫婦もあずかり、メンチカツとサラダを食べる。それだけでは酒のアテに足りないので、鴨肉をちょっと付け焼きにしてもらう。お客の帰ったあとで、オムスビ一個。釜の使い方などをあれこれと話す。世界文化社の書き下ろし用のいい資料が古書市であったので寝ながら読もうかと思ったのだが、すぐダウン。タクシーの中でもアクビばかりしていたし、よほど疲れているのか、それとも気圧か。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa