裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

火曜日

ハイソもコソも尽き果てた

 まったく、あの上流階級の連中は! 朝、いかにも私らしい夢を見る。昭和レトロ風な温泉宿に泊まっていて、地下のお土産売り場に行こうと階段を下りると、荷物がその階段いっぱいに運び込まれている最中で、それにつまずいて階段をすべり落ちてしまう。怪我はなかったが、店の人が大変に恐縮し、“お詫びにこの売り場にある土産物でお好きなものをいくらでもお持ち下さい”と言う。見渡すと、キッチュな人形類やアクセサリー類がずらりと揃っていて、嬉しくなり、両手に提げる紙袋いっぱいに買い込むというもの。昨日のタントンマッサージのお詫び割引券の記憶なども入っ ている。

 7時10分起床。寝足りた感はあり。半、朝食。クルミとキャベツ・クレソンのサラダにビシソワーズ。米英軍のイラク人捕虜虐待問題は(英軍のものはどうも偽造写真の疑いがあるというが)異教徒に対するキリスト教徒の典型的な侮辱行為だろう。イラク戦争を“宗教戦争とみなしてはいけない”という識者の言があるが、私は従軍する兵士の意識面で完全な宗教戦争なのではないか、と最初から思っている。この戦争に大義がない、とマスコミは騒ぐし、それは一般的国際常識においてはまさにその通りなのであるが、キリスト教原理主義者にとっては、異教徒を責め滅ぼし、かつ侮 辱を与えることは、信仰者の大いなる大義である。
http://www.j-world.com/usr/sakura/other_religions/divine_murder.html
 ↑有名なサイトではあるが、ここでモーゼがエジプト人のジェノサイドを命じ、処女のみは兵士たちのなぐさみものとして活かしておくことを命じた件を読むと、なるほど、これがキリスト教の行動原理か、と納得できる。彼ら(イスラム捕虜への虐待者たち)は大谷昭宏が罵るような悪逆非道な人間なのではない、たぶん、きわめて敬虔かつ善良なキリスト教徒なのである(虐待した兵士たちは現役のプロ兵士ではなく予備役招集された社会人である)。自らを悲惨な戦況・環境の戦地へと赴かせるモチベーションに最も用いられるのは宗教的熱情だろう。それが彼らを狂わせる。“神”を持ち出して戦争を肯定する国においては、こういう事件は必ず起こる。一番のジレンマに陥っているのは敬虔なキリスト者であるブッシュであろう。……ちなみに、英軍の捕虜虐待について、産経新聞は英軍参謀長のマイク・ジャクソン将軍のことを、“マイケル・ジャクソン”と書き間違えていた。まあ、つい、間違えちゃうかも知れ ない。

 27分のバスで渋谷行き。書き下ろし原稿、ちょっととっちらかって手がつけられず。もう一度スケジュールを詰める必要あり。サイト日記の、新しい月の更新作業。これまでパイデザやK子にまかせてきたが、初めて自分でやってみる。最初やったら 『裏モノ日記』というタイトルが出なくてちょっとあせった。

 弁当、1時に。掻き揚げの甘辛煮。ガツガツと自分でも浅ましいと思うくらいに息せき切って食べる。それから午後いっぱいかかって、と学会東京大会の進行表作り。明日、最終下見なので、それに間に合わせねばならない。去年は会長と志水、皆神の三人にまかせていた候補本の発表とツッコミを、運営委員全員にフるように変更。

『ヤングマガジンアッパーズ』の『バジリスク』も、ようやく伊賀責めに到達して、終盤に。キーとなる荒寺の縁の板の腐りをああやって説明するのに大感心する。陽炎が腰巻きを身につけたままなのにはそれは、不満もありますが。“荒寺”に“あらでら”とルビがふられていたのにちょっと引っかかった。普通、“あれでら”ではないか? しかし、字義で言えば“あれ”は風雨が激しいこと、また肌理のあらくなること、また言動の猛々しいことを言い、“荒れ果てた”の謂いは“あら”にしかないので、“あらでら”の方が正しいとも言える。ちょっと“あらでら”の使用例を調べてみたい。とりあえずGoogleで検索したら泉鏡花の作品のルビが一件だけ、引っ かかった。

 8時10分に家を出て、バスに乗ろうとしたが寸前で逃す。仕方ないので、新宿までタクシーで出て、丸の内線で新中野。早めに家についたので、仕事場のテレビを置く台として買ったキャビネを組み立てる。その間、K子はネット接続の不具合の対処 策を、パイデザと電話で長々話し合っていた。

 9時10分、母子三人で晩飯。珍しくトコロテンなどが出る。酢醤油とカラシで。ビールのつまみにちょっとオツなもの。あと、アジの塩焼き、肉豆腐。アジは安物だそうだが、肉厚で旨し。連休もすでにバジリスクなみに終盤であるが、仕事が全然進んでいない。ちと反省する。遊んでいたわけではないのだが。K子は『白蟻』を読んでいるが、やはりツマラン、と。私の中では『白蟻』、『黒死館』以上のベスト作品なのであるが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa