裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

水曜日

てやんでぃ、こちとらジムノペディ。

 ちゃきちゃきのサティマニアでぃ。朝、7時35分起床。空は晴れているが肩がバリバリで体調最悪。豪貴の送ってくれた漢方薬で血圧に起因すると思われる頭痛や目の痛み、耳鳴りなどはすっかり改善。この肩は気圧のせいならん。朝食、リンゴとト マト、ピーナッツスプラウト。

 朝、たまっている仕事から何を先に片付けようかまるで判断がつかず、エイと最初に目についた、『裏モノ日記座談会』のテープ起こしの整理から始める。ざっざっと発言の内容をスジの通るように整理し、単なる相槌のような発言はカットし、つながりの不自然なあたりは並べ替える。美好沖野さんの発言が、このまとめでだいぶカットされてしまったので、1時、彼女にまず最初に、手を入れてもらうべくメール。

 昼は兆楽でマーボチャーハン。そのあと西武デパ地下で買い物。二十世紀があったので一個買ってみる。あと、発酵茶(@長崎飲料)が復活していた。以前、この売場から発酵茶を注文したら、“もうウチでは販売終了した商品ですが、デッドストックがありましたので”と一箱送ってくれたことがあった。それが効いたか、とも思う。あと、靴を買った。私は足の形がちょっと特殊なのと、そのくせ大足なのと、あとずぼらなのでとにかく“履きやすい!”ということを条件に靴を選ぶのだが、このあいだ、酒に酔って帰る途中でまだ靴屋が開いていたので買ったものは、やはり酔って買うとダメで、むちゃくちゃに履きにくい、足の形にも合わないものだった。大体、皮靴である。革靴は何足も持っているので、普段履きの、蒸れないメッシュのを買いに店に入ったのに、何故か革靴を買っていたのだ。同じ店だったが、今度はきちんと店内くまなく探して、履きやすく蒸れにくいものをみつけて買う。店員に“今、この靴をお買いになった方だけに特別サービス割引で……”とクツシタを勧められたが、いやいいです、と断る。それだけのことで“安易な誘いに乗らない、意志の強い私”に なったような満足感。

 帰宅。朝日新聞と共同通信から、それぞれインタビューに答えたものの掲載誌が送られていた。共同通信はあまりしゃべったことが取り上げられていなかった(まあ、こんなもんだろう)が、朝日は編集さんからの“面白かったので唐沢さんの意見だけで文字数の半分を使ってしまいました”と書かれている通り、60・70年代アニメやマンガの実写リメイク反対派として、私と庵野監督が対立しているような印象の記事内容になっており、庵野さんが“その気持ちはわかるが……”などと答えている。 大物になったような気分である。

 ちくま文庫のトンデモ落語本の座談会の手入れにかかる。日記座談会の方は編集のKくんが最初に形を整えていてくれたので楽だったが、こっちは語った内容ほぼそのまんま。いや、これでもちくまのMくんがかなりまとめてくれたもの。いかにあの日の座談会があっちゃこっちゃに内容の飛んだ、トリトメのないものであったかがよくわかる。スッキリさせるのに一大努力を要する。しかも、作業をしているうちに、体力がもう完璧にレッドゲージに入って、どうにもこうにも。ひととおり第一段階で原 稿をウォッシュしたところで放擲、新宿に出てマッサージ受ける。

 このマッサージ、もっと早くうけようと思ったが、どうも時間が合わず予約がふさがっており、三回連続でスカをくわせられた。今日は大丈夫。サウナに入ったら、頭をツルツルに剃って口髭を生やした巨漢の親父がいる。見ただけで、あ、ドイツ人だな、とわかるご面相。きっとオットーって名前に違いない、などと勝手に想像していたが、休息室で、フリッツさま、と呼ばれていた。果たしてドイツ人。

 マッサージは新しい先生。メガネの、あまり力がありそうでない先生だったが、指の力は強い。痛いほどにぐいぐいと凝りを揉みほぐしてくれる。凝るというより、カタマッているという感じなのである。一時間、徹底的にやってもらうと、全身の細胞 に酸素が回り始めたのが実感できるくらい、楽になる。

 終わった後、タクシーで渋谷。ハチ公口に、“地球の上で遊ぶ子供たち”とかいう気色の悪い像が新しく出来た。東横線乗り口でK子と待ち合わせ。8時半の通勤特急で武蔵小杉。これだと15分である。ちょうど新宿から阿佐ヶ谷まで快速で行ったくらい。で、そこから歩いて15分、30分で『おれんち』。まずサミュエルスミスのスタウト。サウナあがりの喉に極めてうまく、クイーッと入ってしまう。昨日が市場が休みだったために今日は大物がないとのことだったが、その代わり小ネタをずらりと並べてくれる。お造りはシマイサキとメジナ、メジマグロ、イワシ、アカメフグ、 それに伊勢エビ。海老は小ぶりだったが肉がピンクで、甘いこと。

 それから黒バイ貝煮、カナガシラの唐揚げ、素焼き、こまいの卵煮付け、食玩かと思うほどのミニ・風呂吹き大根(かつらむきにした後の芯を使うとか)、カブの葉の茹でたの、カナガシラを煮たスープが煮こごったもの、などなど、二十種類近くのものを、ホンのちょっとずつ、次から次へと出してもらう。いちいち、箸袋にメモをしていたが、酒がこういうものだからどんどんすすんで、何が何だかわからなくなり、メモごとどっかへ無くしてしまった。11時半くらいに打ち止めにしてもらい、さっきの海老の頭で作ってくれた味噌汁と、マグロの手こね寿司でご飯に。帰り道で、後ろから自転車に乗った若旦那が、忘れ物、とK子のデジカメを届けてくれた。まこと に申し訳ない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa