裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

日曜日

ぶおとこハム太郎

 ネズミみたいな顔だわ。朝、7時45分起床。朝食、ベニイモと中華風スープ。沖縄のベニイモはこれで食い尽くした。味がサツマイモ、食感がエビイモ(ぬめりのないサトイモ)というところか。実にうまかった。トイレで紫色のウンコが出たときに は驚いたけれども。

 ベトナムで13歳のホームレス少年を袋に入れて犬と偽り、レストランに売りつけるという事件。羊頭狗肉でなく狗頭人肉。あまりと言えばあまりのこと過ぎて、笑ってしまう事件であるな。日本の犯罪はどうもちまちまして話のタネにもならぬ。それにしても、いかにもアジアな事件である。『大地』でも、中国人の“腹を満たす”ことへのこだわりを克明に描写しているが、あそこまで描写にこだわるということは、欧米人である作者のバック女史にはそれが奇異か少なくとも特異なものに映ったのだろう。この形而下的こだわりある限り、アジア人はヨーロッパのような近代文明を築けないのではないか(近代文明はまずい食いものに堪えられる人種により築かれたものだ)と思うし、また、それ故に、この地球で最後に生き残るのはアジア人ではない かと思うのである。

 昼はウィダ・イン・ゼリーのマスカット味ひと袋。それではとても腹がもたず、ソウメンを少し茹でて啜る。私もアジア系である。食の快楽には抵抗しがたい。土曜に神保町で買ったいいだもも『世紀末への序章』(産報、1972年)をパラパラと読む。古書展で400円だった。案外高いね。いまどきいいだももの本など読む人がいるのだろうか。私が高校生時代にすでにこの人は革命に固執する進歩的知識人のミイラ、としか思えず、ただ当時の知識人に共通の、べらぼうな読書量による衒学趣味が面白くて読んでいた(この本にも、“蛇足”は正しくは“じゃそく”と読み、さらに蛇の足とされているものは悶絶前に苦し紛れに出す生殖器である、とかいうトリビアが満載である)。その後あいだももというAV女優が出たとき、私らは吹き出したものだが、それすらもう懐かしばなしになってしまっている。最後にこの人の本を読んだのは、確か97年の『20世紀の〈社会主義〉とは何であったか』(論創社)だったが、もうこの期に及んでという感じで、“資本主義の廃絶か、それとも人類の自滅か”とかとアジテートしていて、かえってこの人は伝統芸能の伝承者として今こそ価 値が出てきているんじゃないか、と思えたものである。
http://www.commirai.org/mirai-bn/bn2000/mirai17.htm
↑ここなんか読むと、オタクも、郵便誤配論もいっしょくたにして切って捨てていて
「さあ、“ごっこ遊び”はもうホドホドにして、みんなして生き生きと革命プログラム協議にとりかかり、自力更生をはかろうではないか」
 などと言っており、“元気だね”という感じで痛快。トンデモ本の痛快さだが。

 原稿、書き続ける。いろいろな本に資料として目を通す。机の周辺がたちまち本の山になる。使い終わったら元のところに返せばいいのに、それがめんどくさくて出来ないのである。私はかなり神経のスイッチング能力が高い方だと自負していて、一本の仕事を終えてすぐ次の仕事にかかったり、遊んでいてもすぐ仕事バージョンに自分を切り替えたりが(調子のいいときには)比較的楽に出来るのだが、この片付けの下手糞さはそれが裏目に出ているので、資料として本を使い終わると、すぐ、今度はそれを文章にする方にスイッチングしてしまい、書棚から出した本の方には意識が行かなくなってしまう。これを片付けるには“片付けモード”という新たな段階に自分をスイッチングしなければいけないのだが、そうすると今度は書けなくなってしまうん である。

 出来上がったところのみ、パイデザにメール。8時、下北沢『虎の子』で、ボジョレー・ヌーヴォーの会。さっきメールしたばかりのパイデザの平塚夫妻、I矢くん、それから遅れて角川のシラーさん。深紅のボジョレー、さわやかな香りと喉ごし。ただ、おいしいことはおいしいが、正直言ってそんなにこれに狂奔するほどのものとは思えない。四季があって、折々の“年中行事”が殊の外好きな日本人のオマツリ好み に合った、というだけのことではないか?

 料理はいつものメニュー。土手煮、ジャコと水菜のサラダ、タコとエシャレットのゆず胡椒和え、真鯛のカルパッチョ。それと黒豚肉のロースト。この豚肉が柔らかくて風味が抜群、豚とはかくもウマカリシかと陶然とするような味。秘伝がある、とキミさんがこちらの満足げな表情を見てホクソ笑んでいた。さあ、これからは能登旅行まで少し食い物の質を下げて備えよう、と言ったらK子が猛反対。一食たりとまずいものは食べたくないのだそうである。常夜鍋で仕上げて11時半、帰宅。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa