裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

日曜日

モーモー色吐息

 君のため息はミルク色。朝、8時起床。よく寝られた。朝食、セロリとトマト、それに小バナナ一本。ネットで、かなり遅れ辰巳四郎氏の死去を知る。8日に亡くなったらしい。gooニュースの訃報欄にも出てなかったので見のがしていた。つい最近まで椎名林檎の公演のポスターなどで名前を見かけていたので、実感がわかない。死因は何だったのだろう。装丁家としても名高いが、独特の、アクの強いタッチのイラストは一度見たら忘れられない。初めて辰巳四郎という名前を知ったのは、と学会の活動の元祖とも言える迷信・誤伝打破本の名著、B・エヴァンズ『ナンセンスの博物誌』の、大和書房バージョン(1971年。初刊行は抄訳・毎日新聞社1960年)での挿絵(装丁も)だったと思う。内容の面白さにハマって何十度となく読み返すたびに、その挿絵もまた脳裏に刷り込まれていった。極端にディフォルメされた、巨大な目玉のキャラクターたちが、今もなお目に焼き付いている。焼き付いているどころか、その本は常に私の仕事場の棚にあって、折に触れ読み返しているのだ。黙祷。

 10時ころ、母から電話。上京はやはり3月くらいになるという。あわただしいことである。しかし、それまでに本当に札幌の家が売却出来るのか。何にせよ、私には何もわからず。くわしいことはK子と話し合ってもらわないといかん。11時ころ、ミリオン出版Nくん来、『別冊GON!』のゲラを渡される。やはり文字がやたら小さい。『GON!』が出たときに、仲間内のジョークで“あの雑誌のゲラチェックだけはやりたくない”などと言って笑っていたものだが、目のかすむこの年齢になって 本当にやることになってしまった。

 12時ころから『フィギュア王』原稿にかかる。10枚半、イッキに書き上げるつもりでいたがこれが案外手間取って、結局3時15分までかかってしまった。まだ最終的な仕上げが出来ていないので、メールは明日にすることにして、とりあえずイラストのK子に送り、急いで支度をして家を出る。山手線で上野まで。と学会メンバーで上野の国立博物館見学をやっているのだが、その一巻きと合流して、『井泉』でと んかつオフをやろうという魂胆。

 4時の約束に5分後れで不忍口改札。この改札、以前は「不忍」が読みにくいというので「しのばず口」とひらがなで表記してあった筈だが、いつの間にか「不忍口」と正式な表記に戻っていた。地名は文化そのものなのだから、これは大変いいことである。銀座の勝鬨橋もいいかげん、勝どき橋などという情けない表記を改めればいい のに。同じくオフのみ参加のS井さんと落ち合う。当初の予定では博物館見学組が先に井泉に行っているので、後から合流、ということだったが、案外見学が長引いたので、ここで落ち合って一緒に行こうということになったとのこと。しばらく改札で待つ。夏コミで私のブースに来てくれて、自衛隊の火力演習見学のチケットくれた(私はスケジュールがあわなかったので友人にあげたけれど)というファンの人に挨拶される。さすが上野で、いろんな人に出会うことよ。

 落ち合って、井泉の方へ。見学団長のK川さん(博物館職員)、I矢さん、昨日一緒だったTくんなど、総勢9人。二階の座敷に上がって、生ビールとカニサラダ、串カツで乾杯。コンピューターばなし、と学会ばなしで雑談。『神は沈黙せず』は面白いけれど、また会長の悪いクセで小林よしのりシンパを刺激するようなことを中で書 いているので叩かれるであろう、というような話。某氏曰く
「大体、南京大虐殺完全肯定派っていうのはと学会の中でも会長くらいで、少数派なんですけどねえ」
 と。あと、会員の某氏が実は(外見からはまったくわからないが)かなりのいいとこのお坊ちゃんらしい、ということなど。カツの柔らかさは、さすがに皆に好評。

 出て、ルノアールでお茶をするというみんなと別れ、山手線で帰宅。仕事終わってすぐの生ビールで酔いが回り、少しウトウト。車中で西遊記の沙悟浄みたいな顔をした爺さんが、食パンを取り出し、その上ににマヨネーズを絞ってかけてムシャムシャ食っていた。浮浪者でもないようだが、帽子に黒づくめのジャンバー、ズボンという格好は私に相似である。大きなリュックに荷物を詰め込んだものを脇の席に置き、周囲の目も気にせず悠々とパクついている。学生時代、仕送りの大半を本と映画に注ぎ込んでいた頃に、私も似たようなことをしていたなあ、と懐かしく思い出した。あの頃は周囲の目を気にせず、したいように行動することがカッコいいと思っていた。あの老人はあの老人なりに充実しているのであろうが、自分もああなっていたかも、と 思うと少し怖い。

 帰宅、メール等をざっと確認して、少し横になったら、そのままグーと寝てしまった。起きるともう8時50分。あわててタクシーに飛び乗って下北沢『虎の子』へ。K子と待ち合わせ。さっきトンカツを食ったばかりだというのにもうお腹はすいて、地鶏の醤油焼き、じゃこと水菜と豆腐のサラダ、蛸とエシャロットのゆず胡椒風味、牛スジ煮、それと稲庭うどん辛ミソスープを。酒も磯自慢に吉田蔵で三回おかわり。ちょっと最近、いろいろ屈託があるので酒もすすむ。

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