裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

月曜日

大食漢鎌足

 しかしそちはよく食すことであるのう(天智天皇・談)。朝、7時半起床。朝食、今日からまた五郎島金時。甘さでベニイモに負けていないのが凄い。それと中華スープ。芋を食べるときは塩辛いスープを一緒に食べて、胸焼けしないように注意しないといけない、と、これは石毛直道の本で学んだ。

 読売朝刊国際面に、サウジの若手法学者ナセル・アル・ファハドが、“自爆テロはイスラムが禁じる自殺で罪であり、殉教にならない”と22日国営テレビで発表したとの報。この人はこれまで異教徒攻撃はジハードである、と主張してきた人で、それが寝返ったわけである。はたしてイスラム教国内であきらかにアルカイダが邪魔者あつかいになってきたことが如実に現れてきた。……ところが、このニュースを後で、ネットで確認しようとしたのだが、gooニュースで検索してもファハドのファの字もヒットしない。日本人はどうも感情的に、テロリストに不利な情報を今、耳に入れ たくないと思っているのではないか。

 とにかく、自爆テロ自爆テロとマスコミは言っているが、これはあきらかに特攻である。9・11のテロも、日本以外の全ての国のマスコミはあれを“カミカゼ”と呼んでいたはずだ。特攻は感情的には華々しく目に映るけれど、その実、国を愛する熱意ある者から順にどんどん死んでいくという、極めて非合理な戦法である。特攻の発案者の大西瀧治郎中将自身が“統率の外道”と自嘲していた愚行なのである。阿川弘之の『葭の髄から』(文春文庫)の孫引きだが、敗戦時の総理大臣だった鈴木貫太郎 の自伝にも、
「いやしくも名将は特攻隊の力は借りないであろう」
「こうした戦術でなければ、戦勢が挽回できなくなったということは明らかに敗けである」
 と書いてあるそうだ。アルカイダはその対米戦の発端から、負けているのである。

 朝、日記つけを後回しにして原稿。また資料本が山になる。しかし、全然別の原稿のために読んだ資料本の中に、と学会の次の本で私が取り上げることになっている本の著者に関する凄いコアな情報を見つけてしまったりして面白い。こういうときに、 脳内に凄まじい快楽物質が分泌されるのである。

 で、そういう快感を味わいたくて、次々にとめどなく本に手を出していくと、やがてどうにも身動きがとれなくなる。最近、小金が入ってくるので、ついつい、ネット古書店などで目についた面白そうなものは即、買ってしまうのである。これはいかんと思い、自粛を自分に言い聞かすが、言い聞かしたそばからもう、ウン万円もする画 集などを買っているのである。いかんいかんいかん。

 昼はウィダ・イン・ゼリーとイカセンベイ。発酵茶をがぶがぶ飲む。気圧大乱れ、肩がもう壊滅的に張る。これはかなわん、とマッサージ予約。仕事がまだあるのだが致し方ない。整体の先生がうひい、これはひどい、目から来てますねと、揉みながら診断してくれる。1時間揉んでもらうが、なんかあっという間に終わった感じがする のは、どこかでしばらく気絶していたのであろう。

 帰宅、またぐじぐじとネットで資料サイトなど見る。7時45分、K子とタクシーで東北沢、I矢、シラーの昨日の両名を駅で拾って、『和の○寅』。昨日まではこの店は利き酒の会だったそうで、まず、その余った酒を飲ませてもらう。純米吟醸百石酒屋の『おやじの手造り』という酒の平成14年製造のものと13年のもの。14年のものが何かかなり練れている、と感じたのだが、日本酒というのは年度がたつほどに、角がとれていき、まろやかになるものらしい。ワインの、古いものほどクセが出てくるのにくらべ、対照的なのが面白い。次が能登末廣斗瓶採り大吟醸『杜夢』というもの。“杜夢とジェリー”などとお約束でシャレる。今回いただいたのは、その平成14年、13年、12年。熟成させればみな均一の味になるわけでなく、その年の麹の個性などもあるのだろう、それぞれが独自のパーソナリティを持つが、13年のものが飛び抜けてユニークな味わいであった。さらに加えて、純米吟醸『拾年古酒』というのも味見させてもらうが、これはもう日本酒ではない、紹興酒に近い風味の、不思議な酒だった。

 この利き酒の間はものを口に入れず、紙コップの水で口中を洗浄しながら酒のみを味わう。K子だけは“私、ものを食べないとお酒は飲めないの!”と言って、料理を先に貰っていた。今日はI矢くんがレポートをするというのでこの日記ではくわしく述べないが、大根、シメジ、がんもどきの炊き合わせで、それぞれ別々に味をふくませている。例の辛子バターで味わうが、大根やがんもどきにバターという取り合わせ が非常にユニークで、しかも合う。

 あとはカリフラワに能登の味噌をつけたものと、豆腐、能登のサザエの干したものとワカメ(これが抜群の風味で、半乾きのワカメをむしって口に放り込み、噛みしめていると、ああ、これは卑弥呼の時代から日本人が食っていた食べ物だろうな、という感じがしてくる)。マグロのたたきに鯛や蛸のお造り、それから巨大なるタチウオの切り身の塩焼き。〆は塩昆布の茶漬けだった。この店はこのあいだかららでっしゅぼーやに入会したとかで、野菜が充実するらしい。らでぃっしゅぼーやは懐かしい。参宮橋に住んでいたときに私たちも入っていた。ときどき、オカヒジキとか、どういう風にして食べたらいいものか全く知らない素材が届けられて往生したが。今なら、インターネットで楽に調べられるだろうが。四人でさんなみ旅行の話などで盛り上がり、酒もはずむ。酒は伝兵衛という能登の酒。私は大吟醸などよりこういう方が好みなのである。錫の容器でぬる燗で飲むのが実にいい。うちでも欲しいね、いくらくらいするの? と主人に聞いたら、一個々々手で打って作っているとかで、かなり高価 なものだった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa